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連携、連携、また連携。動く名古屋大

連携、連携、また連携。動く名古屋大

Beyond Next Ventures 代表取締役社長 伊藤毅氏と松尾総長(同大学発表資料から)

 名古屋大学は春をめどに第2号のベンチャーファンドを設立する。最大で20億円程度の投資を企業や金融機関などから募り、大学発ベンチャーの起業を後押しする。事業計画策定など起業前後の支援も行う。同ファンドには名大のほか、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、岐阜大学、三重大学も参加する。これらの大学で研究成果の実用化を目指す学生や教員に投資する方針。また投資するベンチャー企業への技術移転や人材派遣で連携する。投資先に対しては状況に応じて経営者の派遣も行う。今回のファンドは2015年の第1号に続く案件。第1号は16社に約15億円を投資した。

日刊工業新聞2019年1月7日



指定国立大の先駆者に


 世界トップクラスの教育・研究・社会貢献にまい進する国立大学を、文部科学省が後押しする「指定国立大学」制度。2017年6月の東北大学、東京大学、京都大学に続き、18年3月に東京工業大学、名古屋大学が指定を受けた。新会社や再開発で新財源創出を計画する東工大、大学再編の協議に着手した名大の例から、指定国立大の何が新しく、どんな変革につながるのかを見る。

文科省 改革のリード役促す


 国は一般に改革推進のツールとして予算事業を位置付けることが多い。しかし指定国立大ではこの予算支援措置がない。世界トップ大学と伍(ご)する大胆な方策を採る大学に、規制緩和や旧7帝大に替わる新ブランドを与え、改革をリードしてもらうとする。

 若手研究者育成や重点研究分野などプランは多岐にわたるが、注目は日本の大学の弱点とされる財務基盤の強化だ。京大と東工大は、指定国立大のみに認められた研究成果活用の会社設立で、新たな収入の確保を狙う。通常の国立大が持てる子会社は技術移転機関とベンチャーキャピタルに限定されるため、異なる効果が引き出せる。

 また寄付金を原資に為替や社債に投資する資産運用が、国立大全体で可能になっている。その元手となる基金を、まず東大が100億円に拡充すると公表。これが刺激となったのか、第2陣の東工大と名大も同額の基金を明示した。文科省高等教育局の義本博司局長は「東大だけ別格、というような固定的な意識を変え、研究型大学が切磋琢磨(せっさたくま)するようになってきた」と指摘する。

 また、「プロボスト(総括副学長、筆頭理事)」制の導入は東大以外の4大学が表明した。プロボストは部局の意思統一など学内のまとめ役だ。対して学長は、学外資金獲得を中心とする渉外活動に注力するという米国大学流の仕組みだ。自由度の高い資金を自ら増やし、教育・研究を高度化する各手法はいずれ、他の国立大も導入を迫られることになるかもしれない。
  

東工大 産学連携支援で新会社


 「世界の多くの国で大学に対する政府支援が低下し、自ら大学経営を強化する時代。稼いで投資する“経営”をしないと世界の有力大学と競えない」。東工大の佐藤勲総括理事・副学長は強調する。

 同大では益一哉学長が4月に就任し新執行部体制となる中、佐藤総括理事は前執行部の下での副学長として2度の指定国立大の申請に関わり、指定を受けてプロボストに就任した。それだけに意識は高い。「これまでされてなかった学内の部局を評価し、競わせる仕組みを18年度中に導入したい。(教育・研究など)学内の力を伸ばす、その任にあるのがプロボストだ」と自負する。

同大は産学連携支援の新会社を設立する計画だ。産学共同研究に関わる教員100人程度を大学と新会社のクロスアポイントメントに変え、通常の運営費交付金に企業資金を組み合わせた形の人件費支払いにする。文科省、経済産業省の指針に示された方策を、改革派として先取りする。

 JR山手線・田町駅近くの田町キャンパス(東京都港区)に、32階建てなど事務所・商業の複合ビルを建設する再開発も大きい。手法は従来型の官民パートナーシップ(PPP)などだが、予想収入は年10億円に上る。

 一方、同大を社会における科学技術のファシリテーターと見なして「未来社会デザイン機構」も新設する。学外の多様な人と議論して未来を描くことで、研究が研究で終わらない道筋を付ける場だ。社会をリードして外部資金を獲得する、プラスのスパイラルに向けて同大は進み出した。
東工大の田町キャンパス

名大 岐阜大と経営統合協議


 名古屋大学は一つの国立大学法人で複数の大学を運営する「マルチ・キャンパス」構想を掲げる。各大学の強みを生かして教育や研究を強化、外部や公的な資金をより多く獲得して競争力を高める。「全部自前ではなく補完し合い、自分たちで強くなる」(渡辺芳人副総長)と強調する。

 岐阜大学と経営統合に向けた協議会を設立した。「突っ込んだ議論を迅速に行い、明確なビジョンでほかの大学に呼びかける」(松尾清一総長)とする。東海地区のほかの国立大学の合流を想定するが、名古屋工業大学や愛知教育大学などは専門大学同士の連携があり、総合大学に合流の可能性がある。

 研究では未来エレクトロニクスや素粒子・宇宙物理学、化学・生物学融合研究などを重点分野に世界的に卓越した研究拠点確立を目指す。知財管理や情勢・論文分析などを行うリサーチ・アドミニストレーター(URA)を現在の約50人から増やし支援を広げる。「領域を見極め、将来伸びる分野を強くする」(渡辺副総長)方針。

 教育では日本の人口減を受けて世界から優秀な人材の確保を図る。現在約1800人の留学生を全学生の約2割に当たる3200人に増やす。大学院での英語による講義を推進するほか、日本人学生にも開放する。

 博士人材の育成でも海外の研究機関の活用を進める。「日本で一番進んでいる」(企画部)とする国際研究ネットワークと連動したジョイント・ディグリーでは、現在の2倍の20ユニットに広げる。

 シェアド・ガバナンスの構築に向けては、19年度にもプロボストを設置する。教育や研究に関連する案件を中心に、各理事と調整してできるだけ総長の方針に沿ってとりまとめ、機動的な施策を実行できるようにしていく。
(文・山本佳世子、市川哲寛)
名大の豊田講堂

日刊工業新聞2018年5月9日

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