ユニコーンを創出せよ!ジェトロの支援が転換期
世界12カ所のエコシステムに拠点を設置
日本貿易振興機構(ジェトロ)の海外展開支援が転換期を迎えつつある。従来の中小企業支援に加え、新たに重点に置くのはスタートアップ・ベンチャー企業。世界12カ所のエコシステムに拠点「ジェトロ・グローバル・アクセラレーション・ハブ」を設置。日本の企業や人材と、海外のエコシステムとをつなぐ。急速にスタートアップ・ベンチャー企業の支援の構築が進むジェトロを追った。
ジェトロの従来の中小企業支援スキームでは、企業を貿易専門家らを介して海外のバイヤーや代理店、工業団地などにつなぎ、貿易促進や現地生産の支援を行ってきた。これに加え、新設したグローバル・アクセラレーション・ハブを介し、スタートアップ・ベンチャー企業向けの支援を用意する。
スタートアップは核となるアイデアや技術を持った人材が中心となり、資金提供などを受けて初めて企業の体を持つ場合もある。そのため「会社ありき」の支援だった従来の支援とは根本的に異なる仕組みが必要となる。アイデアや技術を持った人材を、海外の資金提供元であるベンチャーキャピタル(VC)や大企業の研究開発部・事業開発部などにつなぐ枠組みを構築。新しい枠組みはスタートアップに限らず、企業が全く新しい事業を海外で展開する際にも利用できる。幅広い企業のイノベーション支援とも言えそうだ。
6月末までジェトロの知財・イノベーション部長を兼任していた藤井真也サービス産業部長は新設したハブの必要性について「これまでジェトロがやってきた支援より極めてスピーディーな世界に生きている人に、いままでとは違う目線でつなぐ人たちが必要だった」と話す。「スタートアップが資金調達を受けられても、支援している期間である程度芽が出なければ支援は打ち切られる。1年半で目が出なければ終り、という場合もある」という。短いスパンで動いている世界に合わせるためだ。現地のエコシステムの情報収集に加え、起業家育成プログラムや、ビジネスモデルの再構築・資金調達などへのアドバイス、投資家向けのプレゼンテーション(ピッチ)のブラッシュアップなどを提供する。
2017年末ごろから始まったという新しい支援の枠組み作りは、約半年で実際に稼働するに至った。急速に進むジェトロのスタートアップ支援の背景には、経済産業省が6月にスタートさせた「J−Startup」がある。同プログラムは日本にあるおよそ1万社のスタートアップのうち、約100社の有望企業を選定して支援する。J−Startupの認定を受けた企業は官民からサポートを受けられる仕組みだ。念頭に置かれるのは時価総額10億ドル以上の未上場企業「ユニコーン企業」の創出だ。
J−Startupの海外展開支援パートをジェトロが担う。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や中小企業基盤整備機構(中小機構)などとともに18年から関係機関連携会議を開催。スタートアップ・ベンチャー企業を関係組織が連携して支援するなかで、海外進出に関心のある企業の支援はジェトロが受け持つ体制が整えられた。
J−Startupに認定され、ジェトロの支援を受けたVISITS Technologies(東京都港区)の東臨碩シニアディレクターは「日本だけではなく、グローバルな拠点を持って現地からサポートを行ってくれることが助かる」という。同社は特許も取得した独自の合意形成アルゴリズムを用いて、人間の創造性やアイデアの価値など、今まで数値化するのが困難だった事柄をスコア化。これを用い企業向けのイノベーション支援サービスを提供している。年内には米国と中国への進出を予定しており、ジェトロの支援を受けて現地のエコシステムなどに訪問している。
同社の中国進出に関しては、現地のVCからアドバイスを受けた。アリババグループとの提携を考えていたところ、「アリババグループはさまざまなベンチャー企業からアイデアの売り込みをひっきりなしに受けている状況。イノベーション支援のサービスは売り込みにくい可能性もある。同規模の資金力を持ちながらアイデア力に不足のある開発会社の方がニーズに即しているのでは」などと、アドバイスを受けたという。
東シニアディレクターは「地域とプロダクト(製品)タイプをかけ合わせたアドバイスがありがたい。地域についてだけの、あるいは製品についてだけの一般的なアドバイスでは意味がない」と話す。
J−Startupに認定されたことで、展示会の出展ブースも無料で用意されるようになり、9月にアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイの展示会を予定する。その後も月1回のペースで海外の展示会に出展。こうした機会での支援では「ピッチの練習を行ってくれることが助かる」(東シニアディレクター)という。
ジェトロはイノベーション支援に向けて大学連携も加速させる。5月には東京工業大学、6月には大阪大学と連携協定(MOU)を取り交わした。5月の東工大とのMOUでは学生ベンチャーをジェトロの拠点を用いて支援することが打ち出された。石毛博行理事長は調印式で「この協定はジェトロのイノベーション支援に向けての真剣な取り組みだ」と明言した。
藤井部長は、こうした背景について「スタートアップ支援の中ではジェトロは新参者で存在感はまだ薄い。まずスタートアップやベンチャー企業に出会うために、大学発ベンチャーを多く出している大学とMOUを結んでいる」と話す。近年、MOUを結んだ大阪大学や東工大は大学発ベンチャー輩出の上位校だ。
アイデア持つ人材、海外VCとつなぐ
ジェトロの従来の中小企業支援スキームでは、企業を貿易専門家らを介して海外のバイヤーや代理店、工業団地などにつなぎ、貿易促進や現地生産の支援を行ってきた。これに加え、新設したグローバル・アクセラレーション・ハブを介し、スタートアップ・ベンチャー企業向けの支援を用意する。
スタートアップは核となるアイデアや技術を持った人材が中心となり、資金提供などを受けて初めて企業の体を持つ場合もある。そのため「会社ありき」の支援だった従来の支援とは根本的に異なる仕組みが必要となる。アイデアや技術を持った人材を、海外の資金提供元であるベンチャーキャピタル(VC)や大企業の研究開発部・事業開発部などにつなぐ枠組みを構築。新しい枠組みはスタートアップに限らず、企業が全く新しい事業を海外で展開する際にも利用できる。幅広い企業のイノベーション支援とも言えそうだ。
6月末までジェトロの知財・イノベーション部長を兼任していた藤井真也サービス産業部長は新設したハブの必要性について「これまでジェトロがやってきた支援より極めてスピーディーな世界に生きている人に、いままでとは違う目線でつなぐ人たちが必要だった」と話す。「スタートアップが資金調達を受けられても、支援している期間である程度芽が出なければ支援は打ち切られる。1年半で目が出なければ終り、という場合もある」という。短いスパンで動いている世界に合わせるためだ。現地のエコシステムの情報収集に加え、起業家育成プログラムや、ビジネスモデルの再構築・資金調達などへのアドバイス、投資家向けのプレゼンテーション(ピッチ)のブラッシュアップなどを提供する。
2017年末ごろから始まったという新しい支援の枠組み作りは、約半年で実際に稼働するに至った。急速に進むジェトロのスタートアップ支援の背景には、経済産業省が6月にスタートさせた「J−Startup」がある。同プログラムは日本にあるおよそ1万社のスタートアップのうち、約100社の有望企業を選定して支援する。J−Startupの認定を受けた企業は官民からサポートを受けられる仕組みだ。念頭に置かれるのは時価総額10億ドル以上の未上場企業「ユニコーン企業」の創出だ。
J−Startupの海外展開支援パートをジェトロが担う。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や中小企業基盤整備機構(中小機構)などとともに18年から関係機関連携会議を開催。スタートアップ・ベンチャー企業を関係組織が連携して支援するなかで、海外進出に関心のある企業の支援はジェトロが受け持つ体制が整えられた。
J−Startupに認定され、ジェトロの支援を受けたVISITS Technologies(東京都港区)の東臨碩シニアディレクターは「日本だけではなく、グローバルな拠点を持って現地からサポートを行ってくれることが助かる」という。同社は特許も取得した独自の合意形成アルゴリズムを用いて、人間の創造性やアイデアの価値など、今まで数値化するのが困難だった事柄をスコア化。これを用い企業向けのイノベーション支援サービスを提供している。年内には米国と中国への進出を予定しており、ジェトロの支援を受けて現地のエコシステムなどに訪問している。
イノベ支援、大学連携加速
同社の中国進出に関しては、現地のVCからアドバイスを受けた。アリババグループとの提携を考えていたところ、「アリババグループはさまざまなベンチャー企業からアイデアの売り込みをひっきりなしに受けている状況。イノベーション支援のサービスは売り込みにくい可能性もある。同規模の資金力を持ちながらアイデア力に不足のある開発会社の方がニーズに即しているのでは」などと、アドバイスを受けたという。
東シニアディレクターは「地域とプロダクト(製品)タイプをかけ合わせたアドバイスがありがたい。地域についてだけの、あるいは製品についてだけの一般的なアドバイスでは意味がない」と話す。
J−Startupに認定されたことで、展示会の出展ブースも無料で用意されるようになり、9月にアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイの展示会を予定する。その後も月1回のペースで海外の展示会に出展。こうした機会での支援では「ピッチの練習を行ってくれることが助かる」(東シニアディレクター)という。
ジェトロはイノベーション支援に向けて大学連携も加速させる。5月には東京工業大学、6月には大阪大学と連携協定(MOU)を取り交わした。5月の東工大とのMOUでは学生ベンチャーをジェトロの拠点を用いて支援することが打ち出された。石毛博行理事長は調印式で「この協定はジェトロのイノベーション支援に向けての真剣な取り組みだ」と明言した。
藤井部長は、こうした背景について「スタートアップ支援の中ではジェトロは新参者で存在感はまだ薄い。まずスタートアップやベンチャー企業に出会うために、大学発ベンチャーを多く出している大学とMOUを結んでいる」と話す。近年、MOUを結んだ大阪大学や東工大は大学発ベンチャー輩出の上位校だ。
日刊工業新聞2018年8月6日