ケータイ各社の我田引水、乗り換え“放題”ほど遠く
携帯電話業界の健全な競争環境構築に向け改正電気通信事業法が1日に施行された。携帯大手は同法で義務付けた携帯端末代金と通信料の完全分離プランを相次ぎ発表。携帯電話の2年契約を途中解約する場合の違約金も1000円以下に抑えるなど、利用者が乗り換えやすい料金プランになりつつあるが、課題はまだ残る。
第一の課題が、2年契約を中途解約して1000円の違約金を払っても、MNP(携帯電話番号移行制度)による他社乗り換えに手数料が別途5000―6000円かかることだ。内訳は、他社に乗り換える際のMNP転出料に2000―3000円、乗り換え先の新規契約事務手数料に約3000円。総務省によると、2018年度のMNP件数は前年度比4・9%増の506万番号ある。
加えて、乗り換え前の携帯会社で自ら購入した端末のSIMロック解除を店頭で行う場合、さらに3000円の手数料を支払わねばならない。SIMロックは携帯会社が自社で販売したスマートフォンなどを他社回線では使えなくするもの。オンラインでの解除は手数料無料だが、パソコンを使った操作に不慣れな高齢者は店頭での解除を依頼する場合が多い。SIMロック解除件数は19年1―3月期に94万3505件と四半期ベースで過去最高を記録している。
2年契約の違約金は従来の約9500円から1000円に下がったが、端末のSIMロック解除を店頭で行ってMNPで他社に乗り換える場合、別途、8000―9000円の支払わねばならない。
契約者以外が乗り換え前の携帯会社で購入した中古端末のSIMロック解除に至ってはKDDIとソフトバンクの場合、オンラインで解除できず、店頭での解除に限られる。この場合も3000円の手数料がかかる。いまだ乗り換えにかかる負担額は大きく、このことを消費者に理解させる必要がある。
第二の課題が、消費者に誤解を与えかねない広告表示だ。消費者庁は9月26日、KDDIとソフトバンクが新たに発表した携帯端末販売プランを念頭に、消費者へ注意を呼びかけた。広告表示で「最大50%オフ」のように記載しているが、実際は半額以上の経済的負担をさせるものだからだ。
KDDIとソフトバンクのプランは、携帯端末を48カ月分割払いで購入し、25カ月目に新機種へ買い替えれば旧機種の24カ月分の支払いを免除する。これが「半額支援」などというプラン名の下、特段の条件がなく最大半額で購入できるかのように広告に表示しているが、実際はさまざまな適用条件が存在する。
まず、対象の端末購入プログラムに加入するには月390円の利用料がかかる。旧機種は回収され、旧機種がひび割れなどで査定条件を満たさなかった場合は2万円程度の支払いが別途必要になる。
例えば、12万円のスマホを25カ月目に新機種へ買い替えても、端末代金の半額分6万円とプログラム利用料の9360円(390円×24カ月)を加算した6万9360円を払わねばならず、支払総額は端末代の半額(6万円)を上回る。旧機種にひび割れや故障があれば利用者の負担額はさらに増える。このため、KDDIとソフトバンクはネット広告やテレビCMを順次見合わせた。
そしてソフトバンクは「半額サポート+(プラス)」の名称を10日から「トクするサポート」に変更すると発表、“半額”という文言を削除した。またソフトバンク回線契約がない利用者はクレジットカード払いによる端末購入を条件にソフトバンクショップでSIMロック解除に即日対応する。SIMロックの即日解除はデポジット(預かり金)制の導入を検討している。
通信料金プランの広告表示にも課題がある。NTTドコモが6月に始めた通信料金プラン「ギガホ」の広告に当初、「ネット使い放題!」の文言があった。実際はデータ通信量が月30ギガバイト(ギガは10億)を超えた場合、通信速度が制限されるため、消費者庁が5月に行政指導を行い、広告表示を是正させた。
だが、その後も「放題」表示の広告が相次ぐ。KDDIの「auデータMAXプラン」の広告は「データ容量上限なし」との文言があるが、動画ストリーミング利用時や混雑時間帯は速度制限があり、テザリングのデータ容量も上限がある。
ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」の広告にも「動画SNS放題」との文言があるが、対象サービス内の一部機能はデータ通信量を消費する。総務省の有識者会議でも「いわゆる『放題』表示は、消費者の受け止め方を踏まえ、適正化に取り組む必要がある」との見解を示している。
消費者庁は、プランの適用条件が広告に記載されていたとしても例えば文字が小さい場合、配置箇所が強調された代金と離れている場合など「消費者がその内容を正しく理解できない場合は不当表示として問題となる恐れがある」と指摘する。
広告表示の適正化は販売代理店での展示がきちんと行われているかチェックする必要がある。だが、ドコモは「四半期ごとに支社・支店がチェック」、KDDIは「年2回、店頭写真の報告」、ソフトバンクは「四半期ごとの店頭写真の報告、違反報告フォームの設置」と対応策がまちまち。健全な競争環境の実現には料金プランの規制だけではなく、消費者が正しく認識できる広告表示の在り方も不可欠となる。
(取材・水嶋真人)
複雑・高額で顧客囲い込み
第一の課題が、2年契約を中途解約して1000円の違約金を払っても、MNP(携帯電話番号移行制度)による他社乗り換えに手数料が別途5000―6000円かかることだ。内訳は、他社に乗り換える際のMNP転出料に2000―3000円、乗り換え先の新規契約事務手数料に約3000円。総務省によると、2018年度のMNP件数は前年度比4・9%増の506万番号ある。
加えて、乗り換え前の携帯会社で自ら購入した端末のSIMロック解除を店頭で行う場合、さらに3000円の手数料を支払わねばならない。SIMロックは携帯会社が自社で販売したスマートフォンなどを他社回線では使えなくするもの。オンラインでの解除は手数料無料だが、パソコンを使った操作に不慣れな高齢者は店頭での解除を依頼する場合が多い。SIMロック解除件数は19年1―3月期に94万3505件と四半期ベースで過去最高を記録している。
2年契約の違約金は従来の約9500円から1000円に下がったが、端末のSIMロック解除を店頭で行ってMNPで他社に乗り換える場合、別途、8000―9000円の支払わねばならない。
契約者以外が乗り換え前の携帯会社で購入した中古端末のSIMロック解除に至ってはKDDIとソフトバンクの場合、オンラインで解除できず、店頭での解除に限られる。この場合も3000円の手数料がかかる。いまだ乗り換えにかかる負担額は大きく、このことを消費者に理解させる必要がある。
誤解招く表示、端末「半額」ハードル高く
第二の課題が、消費者に誤解を与えかねない広告表示だ。消費者庁は9月26日、KDDIとソフトバンクが新たに発表した携帯端末販売プランを念頭に、消費者へ注意を呼びかけた。広告表示で「最大50%オフ」のように記載しているが、実際は半額以上の経済的負担をさせるものだからだ。
KDDIとソフトバンクのプランは、携帯端末を48カ月分割払いで購入し、25カ月目に新機種へ買い替えれば旧機種の24カ月分の支払いを免除する。これが「半額支援」などというプラン名の下、特段の条件がなく最大半額で購入できるかのように広告に表示しているが、実際はさまざまな適用条件が存在する。
まず、対象の端末購入プログラムに加入するには月390円の利用料がかかる。旧機種は回収され、旧機種がひび割れなどで査定条件を満たさなかった場合は2万円程度の支払いが別途必要になる。
例えば、12万円のスマホを25カ月目に新機種へ買い替えても、端末代金の半額分6万円とプログラム利用料の9360円(390円×24カ月)を加算した6万9360円を払わねばならず、支払総額は端末代の半額(6万円)を上回る。旧機種にひび割れや故障があれば利用者の負担額はさらに増える。このため、KDDIとソフトバンクはネット広告やテレビCMを順次見合わせた。
そしてソフトバンクは「半額サポート+(プラス)」の名称を10日から「トクするサポート」に変更すると発表、“半額”という文言を削除した。またソフトバンク回線契約がない利用者はクレジットカード払いによる端末購入を条件にソフトバンクショップでSIMロック解除に即日対応する。SIMロックの即日解除はデポジット(預かり金)制の導入を検討している。
過熱する通信料広告
通信料金プランの広告表示にも課題がある。NTTドコモが6月に始めた通信料金プラン「ギガホ」の広告に当初、「ネット使い放題!」の文言があった。実際はデータ通信量が月30ギガバイト(ギガは10億)を超えた場合、通信速度が制限されるため、消費者庁が5月に行政指導を行い、広告表示を是正させた。
だが、その後も「放題」表示の広告が相次ぐ。KDDIの「auデータMAXプラン」の広告は「データ容量上限なし」との文言があるが、動画ストリーミング利用時や混雑時間帯は速度制限があり、テザリングのデータ容量も上限がある。
ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」の広告にも「動画SNS放題」との文言があるが、対象サービス内の一部機能はデータ通信量を消費する。総務省の有識者会議でも「いわゆる『放題』表示は、消費者の受け止め方を踏まえ、適正化に取り組む必要がある」との見解を示している。
消費者庁は、プランの適用条件が広告に記載されていたとしても例えば文字が小さい場合、配置箇所が強調された代金と離れている場合など「消費者がその内容を正しく理解できない場合は不当表示として問題となる恐れがある」と指摘する。
広告表示の適正化は販売代理店での展示がきちんと行われているかチェックする必要がある。だが、ドコモは「四半期ごとに支社・支店がチェック」、KDDIは「年2回、店頭写真の報告」、ソフトバンクは「四半期ごとの店頭写真の報告、違反報告フォームの設置」と対応策がまちまち。健全な競争環境の実現には料金プランの規制だけではなく、消費者が正しく認識できる広告表示の在り方も不可欠となる。
(取材・水嶋真人)
日刊工業新聞2019年10月1日の記事を一部編集