白神山地で息づく“マタギの掟”-厳しさで山の恵み守る
世界遺産登録で猟に支障。伝統文化を失う危うさ
後継者不足、知恵や技を次世代にどうつなぐか
“マタギのルール”。それは山の恵みを取りすぎたりせず、必要な分だけいただくという基本的な考え方をはじめとする自然の中で暮らすための約束ごと。山の生態系が回復できる力を残すように加減しながら、調和を図ってきた。工藤さんは「山を静かにさせてから」次の年も山に入ると表現する。
何百年とマタギが白神の山で暮らしてきた中で、ブナの原生林は守られてきた。山菜やキノコなどは毎年採れ、ツキノワグマやノウサギなど豊富な動物が生息している。マタギに限らず、麓の山里に暮らす人々は山の恵みをうまく利用しながら生活してきた。
工藤さんが山に入っていた約50年間で1番の変化は世界自然遺産に登録されたことだという。白神山地は、人為的な影響をほとんど受けていない原生的な日本固有のブナの天然林が、東アジア最大級の規模で分布していることが評価された。
登録されるまでは山はどこへでも入り、猟をしていた。しかし登録後は“核心地域”への立ち入りが制限される。さらに04年に世界遺産地域全てを含んだ地域が「国指定鳥獣保護区」に指定されたため、マタギも猟が困難になった。
国や森林管理者などのルールは、世界遺産地域を開発や乱獲から守るために存在する。しかしそれによって白神山地の自然と深く関わってきたマタギの知恵や技といった伝統文化を失ってしまう危うさも併せ持っている。
工藤さんもガイドの仕事を「元気なうちは続けるつもりだがあと2~3年じゃないか」というように、伝統的な文化を継承したマタギは高齢化などもあり数少なくなっている。白神マタギ舎もスタッフは3人で、伝統文化を伝える後継者も十分とはいえない。
都市に暮らし自然との関わりが薄くなる今、限りある資源を大切に使い次世代へつないでいくために、改めて自然との共存、持続可能な社会の構築を考えたい。
日刊工業新聞2015年07月31日地球環境特集