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超高齢化の日本が問われる、「生涯現役社会」の実現は可能か

官民の取り組みの最前線に迫る
超高齢化の日本が問われる、「生涯現役社会」の実現は可能か

健康で生き生きと日々を過ごしたい-。誰しもそう願う

 世界に先駆けて「超高齢社会」に突入する日本。平均寿命は延び続け、総人口に占める70歳以上の割合も2018年に初めて2割を超えた。急激な人口構造の変化を前に立ちすくんだ先に到来するのは、社会保障費のさらなる増大と労働力不足がもたらす経済低迷。直面する課題を克服し、持続可能な未来を実現するカギとなるのは、誰もが健康で自立し、長期にわたる社会参加を可能にする「生涯現役社会」。その実現に向けた官民の取り組みの最前線に迫る。

人生100年時代が目前に


 2017年の日本人の平均寿命は男女ともに過去最高を更新した。女性の87.26歳で香港に次ぐ世界2位。男性の81.09歳は順位をひとつ落として3位になったものの初めて81歳を超えた。

 平均寿命とは死亡率が今後も変わらないと仮定し、その年に生まれた0歳児があと何年生きられるかを表す指標。厚生労働省の試算によると、2017年生まれの男女が75歳まで生きる割合は男性が75.3%、女性が88.1%。90歳の卒寿まで生きる割合は男性が25.8%、女性が50.2%となりいずれも過去最高となった。まさに人生100年時代の到来が目前に迫る。

 世界有数の長寿国である日本。ところが本来、喜ばしいことであるはずの長寿が、医療や介護をはじめとする将来不安と相まって、手放しで喜べないのが昨今である。自立して生活できる健康寿命と平均寿命との差は縮まらず、居住地域や社会環境による立場による健康格差の問題も懸念されてきた。

 理想は平均寿命=健康寿命である。健康寿命が平均寿命に近付けば、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)向上といった個人の幸福度にとどまらず、社会そのものに大きな効果をもたらす。高齢者の社会参加を通じて社会保障制度が抱える年金や健康保険の財政問題、さらには人手不足の問題も解決できるからだ。

健康維持につながる好循環を


 一人一人が健康を管理する習慣を持ち、健康を維持することで長期にわたる社会参加を可能にし、さらに社会への関わりが健康維持につながる好循環を民間の活力も活用しながらどう生み出すかー。国の施策の軸足もこの点に移ってきた。

 成長戦略に「健康寿命の延伸」が掲げられたのは2013年の「日本再興戦略」にさかのぼる。その後、「未来投資戦略2017」では、革新的技術を積極活用することで経済成長を実現するための戦略分野のひとつとして位置づけられ、さらに同戦略の2018年版では、「平均寿命の増加分を上回る新たな健康寿命の増加」が新たな目標となった。

 具体的方策として、例えば産学官連携で、早期予防から生活支援までの総合的な認知症対策に取り組むことや、予防から治療、ケアまでの総合的なヘルスケアソリューションの創出を促進するといったへルスケア産業の活性化を図る方針が盛り込まれた。
 実際、ヘルスケアは、「治療」だけでなく、「未病」段階からのケアや「予防」にシフトしてきており、かつ画一的な治療からより個別化されたケアに変化していくとみられる。とりわけ個人の自助努力を促す施策では民間活力やアイデアが生かされる余地が大きい。

官民の取り組み広がる


 こうした動きに呼応、あるいは先取りする形で、官民の取り組みが広がっている。健康経営は、これまで配慮義務だった従業員の健康を経営的な視点から捉え直し、戦略的に実践することで収益力や生産性の向上につながるとの認識が浸透しつつある。健康増進や生活習慣の改善につなげることをコンセプトにした保険商品の開発も相次ぐ。自治体が民間資金を活用することで予算を効率的に使いながら地域住民の健康増進事業を実施する動きや医療や介護体制の効率化や健康増進につながる画期的なイノベーションも生まれつつある。

 経済産業省は国民の健康に対する多様なニーズに対応するヘルスケア産業の創出を目指し、「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」を開催。スタートアップのさらなる飛躍を後押ししている。

 ヘルスケア分野に押し寄せつつある新たな潮流。そのうねりをいかに大きなものにしていけるかが、これからの日本に問われている。

1月末に開催されたジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019の表彰式
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神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
「生涯現役」を目指して、いまできることはやはり日頃の健康増進。冬の間怠けていたランニングを再開しようと心に誓ったのでした。

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