ノーベル賞、日本人の有力候補と業績まるっと紹介
2年ぶり日本人受賞なるか
この時期の恒例行事となっているノーベル賞受賞者の発表が1週間後に迫った。自然科学3賞は10月1日に生理学医学賞、2日に物理学賞、3日に化学賞が発表される。日本人の有力候補者とその研究業績を紹介する。
生理学医学賞では、体内の異物に抵抗する免疫ブレーキ役のたんぱく質「PD―1」を発見した京都大学の本庶佑(たすく)特別教授が有力候補。PD―1の働きを抑えれば、免疫細胞によるがん細胞への攻撃が再活性化することを発見し、これを応用した小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ」の開発につながった。
免疫の暴走を抑える特別なT細胞「制御性T細胞」を発見した大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文教授も候補に挙がる。正常な免疫機能の維持に必要とされ、アレルギーや自己免疫疾患を引き起こすリンパ球の活性化と増殖を抑える。制御性T細胞群の発生を遺伝子レベルで操作できるようになれば、自己免疫疾患などの治療に役立てられるという。
コレステロールを下げる薬の開発につながった物質「スタチン」を発見した東京農工大学の遠藤章特別栄誉教授も有力だ。
生命科学のデータベース(DB)という新しい分野でも日本人の有力候補者が浮上した。米科学情報企業のクラリベイト・アナリティクス(フィラデルフィア市)は京都大学の金久実特任教授を有力候補者に選定。金久特任教授は全遺伝情報(ゲノム)などのビッグデータ(大量データ)から生体システムの機能を解読するDB「KEGG」を開発。学術機関や製薬企業など幅広く使われている。
海外勢では、現在最も勢いのある研究の一つ、ゲノムを自在に変えられるゲノム編集技術の一種「クリスパー・キャス9」が注目だ。
ノーベル物理学賞は天文学、量子力学、物性物理学など幅広い分野が受賞対象となる。17年は時間と空間の歪みである「重力波」を観測した米国の研究者3人が受賞した。今年はどんな研究が受賞するのか。
日本では材料やデバイスの開発に強みがある。その中で同賞の有力候補とされるのは東京工業大学の細野秀雄教授だ。液晶ディスプレーに使われる酸化物半導体「IGZO」や鉄系高温超電導体、電気を通すセメントなどを開発し、世界に衝撃を与えた。
さらに省エネルギーデバイスの実現が期待される研究としては、電気と磁気の性質を備えた「マルチフェロイック物質」を発見した東京大学の十倉好紀卓越教授が挙げられる。また磁石の性質を持つ半導体「磁性半導体」を開発し、高性能で低消費電力の集積回路の実現を目指す東北大学の大野英男総長も外せない。
化学賞は有機化学に加えて生化学や無機化学、分析化学など、他の2賞に比べ広い分野から選ばれる。17年に生体分子を計測するクライオ電子顕微鏡が選ばれたため、今年は有機化学や材料分野が有望だ。
日本人からは光触媒を発明した藤嶋昭東京理科大学栄誉教授が有力候補だ。光のエネルギーを化学反応に利用した。光触媒は防汚コーティングなどとして実用化された。現在も人工光合成の実現を目指して、熾烈(しれつ)な開発競争が進んでいる。
材料分野では企業出身の研究者の貢献が大きい。リチウム電池の原型を確立し、物理学賞の候補にも挙がる旭化成の吉野彰名誉フェローや、ネオジム磁石を開発した大同特殊鋼の佐川眞人顧問が候補。ともに自動車の電動化に不可欠な技術だ。電池大容量化は航続距離を伸ばし、磁石の力が増したためモーターで自動車を走らせられるようになった。ネオジム磁石は開発から30年以上世界最強の座に君臨している。
他にも次世代太陽電池として注目されるペロブスカイト太陽電池を発明した宮坂力桐蔭横浜大学特任教授や、炭素材料のカーボンナノチューブ(CNT)を発見した飯島澄男名城大学終身教授・NEC特別主席研究員も有力候補として名前が挙がる。
生理学医学賞 抗がん剤開発に貢献
生理学医学賞では、体内の異物に抵抗する免疫ブレーキ役のたんぱく質「PD―1」を発見した京都大学の本庶佑(たすく)特別教授が有力候補。PD―1の働きを抑えれば、免疫細胞によるがん細胞への攻撃が再活性化することを発見し、これを応用した小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ」の開発につながった。
免疫の暴走を抑える特別なT細胞「制御性T細胞」を発見した大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文教授も候補に挙がる。正常な免疫機能の維持に必要とされ、アレルギーや自己免疫疾患を引き起こすリンパ球の活性化と増殖を抑える。制御性T細胞群の発生を遺伝子レベルで操作できるようになれば、自己免疫疾患などの治療に役立てられるという。
コレステロールを下げる薬の開発につながった物質「スタチン」を発見した東京農工大学の遠藤章特別栄誉教授も有力だ。
生命科学のデータベース(DB)という新しい分野でも日本人の有力候補者が浮上した。米科学情報企業のクラリベイト・アナリティクス(フィラデルフィア市)は京都大学の金久実特任教授を有力候補者に選定。金久特任教授は全遺伝情報(ゲノム)などのビッグデータ(大量データ)から生体システムの機能を解読するDB「KEGG」を開発。学術機関や製薬企業など幅広く使われている。
海外勢では、現在最も勢いのある研究の一つ、ゲノムを自在に変えられるゲノム編集技術の一種「クリスパー・キャス9」が注目だ。
物理学賞 通電セメントが世界に衝撃
ノーベル物理学賞は天文学、量子力学、物性物理学など幅広い分野が受賞対象となる。17年は時間と空間の歪みである「重力波」を観測した米国の研究者3人が受賞した。今年はどんな研究が受賞するのか。
日本では材料やデバイスの開発に強みがある。その中で同賞の有力候補とされるのは東京工業大学の細野秀雄教授だ。液晶ディスプレーに使われる酸化物半導体「IGZO」や鉄系高温超電導体、電気を通すセメントなどを開発し、世界に衝撃を与えた。
さらに省エネルギーデバイスの実現が期待される研究としては、電気と磁気の性質を備えた「マルチフェロイック物質」を発見した東京大学の十倉好紀卓越教授が挙げられる。また磁石の性質を持つ半導体「磁性半導体」を開発し、高性能で低消費電力の集積回路の実現を目指す東北大学の大野英男総長も外せない。
化学賞 有機・材料分野が有望
化学賞は有機化学に加えて生化学や無機化学、分析化学など、他の2賞に比べ広い分野から選ばれる。17年に生体分子を計測するクライオ電子顕微鏡が選ばれたため、今年は有機化学や材料分野が有望だ。
日本人からは光触媒を発明した藤嶋昭東京理科大学栄誉教授が有力候補だ。光のエネルギーを化学反応に利用した。光触媒は防汚コーティングなどとして実用化された。現在も人工光合成の実現を目指して、熾烈(しれつ)な開発競争が進んでいる。
材料分野では企業出身の研究者の貢献が大きい。リチウム電池の原型を確立し、物理学賞の候補にも挙がる旭化成の吉野彰名誉フェローや、ネオジム磁石を開発した大同特殊鋼の佐川眞人顧問が候補。ともに自動車の電動化に不可欠な技術だ。電池大容量化は航続距離を伸ばし、磁石の力が増したためモーターで自動車を走らせられるようになった。ネオジム磁石は開発から30年以上世界最強の座に君臨している。
他にも次世代太陽電池として注目されるペロブスカイト太陽電池を発明した宮坂力桐蔭横浜大学特任教授や、炭素材料のカーボンナノチューブ(CNT)を発見した飯島澄男名城大学終身教授・NEC特別主席研究員も有力候補として名前が挙がる。
日刊工業新聞 2018年9月24日