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「チャンスを逃さない」アサヒの海外買収攻勢、いつまで?

日・欧・豪、3極体制を確立へ
「チャンスを逃さない」アサヒの海外買収攻勢、いつまで?

アサヒGHD公式サイトより

豪州ビール事業を約1兆2000億円で巨額買収することを即断したアサヒグループホールディングス(GHD)に世界中が注目した。日本ビールのトップブランド「スーパードライ」を持つアサヒは2016年から欧州事業を手中に収め、さらに豪州に基盤を築き、日・欧・豪の3極体制を確立する。「チャンスを逃さないのが私の信条だ」と満足そうに語るアサヒGHD社長兼最高経営責任者(CEO)の小路明善に迷いはない。アサヒの快進撃は出づる太陽のように世界を照らし始めた。

海外市場にシフト

アサヒGHDは16年から海外市場に一気にかじを切った。アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI、ベルギー)から西欧ビール事業を約3000億円で買収。さらに17年にABIから中・東欧事業を約9000億円で獲得した。そして19年7月。今度もABIから豪州事業を買収することで合意した。

一連の海外M&A(合併・買収)により、すでに売上高の海外比率は3割に達し、利益では4割を占め、従業員は外国籍が半数を超えた。小路は新たに制定したグループ理念「アサヒ・グループ・フィロソフィー(AGP)」を19年にスタート。これに基づき“グローカル(グローバルとローカルからの造語)な価値創造企業”を目標に掲げた。「ミッション(使命)、ビジョン(目指す姿)、バリュー(価値)の方向性を国内外に示す」狙いがあったという。

日本市場の閉塞感

海外市場に活路を開く狙いは、日本のビール類市場の限界が背景にある。80年代を中心に急拡大してきたが、若者のビール離れや嗜好(しこう)の多様化といった変化の影響でビール類市場は14年連続で縮小。小路は「国内についてはボリュームからバリュー経営に転換が必要だ」と指摘し、成長戦略を海外に見いだす。

同様に課題を抱える業界ライバルのキリングループは得意とする医療分野と飲料(食)分野を結ぶ未病・健康領域「医と食をつなぐ事業」で成長にドライブをかける戦略。これまでしのぎを削ってきた両社は対照的な成長戦略を採る。

ただアサヒはビール事業だけが海外戦略で抜きんでている一方で、飲料や食品、サプリメントといった事業で海外を含めた成長戦略の確立が課題だ。飲料ではマレーシアを軸として東南アジアでブランドを強化していく。食品は国内が中心だったが、「和光堂ブランドの粉ミルクでベトナムに進出したほか、フリーズドライ食品が海外市場で可能性が出てきた」と小路は海外への意欲を示す。

2兆円の負債

劇的な海外M&Aを繰り広げたアサヒは大きな負債を抱え、財務の足かせの解消という課題ものしかかかる。1兆円弱の有利子負債は豪州事業買収で2兆円規模に膨らむことになるが、常務兼最高財務責任者(CFO)の勝木敦志は「低金利の環境でフリーキャッシュフローも増えるので23年頃には再び健全化できる」と見通す。それよりもトップシェアで安定収益の魅力ある豪州事業を確立できたことに勝機を確信する。

世界に3極体制の足場を固めることになったが、小路は「3極で完成したと思っていない。4極、5極目のタイミングをうかがう」と虎視眈々(たんたん)と世界地図に次の駒を打つ構想を練る。(敬称略)

日刊工業新聞2019年11月25日

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