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教育でも採用…印刷物でAR活用が広がり始めた理由

中小制作現場も導入
教育でも採用…印刷物でAR活用が広がり始めた理由

ホクト印刷のおみくじAR

 ポスターや新聞などの印刷物にCGなどを重ねる拡張現実(AR)が広がってきた。中小印刷会社に勤めるグラフィカルデザイナーがARコンテンツを提案できる制作環境が整ってきたためだ。小中学生の地域学習にも採用され、街の魅力をARで紹介する学校もある。創作ハードルが下がりビジネスとして成立するとクリエイターが増える。キラーコンテンツが現れる日は近いかもしれない。

演出多彩に


 「若手が自主的に勉強してくれ、ARの提案ができるようになった。顧客の引き合いの強さに驚いている」とホクト印刷(神奈川県開成町)の菊地裕之社長は目を細める。同社は社員約20人の中小印刷会社だ。デジタル化でチラシや折り込みなどの印刷物が減る中で、印刷とARを組み合わせた商材を提案する。印刷物をスマートフォンで撮ると、動画が流れたりおみくじが引けたりする。販促のチラシやカタログの演出が多彩になる。

 ホクト印刷はスターティアラボ(東京都新宿区)のARアプリ「COCOAR2(ココアル2)」を採用した。ARの認識に使うマーカーデータと、起動する動画やCGなどのコンテンツをアップロードすると、ARが使えるようになる。デザイナーはコンテンツデザインに集中できる。菊地社長は「若手は勉強し始めて数カ月で使いこなしている。発想次第でいい提案ができる」と期待する。

利用データ分析


 千明社(東京都千代田区)の杉原範行取締役営業本部長は「5年前にココアルを導入した時は博打だった。だがすぐに大型案件を受注でき、導入費は回収できた」と振り返る。導入後ARアプリのダウンロード数が増え、スマホを立ち上げてARを起動するハードルが下がってきた。

 ARはコンテンツの利用状況をデータ分析できる点が魅力だ。営業シーンではアプリのダウンロードなどの一手間を丁寧に対応することで、営業マンの人となりを伝える機会にもなる。杉原取締役は「グラフィカルデザインに加えて顧客体験をいかに豊かにするか。動画を流すだけだと飽きてしまう。デザイナーの領域が広がっている」と指摘する。

地域学習に活用


 教科書大手の東京書籍(東京都北区)は学校の地域学習に自社開発のARアプリ「マチアルキ」を提供する。生徒が地元の商店街や観光地の魅力を発掘して、動画などにまとめてARで発信する。地域と生徒、テクノロジーをつなぐ教育として着目され、約150校に導入された。

 教育文化総轄部の長谷部直人部長は「将来なりたい職業ランキングでユーチューバーがトップ3に入るようにコンテンツ制作への関心は高い。アップロードされるコンテンツが多く、インターフェース(閲覧画面)を直したほどだ」とうれしい悲鳴を上げる。

 生徒が地元の名跡の歴史を取材したり、外国人観光客向けにコンテンツを翻訳したりと幅広い学びが可能だ。長谷部部長は「当初は中学生を想定していたが、小学生も労作をアップしている」と感心する。何より地域の大人がARの出来に驚くことが創作モチベーションになっている。

 ARは普及が始まってから数年経つが、いまだにキラーコンテンツが見つかっていない。だが新奇なコンテンツを狙って作るフェーズから、使っているうちに見つかるフェーズに移りつつある。各分野でコロンブスの卵のようなアイデアが湧き出てくると期待される。
日刊工業新聞2019年7月11日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
印刷物とARは相性がよく、印刷会社の付加価値提案として定着しようとしています。QRコードのようなマーカーを使わないマーカーレスのARが実用レベルになり、印刷物のグラフィックデザインを壊さなくなりました。今後、スマホ側で3D計測機能や物理エンジンが動くようになると、より豊かなコンテンツを再生できるようになります。例えば3D計測で人体の採寸やバーチャルな家具を実寸大で表示できるようになります。CGが実物の陰に隠れられるようになることも大切です。物理エンジンが入ると例えばバーチャルにけん玉ができるようになります。個々の実装例はありますが、スマホの計算能力でARのトリガー認識、3D計測、物理エンジンの三つが動くようになると、スマホの画面の向こうに新しい世界を作れるようになります。いまARを始めたグラフィックデザイナーは、顧客体験をデザインするようになり、その先にはバーチャルな世界をデザインするのかもしれません。オープンワールドのゲームクリエイターに近づいていくのだと思います。

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