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温暖化対策の国際ルール「パリ協定」開始、時代をどう変えるか

温暖化対策の国際ルール「パリ協定」開始、時代をどう変えるか

パリ協定が採択されたCOP21(UNFCCC公式フェイスブックページ)

2020年1月、温暖化対策の国際ルール「パリ協定」がスタートする。世界は温室効果ガスの排出を実質ゼロにする“脱炭素”へ動きだし、社会は構造変革が迫られる。企業の競争ルールも変わり、二酸化炭素(CO2)を排出しない“脱炭素企業”が勝者となる時代が到来しようとしている。パリ協定時代に何が、どう変わるのか。

【“危機”認識】

11月末、小泉進次郎環境相は東京・大手町を訪れ、中西宏明会長など経団連幹部と気候変動問題での意見交換にのぞんだ。1時間の会談を終えた小泉環境相は「危機の時代という認識を共有してもらっているのは心強い」と満足そうに語り、中西会長も「方向性を共有できた」と述べた。政策によっては意見に隔たりがある環境省と経団連だが、気候変動を“問題”ではなく“危機”として認識することでは一致した。

この数年、明らかに産業界の空気は変わった。時には事業の足かせになるとしてCO2の大幅な削減に前向きではなかった産業界だが、いまや脱炭素への反対の声は聞かれなくなった。

実際のビジネスにも変化が起きている。NTTファシリティーズは固定価格買い取り制度(FIT)を利用せず、太陽光発電所で発電した電気を企業に売る事業を開始し、SUBARU(スバル)、第一三共ケミカルファーマと契約を結んだ。日本では再生可能エネルギーは高コストで、FITなしでは成り立たないのが常識だった。いまは太陽光パネルの価格下落もあり、高価ではなくなった。

そして何よりも大きな変化は「再生エネへの引き合いが多い」(NTTファシリティーズ中央ソリューション本部の永瀬宏明担当部長)こと。大胆なCO2削減目標を打ち出す企業が増加したためだ。それは上場企業に限らない。非上場の出雲東郷電機(島根県出雲市)も来春、NTTファシリティーズからFITを利用しない再生エネ電気を調達する。永瀬担当部長は「脱炭素ニーズが一般的になる」と語る。

【新組織設立】

脱炭素の潮流は確実に中小企業にも押し寄せている。10月、再生エネ100%での事業運営を目指す中小企業など28社・団体が結集し、新組織「REAction」を設立した。その後も参加が増え、現状は43社・団体に拡大した。

再生エネ調達を支援する動きも広がっている。富士通は「REAction」に加え、温暖化対策強化を訴える企業グループ「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」の2団体の会員が、ネット上で情報交換ができるプラットフォームを構築した。企業規模や業界を問わず参加し、再生エネ調達の課題を話し合って解決する場だ。

JCLPも17年末まで10社程度だった会員が127社まで増え、会員同士のコミュニケーションが課題となっている。富士通は得意の情報通信技術(ICT)で、脱炭素への志を持って参加した企業の要望に応える。同社の池田栄次シニアディレクターは「再生エネの利用を希望する企業が増える呼び水にしたい」と語る。脱炭素が求心力となり、新しい形の企業連携が生まれようとしている。

インタビュー/大学院大学至善館教授・枝廣淳子氏 努力が問われるフェーズに

パリ協定時代には、どのような企業活動が求められるのか。市民の立場から政府に提言し、企業との交流にも取り組む大学院大学至善館教授の枝廣淳子氏に聞いた。(編集委員・松木喬)

―気候変動問題に対する企業の意識に変化はありますか。
「分かれてきており、海外展開している企業、社会的責任を考えている企業であれば、気候変動を早急に取り組むべき課題と捉えている。一方で、多数の企業はまだ先のことと思いがちだ」

―すべての企業が温暖化対策に本気になるには。
「目の前の事業で忙しい企業に危機と言っても響かない。時間軸を延ばし、将来、市場からの要求の厳しくなった時、今のままで事業を存続できるのか考える機会が必要だ。“ライセンス トゥ オペレート(企業は操業免許を社会から得ている)”に合致するか、どうかが問われる。中小企業も、地域資源である再生エネを使うと、CO2削減と地域経済を重ね合わせて取り組める」

―パリ協定が始動すると、どのような変化が起きると予想しますか。
「『長期目標を決めました』のフェーズは終わる。どんな努力をしているのか、次はどうしようとしているか、そこが見られるフェーズになる。持続可能な開発目標(SDGs)にしても『バッジを着けました』では、どの企業も同じで見分けがつかない」

―企業は脱炭素に向けてイノベーションが重要と訴えています。
「“白馬の騎士”幻想があるだろう。すごい技術が生まれると問題を解決できるかもしれないが、白馬の騎士(イノベーション)が登場しなかったらどうするのか。中には他社のイノベーションを待つ“受け身型”や“言い訳型”のイノベーションもある。本気でイノベーションに挑む企業なのか、見抜かないといけない」

―これからの時代、市民から選ばれる企業とは。
「企業は普段、何も要求しない市民と付き合っている。その市民は人数は多いが、企業には刺激が少ない。一方、少人数ではあるが、意識が高くて“ものを言う”市民と付き合う企業は先に進んでいる。意識の高い市民の思いを取り入れる仕組みを持つと、市場の変化を先取りできる」

大学院大学至善館教授・枝廣淳子氏
日刊工業新聞2019年12月13日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
パリ協定スタートが迫り、日刊工業新聞SDGs面で特集を始めました。後半の枝廣さんのインタビューでの「白馬の騎士幻想」にハッとさせられました。記事でも「やっている感」を出したくてイノベーションと書くときがあります。あと最後の「ものを言う」市民、思い浮かんだのが深夜・休日営業をやめたいと言い出したコンビニオーナーでした。本部はNOでしたが、世論はものを言うオーナーの味方だったのでは。20日金曜SDGs面は損保ビジネスの変調を特集します。

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