《ヤマハ編》ザ・インタビュー~「ボーカロイドの父」新たな挑戦(後編)
剣持秀紀ニューバリュー推進室室長「若い人たちに成功の実感を味わってもらうことが正しい方向性」
新しいことをやる時は、考えるよりまず走り始める
―新しい部門の役割は。
「社内で新しい事業や商品のアイデアを常に募集して、それが良いものであれば、顧客への価値を検証して、事業化をお手伝いすることです。事業提案という仕組みはこれまでにもあったんですが、今回は常に受け付けるようになったことがポイント。社内のインフラにしてしまって、アイデアに対し社員の知恵を結集させるんです」
「新しいことをやる時、考えることは大事ですが、その時にどう動くかが重要で、まず走り始めないといけない。ニューバリュー推進室は事務局みたいなものです。すでに200以上のアイデアがあって、面白いものもあります。具体化させるのはもう少し先ですが、とにかく早くやりたいですね」
―どのような人たちや部門から提案が多いですか。
「若手の技術系が多いですが、50代の人もいます。営業の方々もがアイデアを持っていると思います。それらをうまく吸い上げて何とか実現したい。今は恥ずかしがって提案していない人も多いけど、『こういう商品があれば絶対に売れるのに』という思いはあるはず。我々が社内の人々をマッチングさせていきたいですね」
―他社と組むケースとか。
「手段としては考えています。ヤマハだけで実現できないことも多い。ただ組むことが目的になってはダメですけど」
大企業は「何とかして成功してやろう」という執着心が弱い
―剣持さんは支援者側になりましたが、もう一度、自分が新規事業をやってみたい気持ちはありますか。
「しばらくは支援者でいたい。ボーカロイドで勉強させていただいたことを、おこがましいですが助言できればいい。若い人たちに成功の実感を味わってもらうことが、正しい方向性だと思います。私がしゃしゃり出ると、提案者からしたら『俺のを横取りしやがって』となってしまうので」
―剣持さんにとってベンチャーとはどういうものですか。
「(クリプトンの)佐々木さんと話していると、すごく気持ちの強さを感じます。伊藤さんもそう。彼らには、真剣さというか、『何とかして成功してやろう』という執着心がある。ヤマハが大企業か分かりませんが、大手企業はそこが弱いように感じる。自分が合弁会社に出向していた時もそうでしたが、雑用を含め結局自分でやりきらなければいけない。いろんな経験ができる点はベンチャーの良いところですね」
―茶髪はいつからですか。
「2000年からです。覚えてもらいやすいのと、何か責任取る時に黒髪にすればいいかな、と思って(笑)」
剣持秀紀(けんもち・ひでき)事業開発部ニューバリュー推進室室長
京大大学院工学研究科で電気電子工学を専攻、1993年ヤマハ入社。96年から出向先企業で音声合成の研究を始める。ヤマハに戻った後、2000年から研究チームのリーダーとして「VOCALOID(ボーカロイド)」の開発に本格的に取り組み、2007年にはVOCALOID2を発表。これを採用したクリプトン・フューチャー・メディアの初音ミクが大ヒット、バーチャル音楽の潮流を作った。今年1月から現職。高校生の時にバイオリンの演奏を始め、今の地元の市民オーケストラに参加し、多くのコンサートに出演している。1967年、静岡市清水区(旧清水市)生まれ。>
(ニュースイッチ編集部、取材協力=トーマツベンチャーサポート)
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