ニュースイッチ

スマホで賃貸「OYO」は常識をどう打ち破るか

連載・住まいが変わる#03
スマホで賃貸「OYO」は常識をどう打ち破るか

OYO LIFEで借りられる賃貸住宅のイメージ

「旅するように暮らす」をコンセプトに掲げて3月に始動した賃貸住宅サービス「OYO LIFE(オヨ・ライフ)」。敷金や礼金など初期費用が不要の家具家電付き賃貸住宅にスマートフォン一つで契約できる。ソフトバンクグループが出資したインド発ホテルベンチャー「OYO」とヤフーの合弁会社「OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN(以下、オヨ・テクノロジー)」の運営とあって、賃貸市場でその動向に注目が集まっている。

 オヨ・ライフは都心でスタートしたが、1都3県や関西にも提供エリアを急速に広げており、「運営戸数100万戸」という壮大な目標を掲げる。一方、住宅を借りる際には一般に行う「内見」はなく、賃料は多様なサービスが付加されている分、一般の賃貸住宅の家賃より高くなる。こうした“常識外”の仕組みは利用者を広げていく際の障壁になり得る。それをどのように突破し、成長を加速していくのか。オヨ・テクノロジーの勝瀬博則CEO(最高経営責任者)に聞いた。(聞き手・葭本隆太)

●OYO LIFE:オヨ・テクノロジーが大家から物件を借り受け、家具家電やWi-Fi環境などのサービスを整えて借り手に転貸する。入居者には提携パートナーの家事代行やカーシェアリングなどのサービスが1カ月無料で使える「OYO PASSPORT(オヨ・パスポート)」も提供する。多様なサービスを付加している分、毎月の利用料は一般の賃貸住宅の家賃に比べて割高になる。例えば10万円程度の家賃のエリアで12万円程度。一般的な家賃に初期費用を含めた額と比べると、18カ月超の利用でオヨの方が割高になるケースがあるという。


熱狂的に受け入れられた


 ―サービス開始から半年が経過しましたが、手ごたえはいかがですか。
 非常に短い時間ながら多くの大家さんから部屋を貸してもらったし、借り手サイドにも多くの方々にある意味では熱狂的に受け入れられたと思う。情報感度の高い人たちにツイッターなどで「オヨ・ライフいいね」と発信してもらった。多くのサプライヤーなどにも支えられて事業としては順調に伸びている。借り手は若い方が多いが、50代以上も2割弱おり、幅広い層にリーチしている。

 ―具体的な運営戸数の状況は。
 現在は開示していないが、都心で始めて今では1都3県のほか、大阪に進出した。京都や兵庫、名古屋でも11月以降に展開予定で(運営戸数は)どんどん拡大している。一方、我々が目指す場所は業界1位で約100万戸を運営する大東建託さん。その数字が一時的な目標になる。そう考えるとまだまだ決して満足できる数字ではない。

勝瀬CEO

 ―借り手が「オヨ・ライフ」を選ぶ一番の理由はどこですか。
 どれか一つではないだろう。エリアや部屋のタイプで属性も変わるため、一概には言えない。

 ―では勝瀬CEO自身が考える一番の価値はどこでしょうか。
 これも顧客によると思う。ただ、顧客に体験してもらう最初の特徴は(スマホで)ものすごく簡単に契約できること。(不動産会社との)対面もいらず翌日にも入居ができるリードタイムの短さだ。入居後に家具家電をそろえたり、電気や水道、ガスの立ち上げなどの手間がいらないことも特徴だ。

 ―「移動しやすい」という価値を考えると、主なターゲットは短期の利用者になるのでしょうか。
 決して短期利用者向けのサービスではない。短くても良いし、長くても良い自由度の高いサービスだ。これまで(一般的な賃貸住宅)の2年契約でも1ヶ月で退去できるが、敷金・礼金などの初期費用が重く、仮に騒音問題が起きても早期の退去は二の足を踏むだろう。そう考えると我々の方がオプションは多い。「旅するように暮らす」をコンセプトに掲げたが、それもオプションの一つでそうした生活“も”できるということ。また、(オヨでは18ヶ月を超えて暮らすと一般の賃貸に比べて割高になるケースがあるが)一般の人が賃貸住宅に暮らして引っ越すまでの期間はだいたい18ヶ月。2年満了する人は少ない。

関連記事:定額住み放題が人気…「旅するように暮らす」は広がるか

 ―住宅を借りる際に一般には「内見」を行いますが、それがないことは利用の障壁になりませんか。
 我々がよい仕事をすることで解消できる部分だろう。信用のあるホテルブランドは内見しなくても部屋のイメージはわかるし、安心感がある。それと同じようにオヨの部屋は一定のレベルがあると理解してもらえるようにする。また、オヨは初期費用や入居解約時の面倒といった移動のリスクが低いので最悪1ヶ月で退去すればよく、それならば内見は面倒とも考えられる。ただ、内見は(賃貸契約のフローで)常識と思われている最たるものだ。その認識を変えるにはもちろん時間はかかる。

 ―認識を変えていくためのマーケティング戦略はありますか。
 東京都心からサービスを始めた理由の半分にはそうした戦略があった。都心は新しいものに敏感に反応し、(その良さを)発信してくれる人たちが暮らしているからだ。オヨの本来の価値や機能、役割を考えると地方や郊外などの客付けに困っているエリアでこそ発揮する。

 ―というと。
 オヨがやるべきことは、今まで借りられなかった物件に、サービスによる新たな価値をつけて客付けができるようにすることだ。

 ―今後のエリア展開は地方を含めた全国を視野に入れているのでしょうか。
 どのエリアに進出するかはそのときが来たら発表するが、当然ながら広いエリアでサービスを展開していくべきだと思っている。

サービス付きでも一般の賃貸と同じ価格で


 ―オヨは賃料が高いという声も聞かれます。
 まず皆さんには(オヨでは賃料に含まれる契約関連の費用や家具家電のコストなどを家賃に上乗せした)住居関連費用がいくらかを理解してもらい、それと比べて欲しいと思う。我々が載せているマージンも決して高くなく(総額では)リーズナブルだ。

 一方で(家具家電などの)多様なサービスがついて一般の賃貸住宅と同額程度で提供されれば使わない手はない。そのため、最終的にはAI(人工知能)やビッグデータを活用した運営の効率化や仕入れの合理化などによってサービス付きでも一般の賃貸と同じ値段で借りられる状況を作りたい。

初期費用や家具家電などを含めた賃料はリーズナブルという

 ―そうした体制を目指すということは転貸の差益よりも、入居者に提供する付加サービスを中心に収益化することを意識されているのでしょうか。
 多様な付加サービス(による収益化)は二番目だ。今後は家があまり、一部エリアで家賃の低下が予想される。その中で魅力的な物件を借り手に展開できるように、集客に困っている大家さんから物件を仕入れることが(収益を上げる)第一のポイントになる。マージンの源泉はそこだ。

 ―目標とされる100万戸規模の運営体制が整うと入居者などに対し、多様な事業機会が生まれそうです。
 我々が(100万戸規模の)大きな面を獲得した際に、まずは調達面で好機があるだろう。冷蔵庫や空調、電子レンジなどを100万個単位で発注する会社は他にはないので、とても効率的に必要な商品を我々が設計して調達できるようになる。例えばIoT家電を調達し、それを通じたサービスを提供できる。メーカーの実証フィールドとしての提供も考えられる。また、人は1日のうち3分の1の時間を家の中で過ごす。その時間帯にはインターネットのトラフィックが多いプライムタイム(19―23時)が含まれ、ショッピングも行われる。コンビニよりも利便性の高いショッピングの場を我々が利用できる。

 ―今後のビジネス拡大の一番のポイントはどこでしょうか。
 間違いなくUI(ユーザーインターフェース)・UX(ユーザーエクスペリエンス)だ。独占ではない競争が激しい市場でどこが勝つかはUI・UXに尽きる。

 ―具体的な改善ポイントはどこですか。
 顧客が教えてくれることだ。我々にも仮説はあるが、それを言ってしまうと他社にまねされるので開示はできないが、まだまだ圧倒的に足りない。

                     

連載・住まいが変わる(全8回)


【01】子育て世帯もシニアも選ぶ…「平屋ブーム」は本物か(10・15公開)
【02】定額住み放題が人気…「旅するように暮らす」は広がるか(10・16公開)
【03】スマホで賃貸「OYO」は常識をどう打ち破るか(10・16公開)
【04】【坂村健】「AIと同居」「HaaS」…近未来の住宅はこれだ(10・17公開)
【05】IoTなんて誰もいらへんけど…元吉本芸人「住宅版iPhone」に挑む(10・18公開)
【06】マンション住人のスキルや時間「アプリでシェア」は機能するか(10・19公開)
【07】楽天も注目「スマホで家を買う時代」が到来する根拠(10・20公開)
【08】ロスジェネ救う切り札か、大阪発「住宅つき就職支援」の光明(10・21公開)
ニュースイッチオリジナル
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
私は賃貸住宅でもその街が気に入ると割と長く住むので、OYOを使うと割高になるタイプだと思います。一方、その賃貸住宅に長く住み続ける理由の一つには間違いなく「引っ越しが面倒くさいから」という意識もあります。それを高いUI・UXで解消しようとするOYOの仕組みは私のような意識を持っている人たちを動かすかもしれません。

特集・連載情報

住まいが変わる
住まいが変わる
住生活の方法や住宅の選び方が多様化しています。生活者の価値観や社会環境の変化、テクノロジーの進化などにより住宅市場でいろいろな動きが表出しています。その現場の数々を連載で追いました。

編集部のおすすめ