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「超音波エコーを一家に1台」 診断データで知識のグラデーションつくる

レキオ・パワー・テクノロジー、廉価エコーで市場開拓
「超音波エコーを一家に1台」 診断データで知識のグラデーションつくる

エコーで世界の医療をつなぐ構想を抱く河村氏

 「10年後は超音波エコーが一家に1台ある時代に」―。そんな未来を語る河村哲。レキオ・パワー・テクノロジー(LPT、那覇市)の社長だ。安価なエコー装置を開発し、アフリカなど途上国、そして日本で普及を進める。医療機器としての用途だけではなく、新たな市場の開拓も狙う。

 LPTの超音波エコーは医療機関で使われる大型装置とは少し違う。手に持って体に当てる部分をプローブといい、装置はこれだけだ。ノートパソコンにUSB端子でつないで利用する。価格は20万円ほど。国産部品にこだわるが、特許切れ技術で開発費を抑えたジェネリック機器だ。

 河村は「デバイス(装置)はセンサー(検知器)でしかない」と言い切る。真意は二つ。一つは、エコーは医師の道具という固定観念からの解放。二つ目は、デバイス販売よりその先にあるデータ活用の重視だ。

 LPTはエコーを医療用と教育・一般用の両面で展開する。医療機器としては現代医療が届かない地域に行きわたらせる考え。河村は先進医療を頂点にしたピラミッドで世界の環境を説明する。上部には医療があるが「その下はゼロ」。ギャップは大きく、底部では呪術にすがっており、安価な機器なら利用者は広がる。人材育成とともに浸透を目指す。

 装置と両輪になるシステムは診断データをクラウドで共有するため、データベース化すれば全世界での医療のノウハウを蓄積できる。欧州からアフリカの医師へ助言するようなことも可能だ。情報のやりとりが生まれると、ピラミッドに「知識のグラデーションができる」と想定する。

 河村は海外展開で苦い経験もした。実証実験をしたスーダンで大臣から大量納入の約束を取り付けた。だが大統領選で失脚し姿は消え、契約も泡に消えた。以来、海外展開と同時に日本向け事業を本格化した。「もくろみ通りではないが、それが良かったかもしれない」と振り返る。

 日本では一般の電気機器として取り扱う。医療行為には使えない。だが用途開発により可能性は広がる。医療の文脈から切り離し、法解釈やガイドラインの整備で需要を創出していく。

 例えば妊婦自ら胎児を見るシステム。リアルタイムでエコー画像を見られれば、家族と一緒に愛着感を共有しやすくする。産前産後うつの解消にもつながると期待する。地域の助産師との連携モデルも築くことで、「産後ケアの社会インフラとしての、助産師の活用につながる」とみる。

 ヘルスケア分野でも潜在需要を見据える。装置とセットになるアプリケーションの開発を進め、健康管理に役立つサービスを展開したい意向だ。レンタル事業による定額制サービス(サブスクリプション)を見込む。利用者のデータ蓄積が進めば、ここでもデータ活用による新ビジネスの扉が開くと期待する。徐々にだが、サービス事業者としての足場が固まってきた。

「デバイスは安くたくさん作れる人が作ればいい」と、メーカーからの卒業にこだわりはない。2023年度には新規株式公開を見据える。世界へエコーを届けながら、社会を変えるための“反響”を探り続ける。
(敬称略)
(文=西部支社・三苫能徳)
日刊工業新聞2019年7月10日

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