METI
日本の物流を支えて1世紀 特殊自動車メーカーの伝統と実力
大型冷凍車では国内シェア3割
矢野特殊自動車はタンクローリーや車両運搬車などの特殊車両メーカー。1958年に国内初の冷凍機能付き冷凍車を開発。それから60年を経た現在でも、大型冷凍車は競争力を持つ主力製品で国内シェア3割を誇る。
創業は1922年。矢野彰一社長の祖父である故・矢野倖一氏が現存最古の国産自動車「アロー号」を製造したことに始まる。時代は大正から昭和へと移り、戦争に突入していく時代の中で乗用車ではなく特装車製造の礎を築いた。オーダーメードの製品作りを基本としており「輸送品質と輸送効率の技術パートナー」を経営理念に掲げる。
製造する特殊車両が活躍するフィールドは多様だ。航空産業向けには燃料を供給する給油車やフードローダーと呼ぶ機内食を搬入するための車両がある。給油車は民間向けで約5割のシェアという。2020年の東京五輪・パラリンピックに備えて需要が高まり、19年度は製作が本格化する。
矢野社長は「使い勝手を常に追求していこう」と製品改良に力を入れる。取引先の物流業界はドライバーの人材不足が深刻化し、生産向上へ向けた変革期にある。安全性や効率性、外観の改善を重ねることで〝乗りたくなるクルマ〟の開発を目指している。
改良の一環で4年前に始まったのが「100の技ありアイテム」と名付ける取り組みだ。同社の冷凍車と同じ年に生まれた「チキンラーメン」が卵を載せるためのくぼみを付けて評価されたように、小さな工夫を重ねユーザーにとって使いやすく喜ばれる製品づくりを追求する。
ユーザーから高い支持を得る改良も続々生み出す。代表例がLEDライトを天井の隅に直線で配置する設計を施した「LEDコーナーライト」。もともとは冷凍車の断熱性向上と結露防止を目的に企画した。使ってみると影が少なく全体が明るくなり検品作業など作業者の労働環境改善に大きく貢献した。
社会全体で働き方改革が進むなか、物流業界でも過度な長時間労働を是正する動きが広がる。トラック輸送業界では複数のドライバーが交代する方法も採用されている。
一方、電子商取引(EC)普及で宅配便の取扱件数は増加基調にある。労働時間の制約をクリアした上で効率化を実現することが急務だ。こうした業界のニーズを基に開発したのが冷凍車「フルトレーラー」。バス高速輸送システム(BRT)向け連節バスのように車体が2両連なっている車両だ。各車両に冷凍機が付き、従来の大型車両に比べて1回で2倍の荷物を運べる。高度な運転技術が求められるなど普及に向けた課題もあるが、次世代車のイメージを発信した。
自動車業界は100年に1度の大変革期にあり、IT企業といった異業種との連携は喫緊の課題だ。同社も取引先の協力を得てIoT(モノのインターネット)によるデータ取得を始めた。温度データを分析し、最も効率の高い積載設計によって顧客のランニングコストを抑えることも可能だ。矢野彰一社長は「データをどう活用するかが重要。最適化によって新たな商品価値を提供したい」と期待を寄せる。顧客ニーズに応え、ソフト、ハードの両面で進化を目指す。
大型冷凍車は、全国各地で生産された肉や野菜、加工食品を長距離輸送で消費者に届ける。同社は日本の食卓を支える製品を半世紀以上にわたり製造してきただけに「地域で生産される方がいてこそ成り立つ」(矢野社長)と全国の生産者に感謝している。
地域貢献にも積極的に取り組む。「新宮浜クリーン作戦」と題された地元の美化活動に取り組むほか、毎年11月に開かれる祭り「まつり新宮」にも参加。駅伝大会には4チームを派遣し、屋台のうどん屋を出店した。地域貢献に注力する背景には「成長する町とともに発展したい」という思いがある。
本社を構える福岡県新宮町は福岡市に隣接し、ベッドタウンとして人口が増えている。全国各地で人口減少が進む中でも人口増加率が全国1位と活気づく。同社は町を代表する企業の1社であるが、BツーB(企業間)ビジネスゆえに市民の認知度は低い。社内活性化を図る社内組織「社員活性化委員会」も知名度の向上を課題と位置づけており、地道にアピールすることを大切にしている。
「お父さん、お母さんは〝矢野特殊自動車〟で働いているんだよ」-。矢野社長は従業員が家族や子どもに自信を持って自社の名前を伝えられる環境を望んでいる。今後は知名度を高めることで地元採用も促進したい考えだ。
2022年には創業100年を迎える。掲げたスローガンは「SHOOT THE NEXT ARROW!(次の矢を放とう!)」。次の矢とは一体何を指すのか。矢野社長は「追求している輸送品質や性能などの価値観で技術パートナーとしての存在感を高めたい」と語る。「100の技ありアイテム」プロジェクトで小さな改良を積み重ねながら、IoT技術を用いて新たな価値を創造する。
国産最古の自動車を製造した創業者
創業は1922年。矢野彰一社長の祖父である故・矢野倖一氏が現存最古の国産自動車「アロー号」を製造したことに始まる。時代は大正から昭和へと移り、戦争に突入していく時代の中で乗用車ではなく特装車製造の礎を築いた。オーダーメードの製品作りを基本としており「輸送品質と輸送効率の技術パートナー」を経営理念に掲げる。
製造する特殊車両が活躍するフィールドは多様だ。航空産業向けには燃料を供給する給油車やフードローダーと呼ぶ機内食を搬入するための車両がある。給油車は民間向けで約5割のシェアという。2020年の東京五輪・パラリンピックに備えて需要が高まり、19年度は製作が本格化する。
矢野社長は「使い勝手を常に追求していこう」と製品改良に力を入れる。取引先の物流業界はドライバーの人材不足が深刻化し、生産向上へ向けた変革期にある。安全性や効率性、外観の改善を重ねることで〝乗りたくなるクルマ〟の開発を目指している。
改良の一環で4年前に始まったのが「100の技ありアイテム」と名付ける取り組みだ。同社の冷凍車と同じ年に生まれた「チキンラーメン」が卵を載せるためのくぼみを付けて評価されたように、小さな工夫を重ねユーザーにとって使いやすく喜ばれる製品づくりを追求する。
ユーザーから高い支持を得る改良も続々生み出す。代表例がLEDライトを天井の隅に直線で配置する設計を施した「LEDコーナーライト」。もともとは冷凍車の断熱性向上と結露防止を目的に企画した。使ってみると影が少なく全体が明るくなり検品作業など作業者の労働環境改善に大きく貢献した。
社会のニーズを捉えた開発姿勢
社会全体で働き方改革が進むなか、物流業界でも過度な長時間労働を是正する動きが広がる。トラック輸送業界では複数のドライバーが交代する方法も採用されている。
一方、電子商取引(EC)普及で宅配便の取扱件数は増加基調にある。労働時間の制約をクリアした上で効率化を実現することが急務だ。こうした業界のニーズを基に開発したのが冷凍車「フルトレーラー」。バス高速輸送システム(BRT)向け連節バスのように車体が2両連なっている車両だ。各車両に冷凍機が付き、従来の大型車両に比べて1回で2倍の荷物を運べる。高度な運転技術が求められるなど普及に向けた課題もあるが、次世代車のイメージを発信した。
自動車業界は100年に1度の大変革期にあり、IT企業といった異業種との連携は喫緊の課題だ。同社も取引先の協力を得てIoT(モノのインターネット)によるデータ取得を始めた。温度データを分析し、最も効率の高い積載設計によって顧客のランニングコストを抑えることも可能だ。矢野彰一社長は「データをどう活用するかが重要。最適化によって新たな商品価値を提供したい」と期待を寄せる。顧客ニーズに応え、ソフト、ハードの両面で進化を目指す。
地域とともに成長
大型冷凍車は、全国各地で生産された肉や野菜、加工食品を長距離輸送で消費者に届ける。同社は日本の食卓を支える製品を半世紀以上にわたり製造してきただけに「地域で生産される方がいてこそ成り立つ」(矢野社長)と全国の生産者に感謝している。
地域貢献にも積極的に取り組む。「新宮浜クリーン作戦」と題された地元の美化活動に取り組むほか、毎年11月に開かれる祭り「まつり新宮」にも参加。駅伝大会には4チームを派遣し、屋台のうどん屋を出店した。地域貢献に注力する背景には「成長する町とともに発展したい」という思いがある。
本社を構える福岡県新宮町は福岡市に隣接し、ベッドタウンとして人口が増えている。全国各地で人口減少が進む中でも人口増加率が全国1位と活気づく。同社は町を代表する企業の1社であるが、BツーB(企業間)ビジネスゆえに市民の認知度は低い。社内活性化を図る社内組織「社員活性化委員会」も知名度の向上を課題と位置づけており、地道にアピールすることを大切にしている。
「お父さん、お母さんは〝矢野特殊自動車〟で働いているんだよ」-。矢野社長は従業員が家族や子どもに自信を持って自社の名前を伝えられる環境を望んでいる。今後は知名度を高めることで地元採用も促進したい考えだ。
2022年には創業100年を迎える。掲げたスローガンは「SHOOT THE NEXT ARROW!(次の矢を放とう!)」。次の矢とは一体何を指すのか。矢野社長は「追求している輸送品質や性能などの価値観で技術パートナーとしての存在感を高めたい」と語る。「100の技ありアイテム」プロジェクトで小さな改良を積み重ねながら、IoT技術を用いて新たな価値を創造する。