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解けるかテスラの呪縛、航続距離が「ショート型」のEV続々と

200km前後で、マツダやホンダが投入
解けるかテスラの呪縛、航続距離が「ショート型」のEV続々と

マツダ「MX―30」

日本の自動車メーカーが2020年以降、航続距離が「ショート型」の電気自動車(EV)を相次いで市場投入する。航続距離が200キロメートル程度で主に日常の足としての利用を想定するモデルで、EVの新トレンドとして注目される。ただ米テスラは、同400キロメートルを超える長い航続距離を特徴とするパワフルなEVで市場を開拓してきた。航続距離200キロメートル水準のショート型EVの普及は、テスラの呪縛を解けるかが一つの鍵になる。

マツダは20年度中に同社初の量産EV「MX―30」を発売する。搭載する電池容量は35・5キロワット時で航続距離は200キロメートル。ホンダも20年夏にEVの新モデル「ホンダe」の納車を始める。電池容量はMX―30と同じで、航続距離も同水準だ。

10年に日産自動車が投入しEV市場をリードしてきた「リーフ」の現行モデルの航続距離は322キロメートル。19年1月に発売した上位タイプの「リーフe+(プラス)」は約40%増の458キロメートルに達する。MX―30、ホンダeの倍以上の水準だ。

しかしマツダの広瀬一郎専務執行役員は「200キロメートルの航続距離があれば市街地の交通には使える」と説明する。またEVでは製造コストの半分近くを電池が占めるとされる。電池容量を小さくすれば低価格化というメリットを得られる。

サイズは違うが、トヨタ自動車も20年冬に日本で航続距離100キロメートルの超小型EVを発売する。定員2人で高齢者の買い物など近距離移動ニーズを狙う。 ただ期待通りにこれらショート型EVが消費者に受け入れられるか、楽観視できない。

「地域によってはeプラスの販売比率が想定より大きくなっている」―。日産幹部はリーフと、リーフeプラスの販売状況について明かす。リーフ、リーフeプラスの消費税込みの価格はそれぞれ、332万6400円、441万1000円から。両モデルの販売比率はおおむね6対4だが、「価格差を考えればeプラスは非常に好調」(業界関係者)。欧州ではその傾向が顕著で、日産と取引するサプライヤーは「標準のリーフが伸び悩み、部品の供給計画がくるった」と頭を抱える。

実はリーフeプラスの開発を巡っては、日産社内で懐疑的な声もあった。eプラスは長い航続距離のほか、高速道路などでの合流で威力を発揮する高い加速性能が訴求ポイントだが、「『既存のリーフでも十分ではないか。eプラスはオーバースペック(過剰性能)になる』といった議論があった」(日産の開発担当者)という。

それでも開発に踏み切ったのは「テスラを意識したため」(同)。テスラは大容量の電池を搭載し、パワフルな走行性能を特徴とするEVを投入してきた。セダン「モデル3」は航続距離400キロメートル以上が主で、スポーツ多目的車(SUV)「モデルX」は同507キロメートルを実現する。

日産が環境性能と大衆車のイメージでリーフを地道に販売しEV市場を形成したのに対し、テスラは環境性能に加え、既存の高級車を超える走りや利便性を訴えて市場を開拓した。インパクト勝負ではテスラに分があり、「テスラという“物差し”でEVを測る消費者は多く、リーフeプラスという対抗軸が必要だった」と日産の開発担当者は明かす。

発売から約1年が経過しeプラスの販売が堅調なのは、テスラが形成した「航続距離は長いほど良い」とのEVのイメージが消費者に根強いことの裏付けと言える。日常での使い勝手の良さだけではショート型EVは、顧客の関心を十分に得られないかもしれない。

もっともマツダやホンダは、こうした課題に向き合う。マツダがMX―30の主な用途を都市交通に絞り電池容量を抑えたのは、電池が製造工程で大量の二酸化炭素(CO2)を排出する点を考慮したため。車両の製造から廃棄までのライフサイクル全体で発生するCO2排出量に気を配り、一歩進んだ環境性能をアピールする。

またホンダeはカメラ式サイドミラーや、助手席にまで広がる幅広ディスプレーを搭載する。「先進技術を盛り込み、未来に挑戦する車として訴求する」(ホンダ幹部)方針。

21年以降には日産が軽EVを発売する計画で、ショート型EVを巡る競争は激化する。テスラとは別の物差しをいち早く提示し、消費者の懐に飛び込むのはどのメーカーか―。便利な日常の足、価格の安さといった利点に留まらない、もうひと工夫が勝負のポイントになりそうだ。

(取材・後藤信之)
日刊工業新聞2020年1月16日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
日本のドライバーの1日の平均運転距離は50キロメートル程度と言われます。しかし帰省や「何かの折」といった年に数回あるかないかの遠出イベントが頭をよぎり、EVに長い航続距離を求めるユーザーも多いようです。充電の煩わしさを嫌気する傾向もあると思われます。「業界全体でEVの種類が増えていけば自然と航続距離のロング型とショート型ですみ分けができてきますかね?」と日産幹部に質問したところ、「現時点ではわかりません」と潔く返ってきました。

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