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ホテルのコンクリート壁が木目調に、実現した“アート型枠”の仕組み

清水建設と東洋アルミニウムが共同開発
ホテルのコンクリート壁が木目調に、実現した“アート型枠”の仕組み

「ホテル祇園一琳」の外観

 清水建設は東洋アルミニウム(大阪市中央区)と共同開発した超撥水型枠「アート型枠」を、ホテル祇園一琳(京都市東山区)の外壁・内壁を構成する木目調打ち放しコンクリートの施工に適用した。蓮の葉の表面機構を模した超撥水層を備えた杉板型枠により、杉の木目が転写された表層面積1000平方メートル超のコンクリート壁が打ち上がった。

 コンクリート打ち込み時に型枠表面に巻き込まれた気泡は型枠外に排出され、気泡痕が大幅に減少する。超撥水層は型枠の離型性を高め、コンクリート表面の型枠へ付着を防ぐ。コスト面では、型枠制作費の増加分を脱型後の表面仕上げ工程の大幅削減により吸収し、総コストを同等以下に抑えた。今後、清水建設はアート型枠を水平展開し、打ち放しコンクリートの普及を進める。

日刊工業新聞2019年1月8日


きっかけはヨーグルトのカップ


 「何かに使うことができないか」。コンクリートの価値を向上する「アート型枠」の開発は、ヨーグルトのカップのフタがきっかけだった。清水建設の辻埜真人技術研究所建設基盤技術センター副主任研究員が、フタの裏側にヨーグルトが付着しないことに着目。思い付いたのがコンクリートを作る時に使う型枠での活用だ。コンクリートから型枠をきれいに剥がせれば、施工品質を高められる。

 一方、フタを製造している東洋アルミニウム(大阪市中央区)は「ヨーグルト以外に展開したい」(西川浩之先端技術本部コアテクノロジーセンターディビジョナルR&D加工開発センター室長)と他分野への用途拡大を模索していた。フタには、ハスの葉が水をはじく機能を応用して開発した超撥水材料を塗工してあり、ヨーグルトが付着しない。両社の思惑が合致し、型枠の共同開発を始めた。

 だが互いにモノづくりへの考え方が違い戸惑った。清水建設は耐久性や複数回の使用を重視した。一方、東洋アルミは大量生産やクリーン対応は得意だが、建設現場は未知の世界だ。辻埜氏は「何度も現場に来てもらい、作業を見ていただいた」、西川氏は「思っていたより過酷な環境だった」と振り返る。

 開発したアート型枠は、耐久性を持たせるため表面を2度塗りし、2層構造とした。型枠表面に形成される凹凸が、水をはじく超撥水機能と光を乱反射する機能を発揮する。この結果、アート型枠で成型したコンクリートは、品質低下となる表面の気泡跡を低減し、色むらの抑制効果をもたらした。当初の目的だった型枠の剥がれやすさも実現した。

 アート型枠の採用実績は現在まで4件。コンクリートの美観の良さが売りだ。辻埜氏は「異業種連携で取り組めたのが一番の成果。将来は美観を持続させる技術を開発したい」と先を見据える。
(文・村山茂樹)
【技術プロフィル】
コンクリートの美観や施工性を高めるコンクリ用の型枠。水をはじくハスの葉の表面を模倣し、型枠表面に凹凸形状をつくり超撥水機能を付加した。コンクリから型枠がきれいにはがれ、コンクリ表面の気泡跡の低減や色むらの解消効果もある。生物の構造や機能などを模倣したバイオミメティクスの一つ。
アート型枠を使ったコンクリートの打設
日刊工業新聞2017年3月23日
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
ホテル祇園一琳の建設地である祇園町南側地区は、京都市が歴史的景観保全修景地区に指定しており、建築確認を申請する際は地域が有する歴史的な建築意匠に沿った意匠が求められるとのこと。そこで、ホテル祇園一琳では美しい見栄えの木目調コンクリートの採用を決めたそうです。

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