ICT時代の好機生かし切れないあの国立大、学長にビジョンを聞いた
無線電信講習所での創立から100年超、情報理工系に専門が凝縮された電気通信大学。特異なせいか、情報通信技術(ICT)時代の好機を生かし切れていない面がある。しかし連休明けの遠隔授業は予想以上に順調で、新入生は必修で量子×人工知能(AI)のさわりを学ぶ。「私は問題解決の先頭に立ち、膝詰めで意見を聞き、自ら汗をかく現場リーダー」という田野俊一学長に、社会の期待を具現化するビジョンを聞いた。
―ICTを不得手とする学生・教職員はまれ。遠隔授業で他大学の後塵(こうじん)を拝するわけにいきません。
「以前から年250科目あったが、全1500科目の対応だ。実施形態ごとのシステム厳選、全学生のウェブ訓練プログラムなど気を配った」
「驚いたことに直後から、ほぼ全員が問題なく取り組めた。全学生の1%、50人弱は心もとなかったが、電話で個別に対応した。今後の課題の教育効果を調べるため、eラーニングシステムを活用して教員や学生の意見など迅速に集めたい」
―政府の超スマート社会「ソサエティー5・0」の基盤技術すべてが、電通大ならそろうとか。
「まさに情報、通信、機械、物理の4専攻で対応でき、時代が追いついてきた。教育では必修科目でも不可を出すなど、学生を鍛えている。本学はAIを作って社会を変える人材育成で“量子AI”を目玉にする。AIによる推論や機械学習プロセスを、量子コンピューターで高速化する手法の概要を初年次に示し、地道な学びの動機づけにする」
―大学運営で挙げるダイバーシティー、コミュニケーション、イノベーションは、目新しさに欠けます。
「それぞれはそうだが、三つをつなぐことは大規模組織では難しい。本学の研究はアナログの電波から最先端レーザー科学まで、公的プロジェクトのパートナーは総務省に日本医療研究開発機構(AMED)、東京都と多様だ。イノベーションは多様な要素間の相互触発があってこそだ。小規模大学の弱みを逆手にとり、強く輝く未来を開く」
【略歴】たの・しゅんいち 83年(昭58)東工大院総合理工学研究科修士修了、同年日立製作所入社。96年電通大院情報システム学研究科助教授、02年教授、17年情報理工学研究科長。博士(工学)。宮崎県出身、61歳。
【記者の目/潜在力の“見える化”進む】
専門家集団の大学は、企業と違って規模によらず分裂しやすい。田野学長は以前から非公式に、学部長クラス幹部との意見交換・飲み会を月1回で開き、各部局が融通し合える関係性を構築してきた。大学発ベンチャーの経験もある。同大の潜在力の可視化が進むだろう。(編集委員・山本佳世子)