がんの早期発見技術、開発競争を制するのは米新興企業か日本の大手かそれとも…
がんは発見が遅れると予後が悪く、治療も難しくなる一方で、早期発見することができれば治療効果も期待され、治療負荷や医療費といった患者負荷も著しく改善する。
しかし現状世界に普及している従来型の技術では、がんの早期発見のハードルは高い。現在主流のがん検査は、検診などにおいて超音波検査・X線検査・内視鏡などを用いた画像検査を行い、疑わしい部位を生研(採取し病理診断)することで診断を行う。
検出の精度は高いものの、検出するタイミングでは一定程度進行していることが多い。費用や侵襲性も高く検診の受診率は国民の3割程度とされる。また画像検査と並行して行われる従来型の腫瘍マーカー検査(がん細胞に含まれるたんぱく質を検出する血液検査)は感度や特異度が不十分であり早期にがんを識別できるものではなく、がん種にも制限がある。
そうした中、がん細胞に特異的に含まれる、またはがん細胞が放出する微小物質を血液から検出することで早期にがんを精度高く診断する手法の研究が進みつつある。日本において先行するのは、がん細胞から血中に分泌されるマイクロRNAを検出する手法だ。
東芝らのグループが開発中の検査手法では、血液1滴から精度99%かつ13種類のがんを一度に検査できることが研究レベルで確認されている。今後実証実験を行い、近く実用化を目指している。そのほか東レらのグループ、その他複数のアカデミアや大学発ベンチャーにおいても研究が進行中であり、技術開発競争が激化している。
米国では、がん細胞が破壊された際、血中に放出されるctDNA(血中循環腫瘍DNA)を検出することでがんを早期に診断する手法の研究が進んでいる。DNA配列を安価に大量に解析可能とした次世代シークエンサーにより可能となったアプローチである。
この領域のトップランナーである米グレイルが開発中の検査手法は次世代シークエンサーによるctDNAの検出に加え、人工知能(AI)アルゴリズムの活用により検査の精度を高めている。検査可能ながん種の幅も広く、50種類以上に対応するとしている。同社は臨床試験を実施中だ。
こうした低侵襲、高精度、複数がん種を早期診断する検査技術は精度を高めながら、今後5―10年で社会実装されていくと考えられる。国民全体がこうした検査を定期的に簡便に受けられる体制が整うことで、がんは闘病し命を落とす疾患から、早期の発見と手術により完治させる疾患へ変化していく可能性もある。がん早期診断技術がもたらす社会的意義は極めて大きい。
(文=高橋政治・SMBC日興証券第二公開引受部IPOアナリスト課)