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地域ブランドの活性化へ!銅器の街の“錫婚式ツアー”誕生までの道のり

「地域団体商標」がもたらす可能性(後編)
地域ブランドの活性化へ!銅器の街の“錫婚式ツアー”誕生までの道のり

特別賞を受賞した高岡どっきどきチームのメンバー。後列左が定塚さん

 2018年12月12日。地域団体商標を取得した食や産業の振興を目的に「東海・北陸 地域ブランド総選挙」の決勝戦が名古屋市で開催された。食に関する地域ブランドが上位を占めるなか、地域の魅力発信の新手法として注目を集め特別賞(発信賞)に輝いたのが、高岡どっきどきチーム(富山大・伝統工芸高岡銅器振興協同組合)が提案した産業観光プラン“錫婚式(すずこんしき)ツアー”である。

 このツアーを考案したのは、地域の伝統文化に関心を寄せる富山大学芸術文化学部芸術文化キュレーションコースの3年生3名。参加者の1人で同大3年の河合成美さんは「企画立案にあたり、職人さんや観光客などさまざまな人と交流することができた。私たちが発信した情報を参考に街を訪れてくれる人もいて、うれしかった」と感想を語る。

 大学生と地域団体商標(地域ブランド)の商標権者がタッグを組んだ、今回の活動の狙いや地域に寄せる思いを、高岡どっきどきチームに参加した伝統工芸高岡銅器振興協同組合の定塚康孝さんに聞いた。

若い世代の力に期待 伝統工芸高岡銅器振興協同組合・定塚康孝氏


          

-そもそも高岡銅器の地域団体商標を取得した背景について教えて下さい。
 「地域では、『高岡銅器』と『高岡仏具』が地域名と商品・サービス名を組み合わせた地域団体商標(地域ブランド)にそれぞれ登録されています。高岡は約400年前から鋳物の技術が根付き、茶器や花器、仏具など幅広い商品が製造販売されています。地域団体商標の登録によって、商品名の不正利用を差し止めることができるなど、産地イメージの一層の向上につながると考えたからです」

 「特に仏具に関しては、意匠や品名を模倣した商品が国内外で流通していることが問題になっていることもあり、(地域団体商標の取得により)一定の効果は上がっていると思います。一方で、(伝統工芸品産業の振興を目指し経済産業大臣が指定する)『伝統証紙』など、以前から取得していた他制度との使い分けなど、課題があるのも事実です」

-今回の地域ブランド総選挙への参加は、幅広い世代に地域の魅力を発信する方策を探る狙いがあるとか。一連の取り組みの可能性をどう感じていますか。
 「まずは、いまの高岡銅器について知ってほしいと考えています。高岡銅器は置物や仏具など伝統工芸のイメージが強いかもしれませんが、現代の生活スタイルや町並みを意識した作品も数多く生まれています。こうした取り組みは、これまでは主に高岡銅器に携わる関係者が情報発信してきました。しかし、世代や世界が異なる視点で地域を見つめ直せば、新たな着眼点も生まれると期待しています」

-実際に地域ブランド総選挙では、ビジネスプランを考える上で必要な情報を提供するため、高岡銅器の製造を手がける企業にチームの学生を招き工場見学なども実施したそうですね。
 「ええ。他にも高岡銅器の関連企業が集まっているエリア(銅器団地)を見てもらったり市内に設置してある高岡銅器の作品を紹介しました。企業訪問などの様子は、2018年秋から『インスタグラム』(SNS)を使って広く発信してきました」

-SNSによる情報発信で留意したことは。
 「若い世代の感性を生かすため、インスタグラムの投稿内容に、なるべく大人の視点が入らないように心がけました。組合側は高岡銅器に関する専門的な助言を行う程度にとどめ、工場の雰囲気や職場の環境、作品が今の若い人たちの目にどのように映っているのか、見たこと、感じたことをありのまま投稿してもらうことを大切にしました」

模倣品対策や価値向上に一役


          

 特許庁が2006年に創設した「地域団体商標」。「越前ガニ」や「飛騨さるぼぼ」のように、「地域名+商品・サービス名」を商標として利用できる制度だ。通常の商標とは異なり地域団体商標の場合、商工会や農業協同組合など特定の団体が特許庁に出願する。よって「高岡銅器」の場合、権利者は「伝統工芸高岡銅器振興協同組合」および「高岡銅器協同組合」。両組合に所属する生産者などが独占して商標を利用できる。

 地域団体商標には、2018年12月末時点で、農林水産品や伝統工芸品、温泉、ご当地グルメといった幅広い分野で645件が登録。前述の定塚さんが指摘するように、模倣品対策やブランド価値向上に一定の成果を見いだしている。

攻めの地域活性化へ活用の可能性


 一方で、知的財産としての積極活用においては、まだまだ可能性を秘めているのも事実だ。地域の農林水産物や食品をブランドとして保護する目的で、農林水産省が2015年に導入した地理的表示保護制度(GI)との使い分けも課題となる。地域団体商標の有効期限は10年で、更新すれば権利を維持することができることから今後、更新が相次ぐことが予想される。これを機に次なる戦略を模索する動きが広がることが期待される。地元の大学生が地域団体商標を取得した団体を取材し、その魅力を発信する試みや、新商品やビジネスアイデアを検討する地域ブランド総選挙は、さらなる活用促進の糸口となるかもしれない。

 地域を取り巻く環境はめまぐるしく変化している。訪日外国人観光客の急増はもとより、環太平洋経済連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)がそれぞれ発効に至り、本格的なグローバル時代に突入する。地域団体商標は、激化する国際競争も見据えた「攻め」の地域活性化策を打ち出す上でも有効な手段のひとつとなるはずだ。

前編はこちら/認知度の低さに悩む地域ブランド、救世主はSNS世代?
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
国内外での認知度向上や産業振興に期待がかかる地域ブランドですが、効果的な情報発信の方法・戦略を商標権者だけで考えるには限界があります。今回の地域ブランド総選挙では地元大学の学生と協力しましたが、その他にも地域の人が新しいアイデアの創出に積極的に関われる環境を用意することが地域ブランドの活性化につながると思います。

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