人気じわり…“聴く読書”オーディオブックは出版業界を救うか
【出版社の半信半疑】
出版業界はコンテンツが二次利用できる新たな市場としてオーディオブックに期待する。ただ、現時点でビジネスになっているとは言えず、今後、出版社の大きな収入源になる可能性については懐疑的な企業も少なくない。講談社(同文京区)はその一つだ。同社販売局デジタル第二営業部の冨倉由樹央部長は「(出版社の収益の一つの柱になるほどに成長する可能性は)半信半疑」と吐露する。
講談社は16年からオーディブルなどでの配信を始めた。KADOKAWAが自前で音声化して展開しているのに対し、権利を配信者に提供して音声化の作業を委ねる「ライセンスアウト」の形で取り組む。この場合、音声化の費用は配信事業者が捻出するのが一般的のため、コストはかからないが、売り上げに対する収益は低い。
冨倉部長は「オーディオブックの(大幅成長の)可能性は疑いつつも、いつか花開くかもしれない。出版社としてはそのときにタマを持っていない状況は避けたい。そのため、リスクがないライセンスアウトの方式で取り組んでいる」と説明する。
【「量」も「質」も足りない】
オーディオブックをより一般化する上で課題は少なくない。その中で、多くの関係者から最大の課題として上がるのが「コンテンツの量と質」だ。まだ利用者が選べる状況が作れていないという「量」の問題に加えて、新刊の発売からオーディオブックになるまでにかかる時間の長さが「質」の問題として指摘される。
オーディオブックは一般に書籍が出版されてから音声化の作業に入り、その作業は数カ月かかる。ただ、消費者の需要が最も高まるのは新刊が出た瞬間と想定されるため、オーディオブックは売れるタイミングを逃すことになる。「音声化には書籍の校了原稿が必要だが、日本の出版社は校了から出版までがとても短い。オーディオブックがまだビジネスになったとはいえない現状でその習慣を変えるのは難しい」(出版社幹部)状況だ。
ただ、出版社もそうした課題を前に手をこまねいているわけではない。講談社の冨倉部長は「今年は今後出る書籍の中でヒットしそうなものを対象に新刊発売から音声化までの時間を短くする作業に配信事業者と連携して取り組む。新刊の発売時に(オーディオブックは)『予約受付中』の表示が出せる所まで実現したい」と意欲を示す。KADOKAWAの安藤局次長も「新刊(の発売時期)に近い中でオーディオブックを出せる(仕組み作りに向けて)挑戦を続けていく」と意気込む。
【元年は本当に来るのか】
「小説はいま“聴く”のがアツい!年末年始耳読書フェア」―。オトバンクとKADOKAWAや講談社など大手出版5社はこの年末年始に初の合同フェアを開いた。オーディオブックの普及啓発を目的として15年に発足した「日本オーディオブック協議会」における話し合いで開催を決めた。同協議会発足後初の合同フェアに至った背景には出版各社のオーディオブック作品が一定程度そろってきたという判断があった。
実はアマゾンが襲来し、同協議会が立ち上がった15年も「オーディオブック元年になるのでは」と言われた。ただ、結果としてその年を境に市場が大きく伸びた事実は見当たらない。今年はどうだろうか。出版社からは「『なる、ならない』ではなく『なって欲しい』というのが本音」という切実な声が漏れる。
【連載・音の時代がやってくる(全5回)】
#01 人気じわり…“聴く読書”オーディオブックは出版業界を救うか(1月27日公開)
#02 “声のブログ”で人気沸騰、Voicyが届けたい音声メディアの本当の価値(1月28日公開)
#03 TBSラジオ「音声映画」に挑む、コンテンツ市場での勝算は?(1月29日公開)
#04 NECやソニー狙う…「ヒアラブル端末」は働き方改革の救世主か(1月30日公開)
#05 声で感情が分かる、海外ビジコン席巻するベンチャーの正体(1月31日公開)