「後任なし」で異例の3期目に突入する東商会頭、財界の人材不足露呈
東京商工会議所は三村明夫会頭(79)が異例の3期目に入った。兼務する日本商工会議所の会頭にも21日の臨時会員総会で正式に選任される予定だ。就任に際し、高齢を懸念する声もあったが、政権とのパイプが太く、発信力にたけた三村氏の後任が不在なのも財界の実情だ。
東商の臨時議員総会後に開かれた会見で、三村会頭は「重厚な布陣で激動する世界を乗り切っていく」とあいさつした。果たすべき役割として「中小企業の強化を通じた日本経済の復活、東京と地方が共に栄える真の地方創生の実現」の2点を挙げた。会頭任期は近年は2期6年が慣例になっていた。
会見は、新任副会頭6人のお披露目の場になった。新副会頭にはJTBの田川博己会長(71)、東京ガスの広瀬道明会長(69)、凸版印刷の金子真吾会長(68)、IHIの斎藤保会長(67)、サッポロホールディングスの上條努会長(65)、千疋屋総本店の大島博社長(62)が就いた。
斎藤保副会頭は「中小企業には(技術力で)世界オンリーワンの企業があるが、自らが気付いていないケースが多い」とし、オンリーワン企業の発掘と成長支援を抱負として語った。
新体制の発足は同時に「ポスト三村」を占う始まりでもある。日商の会頭は東京商工会議所の会頭を兼務することになる。東商会頭は東商の副会頭、副会頭経験者から選ばれるのが暗黙の了解だ。つまり、新任の6人を含む副会頭の中からポスト三村が浮かび上がってくる。
とはいえ、三村氏の後任選びは難航が必至だ。3期目に際して三村氏の続投を強く希望する声があったのは事実だが、財界の人材不足は否めない。経営者の中には財界で存在感を示す三村氏の後任を敬遠する向きもあった。
三村氏は会頭就任内定時には日商や東商の副会頭などに就いておらず、発足時から異例ずくめであったとも言える。「ポスト三村の人選も慣例にのっとらない可能性もあるのでは」(財界関係者)との声も上がっている。
(栗下直也)
「みんなの意見に合わせるしかない」。浜松商工会議所の大須賀正孝会頭(ハマキョウレックス会長)は記者団の取材に、こうこぼした。10月末に2期目の任期満了を迎える大須賀会頭。勇退の意向を示していたが一転、続投を表明
した。会頭人事をめぐり何が起こっていたのか−。
浜松商工会議所会頭の後任人事について“本人抜き”の異例の会見が開かれたのは、8月下旬のこと。スズキの鈴木修会長、ヤマハの中田卓也社長、浜松いわた信用金庫(浜松市中区)の御室健一郎理事長、釣具店のイシグロ(同)の石黒衆社長の4人が出席し、大須賀会頭の続投を要請したのだ。
鈴木会長は大須賀会頭が地元出身であることなどを理由に「成功例が豊富で、余人をもって代えがたい。がん首をそろえてお願いしたい」と強調した。
鈴木会長によると大須賀会頭は当初、後任にスズキ関係者を検討していた。しかしスズキは4月に検査不正問題が発覚し、難色を示すようになる。大須賀会長はその後、ヤマハに打診するも固辞された。鈴木会長、中田社長はともに岐阜県の出身であることから、大須賀会頭の続投が最適と判断したという。
大須賀会頭は2013年11月に就任。同会議所は内規で会頭在任期間を最長2期6年と定めているため、大須賀会頭もこれにのっとり今年10月末で身を引く考えを公言していた。「次は、地元の主力産業である製造業出身の人物を会頭に」とも主張していた。
ところがその後、浜松市の鈴木康友市長が定例会見で「大須賀さんは市の施策に理解をしてくれる人物。続投できるのであればしていただきたい」と発言。地元経済人が築いた強固な包囲網は、次第に狭まっていった。
同会議所関係者によると将来、会頭になる可能性のある常議員のなり手は「特に地方都市で不足している感がある。それぞれ、自分の会社の経営でいっぱいいっぱいのようだ」という。会員自体が多い大都市や、ほぼ固定的なメンバーが就任する傾向にある小規模自治体と異なる運営の難しさが、浜松のような地方都市にはある。
同じ県内でも、決められた企業の中から会頭を選出する静岡商工会議所と異なり、浜松はそうした選出制度を持たない。「全て選び直す、という方法が良くも悪くも効果を発揮してしまった」と関係者は続ける。
「いい人が出てくれば、そこで辞める」。大須賀会頭は続投を表明すると同時に、早期に退く考えをあらためて強調した。人事を巡るゴタゴタを露呈した浜松商工会議所。ほかの地方の商工会議所にとって、決してよそ事ではない。
(取材=浜松・竹中初音)
東商の臨時議員総会後に開かれた会見で、三村会頭は「重厚な布陣で激動する世界を乗り切っていく」とあいさつした。果たすべき役割として「中小企業の強化を通じた日本経済の復活、東京と地方が共に栄える真の地方創生の実現」の2点を挙げた。会頭任期は近年は2期6年が慣例になっていた。
会見は、新任副会頭6人のお披露目の場になった。新副会頭にはJTBの田川博己会長(71)、東京ガスの広瀬道明会長(69)、凸版印刷の金子真吾会長(68)、IHIの斎藤保会長(67)、サッポロホールディングスの上條努会長(65)、千疋屋総本店の大島博社長(62)が就いた。
斎藤保副会頭は「中小企業には(技術力で)世界オンリーワンの企業があるが、自らが気付いていないケースが多い」とし、オンリーワン企業の発掘と成長支援を抱負として語った。
新体制の発足は同時に「ポスト三村」を占う始まりでもある。日商の会頭は東京商工会議所の会頭を兼務することになる。東商会頭は東商の副会頭、副会頭経験者から選ばれるのが暗黙の了解だ。つまり、新任の6人を含む副会頭の中からポスト三村が浮かび上がってくる。
とはいえ、三村氏の後任選びは難航が必至だ。3期目に際して三村氏の続投を強く希望する声があったのは事実だが、財界の人材不足は否めない。経営者の中には財界で存在感を示す三村氏の後任を敬遠する向きもあった。
三村氏は会頭就任内定時には日商や東商の副会頭などに就いておらず、発足時から異例ずくめであったとも言える。「ポスト三村の人選も慣例にのっとらない可能性もあるのでは」(財界関係者)との声も上がっている。
(栗下直也)
日刊工業新聞2019年11月4日
地方でも
「みんなの意見に合わせるしかない」。浜松商工会議所の大須賀正孝会頭(ハマキョウレックス会長)は記者団の取材に、こうこぼした。10月末に2期目の任期満了を迎える大須賀会頭。勇退の意向を示していたが一転、続投を表明
した。会頭人事をめぐり何が起こっていたのか−。
浜松商工会議所会頭の後任人事について“本人抜き”の異例の会見が開かれたのは、8月下旬のこと。スズキの鈴木修会長、ヤマハの中田卓也社長、浜松いわた信用金庫(浜松市中区)の御室健一郎理事長、釣具店のイシグロ(同)の石黒衆社長の4人が出席し、大須賀会頭の続投を要請したのだ。
鈴木会長は大須賀会頭が地元出身であることなどを理由に「成功例が豊富で、余人をもって代えがたい。がん首をそろえてお願いしたい」と強調した。
鈴木会長によると大須賀会頭は当初、後任にスズキ関係者を検討していた。しかしスズキは4月に検査不正問題が発覚し、難色を示すようになる。大須賀会長はその後、ヤマハに打診するも固辞された。鈴木会長、中田社長はともに岐阜県の出身であることから、大須賀会頭の続投が最適と判断したという。
大須賀会頭は2013年11月に就任。同会議所は内規で会頭在任期間を最長2期6年と定めているため、大須賀会頭もこれにのっとり今年10月末で身を引く考えを公言していた。「次は、地元の主力産業である製造業出身の人物を会頭に」とも主張していた。
ところがその後、浜松市の鈴木康友市長が定例会見で「大須賀さんは市の施策に理解をしてくれる人物。続投できるのであればしていただきたい」と発言。地元経済人が築いた強固な包囲網は、次第に狭まっていった。
同会議所関係者によると将来、会頭になる可能性のある常議員のなり手は「特に地方都市で不足している感がある。それぞれ、自分の会社の経営でいっぱいいっぱいのようだ」という。会員自体が多い大都市や、ほぼ固定的なメンバーが就任する傾向にある小規模自治体と異なる運営の難しさが、浜松のような地方都市にはある。
同じ県内でも、決められた企業の中から会頭を選出する静岡商工会議所と異なり、浜松はそうした選出制度を持たない。「全て選び直す、という方法が良くも悪くも効果を発揮してしまった」と関係者は続ける。
「いい人が出てくれば、そこで辞める」。大須賀会頭は続投を表明すると同時に、早期に退く考えをあらためて強調した。人事を巡るゴタゴタを露呈した浜松商工会議所。ほかの地方の商工会議所にとって、決してよそ事ではない。
(取材=浜松・竹中初音)
日刊工業新聞2019年9月23日