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カルビーのポテチ育てる “ポテトチップス部ベーシック課” 荒木友紀さんの仕事

定番商品のつくり方、育て方 #6 ~カルビー「ポテトチップス」~
 カルビーポテトチップスは1975年に誕生しました。創業者の松尾孝さんがアメリカのスーパーでポテトチップスの袋が山積みに置かれているのを見て、「やがて日本でもこんな売り場ができて流行るだろう」と考えたことがきっかけです。

 今回お話を聞いた荒木友紀さんが所属するポテトチップス部ベーシック課は、カルビーポテトチップスの定番商品「うすしお味」「のりしお」「コンソメパンチ」を中心とした薄切りのポテトチップスの味のリニューアルや販促、企画品の開発などを担当する部署です。荒木さんはブランドマネジャーとして、ブランド全体を管理する役割を担っています。(聞き手・平川透、写真・国広伽奈子)

「定番商品」が定番たる所以は何でしょうか?類似の商品やサービスがある中で、「その商品」が選び続けられるために、つくり手は何を考え、何を大事にしているのでしょうか。

このシリーズは、主に商品開発やマーケティングの観点から、様々なジャンルの定番商品に携わる方にお話を聞き、「多くの人に長く愛される」ものづくりのヒントをお届けします。

「1袋食べた時に食べた人がどう思うか」が大事


—定番商品を手がけることの難しさってありますか?

 定番商品は常にスーパーやコンビニに置かれているので、新鮮さがなくなり、新商品や企画品に目がいってしまうことが多いです。定番の3つ(「うすしお味」「のりしお」「コンソメパンチ」)に戻ってきてもらうための施策を打たないと忘れられてしまいます。それが味づくりにも影響していると思います。飽きのこない味づくりを大事にしています。

 

—どんな味づくりを目指していますか?

 「1袋食べた時に食べた人がどう思うか」を必ず気にかけています。1、2枚食べた時には、インパクトがあって美味しいという商品はいっぱいあると思います。ただしベーシックな3つの商品に関しては1袋を食べてどう感じていただくかが非常に大事だと考えていて、味づくりの際もそこを重要視しています。

 開発担当者にも「1、2枚食べただけで決めないでください。ある程度量を食べて判断するようにしてください」と伝えています。

「うすしお味」の塩の種類や粒度を変えている


—最近は何か改良をしましたか?

 「コンソメパンチ」は去年の40周年を機にパッケージデザインをリニューアルしました。「うすしお味」は2015年が40周年でしたので、その時に味とパッケージデザインを変えました。そのようなタイミングで変えることが多いですが、それ以外にもちょっとずつ時代に合わせて変えています。ですので、10年間そのままということはまずありません。これからも定期的にリニューアルしたいと考えています。

—具体的にはどういったところを変えているのですか?

 健康志向に合わせて添加物を無くしたり、味を優しくしたりしてきました。メインユーザーである3、40代のお母さんが意識していることを調査したりして、どういうところを変えたほうがいいのか話して決めていきます。

 「コンソメパンチ」を例にとると、そもそもコンソメって色々なお野菜やお肉が入っているものですが、去年の「コンソメパンチ」のリニューアルにあたって調査した時、お母さん方が「何かわからないものが使われていそう」と感じていることがわかりました。実際に、パッケージの裏を見てもすごく色々なものが使われていて、「何となく添加物が多そう」「味が濃そう」と思われている方が多かったです。それであれば、「いろいろな野菜やお肉が入っているんだ」ということをしっかり伝えていこうという方針に決まりパッケージを変えました。

 

 このようにロングセラー商品のリニューアルは、ユーザーの声をきっちり聞いて、どこをどう変えるかを決めていきます。

—「うすしお味」はどういったところを変えるのですか?塩加減などを変えたりするのですか?

 塩の種類や粒度を変えます。味の感じ方が変わってきます。石垣島の塩や自然結晶塩などを使っていた時期もありました。15年にリニューアルした時は「カルビーのポテトチップスはパリッとした食感が大事だ」ということに立ち返り、食感を生かすような塩加減に変えました。

コミュニケーションの中心はCMから売り場へ


—販促の基本的な方針を教えてください。最近はCMキャンペーンが昔ほど頻繁ではありませんね。

 会社として新商品に注力してテレビコマーシャルを投下しています。ポテトチップスのようなロングセラーブランドは、認知度が高いので、どちらかというとお客様に還元できる商品だと思います。例えば最近ですと、増量企画をしたり、大収穫祭のようなプレゼント企画をしたりということをコミュニケーションの中心に置いています。「売り場でお客様とコミュニケーションをとる」ということに方針を変えてきています。

—47都道府県の地元料理の味を表現した「ラブ ジャパン」企画の背景について教えてください。

 「♡JPN(ラブ ジャパン)」プロジェクト第1弾は2017年に実施しました。定番のポテトチップスは3、40代の主婦の方々が一番買ってくださっているのですが、間口を拡大したいという思いがありました。

 伊藤社長のアイデアで2016年に福島県限定で「ポテトチップスいかにんじん」という商品を発売したところ、福島県内ですごく話題になりました。買っていただいた方を調べると、今までポテトチップスを買っていなかった人が一定数いらっしゃったのです。その理由を紐解くと、地元の人が愛する味がポテトチップスになっているということで、今まで「うすしお味」では振り向かなかった人の振り向くきっかけになっていました。

 そういったことがわかったので、全国で展開したらどうかという考えで始まりました。2017年度に実施してみて、新しいお客様を取れたという実績を示すことができました。

 

—広島版の「ウニほうれん」など、取り上げる料理には県外の人には馴染みの薄そうな料理が多い気がします。どうやって選ぶのですか?

 一緒に取り組ませていただいているのは地方自治体の皆様です。地元を愛するお客様からインターネットで募集した味案をもとに、地方自治体の皆様とワークショップや試食会を行い、味やパッケージを決定しました。発売後には、多くのお客様から地元を応援する温かい声が寄せられました。

企業の根幹ブランドを担うということ


—競合商品の研究はどういったことをしていますか?

 新商品が出てきたらもちろん食べてみます。ミーティングでも競合の新商品を出して、「どうしてこれが売れていると思う?」「店頭でどう見えていた?」といったディスカッションをします。市場の動向に関する数字ももちろん確認します。企画者として学ぶべきところはチーム内で共有します。

—企業の根幹を担っているブランドを手がける難しさを教えてください。

 やっぱり失敗ができません。時代に合わせて変えていくのですが、大きく変えてしまったら今のお客様を放してしまうことになります。変えられる範囲を見極めることがすごく大事だと思います。

 また、通年きっちりと供給することも大事です。ジャガイモという農産物を扱うので、2年前のジャガイモ問題のようなことが起きてしまいます。安定して供給していくために「ジャガイモの事業」とあわせて考えなくてはならないことも難しいです。

【略歴】
荒木友紀(あらき・ゆき)
2004年入社。商品部(スナックなど)を経て、現職。現在、マーケティング本部ポテトチップス部ベーシック課にて、ポテトチップス「うすしお味」「のりしお」「コンソメパンチ」のブランドの管理を行う。

連載「定番商品のつくり方、育て方」
#1 トンボ鉛筆「モノ消しゴム」
#2 ゼブラ「サラサクリップ」
#3 伊藤園「お〜いお茶」
#4 カルビー「ポテトチップス」
#5 高橋書店「高橋手帳」
#6 コンバース「オールスター」【近日公開予定】
#7 ハウス食品「うまかっちゃん」「バーモントカレー」【近日公開予定】
#8 三省堂「新明解国語辞典」「三省堂国語辞典」

*掲載順は公開順ではありませんので、ご了承ください。
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
弊社、日刊工業新聞社がある人形町の近くには古びた角打ちがあって、職場の人たちと時々飲みにいきます。「うすしお味」と「コンソメパンチ」が置かれていて、買って袋を開けると一瞬でなくなります。他にも色々おつまみがあるのに。カルビーの別のブランドですが、みんな、「やめられない、とまらない!」感じです。

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定番商品のつくり方、育て方
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