METI
ほとばしるアフリカスタートアップの情熱「日本企業は何を待っている?」
アフリカではスタートアップの勃興がめざましい。これまでアフリカ市場はビジネスに不可欠な金融や物流といった基本的なサービスが整っていないことが課題のひとつだった。ところが携帯電話の爆発的な普及に伴い、決済機能や物流サービスを提供する企業が相次ぎ誕生。これら企業が政府に代わりビジネスインフラを提供することで、バリューチェーンがつながる社会が到来しつつある。そんなアフリカのスタートアップを象徴する2社の軌跡と今後の戦略に耳を傾けてみよう。
「シリコンサバンナ」と称されるケニア・ナイロビ。今や米国のシリコンバレーのような急成長を遂げるスタートアップの集積地である。
そんなナイロビを代表するスタートアップの一つが「M-KOPAソーラー(Mコパ)」だ。アフリカで浸透しつつあるモバイルマネー「M-PESA(Mペサ)」を使い、1日50セント(約55円)と少額の割賦方式で太陽光発電システムを販売する。420日支払い続ければ、システムは顧客のものになる仕組みだ。発電装置にはSIMカードが搭載され、支払いが滞れば遠隔操作で発電を停止。盗難と料金の取りっぱぐれを防ぐ。
同社の事業は既存の発送電網に接続できない無電化地域に対し、太陽光発電というオフグリッド方式で電力を供給するリープフロッグ(一足飛び)的なサービスだ。
「今や時代はレンタルエコノミー。住宅や車が買えなければ借りればいい。我々の事業もこうした発想で、太陽光発電システムで電力を供給した上で、照明やラジオ、スマホなど高額な製品を割賦販売している」と創業者のジェシー・ムーア最高経営責任者(CEO)は語る。
テレビを割賦販売することで、「ケニアの有権者は以前よりも選挙の際に候補者を知ることができた。テレビ討論を見て、誰がよいか選べる」と広い意味で民主主義の発展にも貢献していると自負する。
起業のきっかけはカナダ人であるムーア氏が非政府組織(NGO)に所属していた2002年、ケニアを訪れた時のこと。辺境の農村でも携帯電話が普及している現実を目の当たりにし、「将来、携帯電話で何かできる」(ムーアCEO)と感じたことが発端。その後、経営学修士(MBA)を取得しケニアに再び戻り、急成長を遂げていたモバイルマネーのMペサに就職。同僚とともに割賦販売のビジネスを思いついた。
2011年のサービス開始以来、事業は急拡大。現在では75万世帯、ケニアの全世帯の1割にMコパの太陽光発電システムが利用されている。1900万ドル(約20億円)の資金調達にも成功。三井物産や住友商事からも出資を受けている。
拡大戦略はまだまだ続きそうで、「将来はナイジェリアなど西アフリカや南アフリカにもサービスを広げたい。10年後には8-10カ国で事業展開したい」と展望する。
M-POST(Mポスト)と呼ばれる携帯電話番号に仮想の住所を登録するサービスが主力のタズ・テクノロジーズ。実は創業の背景にはアブドゥラジ・モハメド・オマールCEO自身の苦い経験がある。修士課程修了後の就職先として政府機関から内定を得たにもかかわらず、正式な通知が手元に届かず職を得られなかったのだ。
ケニアの郵便事情は1世帯1住所ではなく、一つの村で1住所、あるいは一つの住所をいくつかの親戚同士で共有することが珍しくない。人口5000万人に対し、住所の数はたった40万戸。オマール氏も親戚同士で共有する郵便箱に自分宛の内定通知は届いていたものの、誰にも気づかれないまま3カ月間も放置されていたという。
こうした状況を改善しようとケニアの郵政公社と提携。QRコードで郵便物を読み取り自動で送り先の仮想住所にショートメールを送信するシステムを開発。郵便物がきちんと送り先に到着する仕組みを構築した。
利用者は年間3ドル(約330円)で住所を登録でき、ケニア国内に622カ所ある郵便局の中から最寄りの局を選択。自分宛の郵便物が届くと、携帯電話にメッセージが届く仕組みだ。
実は1892年にケニア初の郵便局が誕生し、2016年にMポストが設立される124年もの間、同国の郵便サービスは旧態依然としたままだった。それがITの力でわずか3年足らずで劇的な変化を遂げた。
すでに4万人のユーザーと2万2000個の郵便物の受け取り実績があり(2018年12月時点)、アフリカに特化した日本のベンチャーキャピタル「サムライインキュベートアフリカ」の出資も受けている。
ほぼ口コミだけでサービスが知れ渡り、利用者が急増している理由について、オマール氏は「ビジネスモデルがKISSだから」と笑う。KISSとは、キープ・イット・シンプル・ストゥーピッド。「とにかくばかみたいにシンプルに」といった意味合いだ。携帯電話さえあれば、誰でも気軽にサービスを始められる。その簡潔さが利用者や投資家から受け入れられている。
自身を社会起業家と位置づけるオマール氏にとって、Mポストの役割は「社会の包摂性を実現すること」と語る。これまで世帯ごとの住所がないために行き渡らなかった各種の行政通知を確実に本人に届け、社会サービスを享受できることを目指す。
世界的に利用者が急増しているEコマースについても、「きちんと商品が届く保証があって初めて普及する」と指摘。「楽天が商品をアフリカに送りたいなら、ケニアにはMポストがある」と強調する。実際、海外からケニアに届く荷物の3分の1は中国のネット通販最大手、アリババ集団からのもので、購入者はMポスト利用者が大半という。
「ケニアにはケニア流のインフラがある。日本のネット企業は何を待っているのか」。オマール氏はより多くの日本企業がアフリカ市場に目を向けてくれることを期待している。
モバイルマネーで割賦販売のMコパ
「シリコンサバンナ」と称されるケニア・ナイロビ。今や米国のシリコンバレーのような急成長を遂げるスタートアップの集積地である。
そんなナイロビを代表するスタートアップの一つが「M-KOPAソーラー(Mコパ)」だ。アフリカで浸透しつつあるモバイルマネー「M-PESA(Mペサ)」を使い、1日50セント(約55円)と少額の割賦方式で太陽光発電システムを販売する。420日支払い続ければ、システムは顧客のものになる仕組みだ。発電装置にはSIMカードが搭載され、支払いが滞れば遠隔操作で発電を停止。盗難と料金の取りっぱぐれを防ぐ。
同社の事業は既存の発送電網に接続できない無電化地域に対し、太陽光発電というオフグリッド方式で電力を供給するリープフロッグ(一足飛び)的なサービスだ。
「買えなければ借りればいい」
「今や時代はレンタルエコノミー。住宅や車が買えなければ借りればいい。我々の事業もこうした発想で、太陽光発電システムで電力を供給した上で、照明やラジオ、スマホなど高額な製品を割賦販売している」と創業者のジェシー・ムーア最高経営責任者(CEO)は語る。
テレビを割賦販売することで、「ケニアの有権者は以前よりも選挙の際に候補者を知ることができた。テレビ討論を見て、誰がよいか選べる」と広い意味で民主主義の発展にも貢献していると自負する。
起業のきっかけはカナダ人であるムーア氏が非政府組織(NGO)に所属していた2002年、ケニアを訪れた時のこと。辺境の農村でも携帯電話が普及している現実を目の当たりにし、「将来、携帯電話で何かできる」(ムーアCEO)と感じたことが発端。その後、経営学修士(MBA)を取得しケニアに再び戻り、急成長を遂げていたモバイルマネーのMペサに就職。同僚とともに割賦販売のビジネスを思いついた。
2011年のサービス開始以来、事業は急拡大。現在では75万世帯、ケニアの全世帯の1割にMコパの太陽光発電システムが利用されている。1900万ドル(約20億円)の資金調達にも成功。三井物産や住友商事からも出資を受けている。
拡大戦略はまだまだ続きそうで、「将来はナイジェリアなど西アフリカや南アフリカにもサービスを広げたい。10年後には8-10カ国で事業展開したい」と展望する。
「仮想住所」で物流担うMポスト
M-POST(Mポスト)と呼ばれる携帯電話番号に仮想の住所を登録するサービスが主力のタズ・テクノロジーズ。実は創業の背景にはアブドゥラジ・モハメド・オマールCEO自身の苦い経験がある。修士課程修了後の就職先として政府機関から内定を得たにもかかわらず、正式な通知が手元に届かず職を得られなかったのだ。
ケニアの郵便事情は1世帯1住所ではなく、一つの村で1住所、あるいは一つの住所をいくつかの親戚同士で共有することが珍しくない。人口5000万人に対し、住所の数はたった40万戸。オマール氏も親戚同士で共有する郵便箱に自分宛の内定通知は届いていたものの、誰にも気づかれないまま3カ月間も放置されていたという。
こうした状況を改善しようとケニアの郵政公社と提携。QRコードで郵便物を読み取り自動で送り先の仮想住所にショートメールを送信するシステムを開発。郵便物がきちんと送り先に到着する仕組みを構築した。
利用者は年間3ドル(約330円)で住所を登録でき、ケニア国内に622カ所ある郵便局の中から最寄りの局を選択。自分宛の郵便物が届くと、携帯電話にメッセージが届く仕組みだ。
実は1892年にケニア初の郵便局が誕生し、2016年にMポストが設立される124年もの間、同国の郵便サービスは旧態依然としたままだった。それがITの力でわずか3年足らずで劇的な変化を遂げた。
すでに4万人のユーザーと2万2000個の郵便物の受け取り実績があり(2018年12月時点)、アフリカに特化した日本のベンチャーキャピタル「サムライインキュベートアフリカ」の出資も受けている。
簡便さが利用者の心つかむ
ほぼ口コミだけでサービスが知れ渡り、利用者が急増している理由について、オマール氏は「ビジネスモデルがKISSだから」と笑う。KISSとは、キープ・イット・シンプル・ストゥーピッド。「とにかくばかみたいにシンプルに」といった意味合いだ。携帯電話さえあれば、誰でも気軽にサービスを始められる。その簡潔さが利用者や投資家から受け入れられている。
自身を社会起業家と位置づけるオマール氏にとって、Mポストの役割は「社会の包摂性を実現すること」と語る。これまで世帯ごとの住所がないために行き渡らなかった各種の行政通知を確実に本人に届け、社会サービスを享受できることを目指す。
世界的に利用者が急増しているEコマースについても、「きちんと商品が届く保証があって初めて普及する」と指摘。「楽天が商品をアフリカに送りたいなら、ケニアにはMポストがある」と強調する。実際、海外からケニアに届く荷物の3分の1は中国のネット通販最大手、アリババ集団からのもので、購入者はMポスト利用者が大半という。
「ケニアにはケニア流のインフラがある。日本のネット企業は何を待っているのか」。オマール氏はより多くの日本企業がアフリカ市場に目を向けてくれることを期待している。