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多様化するヘッドホン、ソニーの技術者が語る「音と人の関係」

“音のパーソナライズ化”がもたらすもの【第1部:ソニー】
多様化するヘッドホン、ソニーの技術者が語る「音と人の関係」

投野氏(左)と井出氏。投野氏は80年に入社し、ウォークマンとともに歴史を歩んだ

 イヤホンやヘッドホンほど、価格帯の広いデジタル製品はない。100円ショップで売られる製品から100万円もする最高級品まであり、多くの人が自分好みの製品を常に身に付け、電車や街中、自分の部屋で好きな音に囲まれて暮らす。この日常風景はどうやって生まれ、人の生活をどう変えようとするのか。“音のパーソナライズ化”がもたらすものを、音楽と人を近づけてきたエンジニアと聴覚・脳の研究者の視点からひもとく。【第1部】は、1979年に発売した携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」で、音楽が人に寄り添う環境づくりをリードしてきたソニー。
【第2部】聴覚研究者が語る、音のパーソナライズ化で「脳」に起きる変化

『どこまでできるかやってみたい』


 ソニービデオ&サウンドプロダクツ(東京都品川区)でシニア音響アーキテクトを務める投野耕治氏は音楽と人の関係の変化について、「昔は良い音を鑑賞するという聴き方だったが、今は聴き方も音の範囲も広がっている」と説明する。音にこだわって聴く“音マニア”や、音楽でリラックスしたい人、スポーツをしながら聴きたい人―。良い音も人それぞれで、ライブ会場の大音量のロックや管弦楽演奏、教会音楽という人もいる。

 これに合わせてヘッドホンも多様化した。ワイヤレスや肩掛けといった形状の違いから、周囲の騒音を聞こえにくくする「ノイズキャンセル」や高音質再生といった機能進化の違い。ソニーにはクラブ音楽向けのXBシリーズのように、個別の音楽に最適化した製品もある。特に「好きな曲を好きに聴きたいヘッドホン好き」(投野氏)の人は、高音質なハイレゾリューション(ハイレゾ)音源を好む傾向にある。

 同社アコースティックエンジニアの井出賢二氏は、「エンジニアは『どこまでできるのかやってみたい』という思いが強い」と熱意を語る。

 その最たる例が、18年12月発売のデジタルミュージックプレーヤー「DMP―Z1」だ。電池セル5個を使う独立電源システムにより、デジタル系とアナログ系の電源を分離。デジタル回路からアナログ回路へのノイズなど、音質劣化の要因を徹底的に減らした。価格は95万円(消費税抜き)と高額な上、簡単に持ち運べる大きさでもないが、顧客はついてくる。作り手と買い手との“幸せな関係”が多様化した製品を生み出した。

立体音響に注目


専用部品も光る、究極の音を追求した音楽プレーヤー「DMP-Z1」

 最近では、周囲の音とのバランスも製品開発のポイントになる。外の音とバランスをとる方法は2種類ある。一つは耳をふさがない構造の“ながら聞きイヤホン”。もう一つは、ノイズキャンセル機能で周囲の音をしっかり遮断しつつ、必要な時に外の音をマイクで集音してヘッドホン内に流す方法だ。

 外の音をどの程度取り込むかは、手動だけではなく自動でも調整できる。スマートフォンと連携し、スマホの加速度センサーで人が「歩いている」や「止まっている」「乗り物に乗っている」などを判別。音楽に浸っても安全な時はノイズキャンセルをかけ、周囲に注意が必要な場面は外音を拾う。

 エンジニアが目指す究極の音楽体験の追求が止まることはない。井出氏は、「オーディオ全体として、立体音響や没入感はますます注目される」と開発への意欲を語る。投野氏は、「その場にいるように感じる原音体験の再現には、まだまだやることがある」と探究心は尽きない。

 同社は1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES2019」で、空間音響技術を活用した全方位から音に包まれる音楽体験「360リアリティオーディオ」の提供を始めると発表。新しい技術進化が、また次の進化を呼ぶ。

【第2部】聴覚研究者が語る、音のパーソナライズ化で「脳」に起きる変化

ノイズキャンセル機能付きヘッドホン「WH―1000XM3」

日刊工業新聞2019年3月28日掲載より加筆
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
ウォークマンは発売40周年です。【第2部】は、長年聴覚研究に携わり、現在はスポーツ脳科学プロジェクトを統括するNTTの柏野フェローのロング・インタビューです。よかったら、あわせてお読みください。

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