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ニッポン航空機産業の弱点、「装備品」を取り込め!

価値の4割を占めるのに、日本の生産額は1割
ニッポン航空機産業の弱点、「装備品」を取り込め!

米国の航空機産業は機体、エンジン、装備品が均等に発展

 日本の航空機産業の課題である装備品の開拓に向けた取り組みが始まっている。海外勢がリードする装備品市場では、ソフトウエア認証の複雑さが参入障壁になっている。官民連携で参入を支援する活動が本格化している。

 「日本の航空機産業の発展には、装備品への取り組みが不可欠だ」―。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の渡辺重哉航空技術部門次世代航空イノベーションハブ長はそう指摘する。

 航空機には油圧システム、与圧・空調システム、アビオニクス、内装、降着装置などさまざまな装備品があり、航空機の価値の約4割は装備品が占める。米国の航空機産業は機体、エンジン、装備品が均等に発展し、装備品の売上高比率が約4割あるとされる。

 欧米では米ハネウェル、仏サフランなど装備品大手が数多くあり、幅広い製品を手がける。大手同士の合従連衡も起きている。米国の複合企業ユナイテッド・テクノロジーズは米ロックウェル・コリンズを買収し、傘下の米UTCエアロスペース・システムズと合併し、2018年11月にコリンズ・エアロスペース・システムズが発足した。

 東京・有明で18年11月に開かれた航空宇宙産業展「国際航空宇宙展2018東京」で来日したUTCエアロスペース・システムズのグレゴリー・ガーンハードカスタマー戦略担当副社長は「ゲームチェンジャーと呼べる能力が生まれた」と合併の意義を説く。

 一方、日本の航空機産業は長年、重工業大手が米ボーイングの機体やエンジン製造を担ってきた半面、航空機の生産額に占める装備品の比率は1割にとどまる。ナブテスコが飛行姿勢制御装置、ジャムコが内装品など特定分野に強いメーカーはあるが、欧米に比べ規模は小さい。
シェアが高いジャムコの厨房設備(同社公式ページより)

 参入が難しいのは、認証技術、中でもソフト認証「DO―178C」の要求を満たすことが求められるからだ。欧州と米国には航空機の搭載システム開発についてのガイドラインがあり、それにのっとって安全性を確保する必要がある。

 欧米の装備品大手がこれまでの知見を生かせるのに対し、新規参入を図る国内メーカーは、実績がないためソフト認証を満たせず、先に進めない。そうした現状を打開しようと、JAXAと装備品5社を発起人に、会員組織「航空機装備品ソフトウエア認証技術イニシアティブ」が18年4月に立ち上がった。

 認証取得に必要なノウハウや情報を蓄積、共有し、開発支援ツールを提供するなどして新規参入組を支援する。5社の1社で、活動の実務を担うMHIエアロスペースシステムズ(名古屋市港区)の各務博之プロセス開発管理室室長は「装備品開発を盛り上げたい」と意図を説く。
              

日立や三菱電機がなぜ?


 装備品への参入を促す上で、機体やエンジンの仕事をする中小製造業に関心を持ってもらうことが重要だが、簡単ではなさそうだ。愛知県が18年12月、装備品のソフト認証をテーマに名古屋市内で開いたセミナーでは、各務室長がDO―178Cの特徴や役割を説くなど3人が講演した。

 約80人の参加者には、機体組み立てや部品加工を担う愛知県内の中小もいたが、ある中小の社長は「縁がない分野なので情報収集をと思って来たが、難しい」との反応を示した。別の中小の管理部門担当者も「勉強にはなったが、実際にできるかどうか」と不安を口にした。

 こうした中小の懸念は当然だ。航空機装備品ソフトウエア認証技術イニシアティブが、認証に関する教育や支援ツール提供などの活動を充実し、参入を促す必要がある。

 装備品への参入を増やす先には、欧米が主導権を握っている認証規格に、日本の声を反映させる狙いがある。現状は、日本勢は一方的に適用を迫られている。イニシアティブの活動実績を欧米の規格機関に発信し、認証規格の改定時に意見を採り入れてもらうことを目指す。

 航空機の進化の観点でも、装備品のソフト認証の重要性は高まる。航空機の電動化だ。電気自動車(EV)が普及しようとしているように、航空機でも将来、エンジンがモーターやバッテリーに置き換わることが起こり得る。JAXAの渡辺次世代航空イノベーションハブ長は「電動化で装備品が増え、ソフト認証の重要性は高まる」と指摘する。

 JAXAは18年7月、航空機の電動化に関するコンソーシアムを発足させた。メンバー企業にはIHI、川崎重工業など重工大手に加え、日立製作所、三菱電機など航空機とは従来縁遠かった企業が入った。

 メンバー企業同士の意見交換や技術開発などを通じ、まず小型機や装備品の電動化を推進し、最終的にはエンジンの電動化につなげることを目指す。

 装備品メーカーが育つことは、日本の航空機産業の底上げになる。機体やエンジンはハードウエア中心のモノづくりだが、装備品はソフトの重要性が高く、欧米が得意とする分野だ。そこに日本勢が食い込めるかどうかで、航空機産業の将来は大きく変わる。
                 

(文=名古屋支社・戸村智幸)
日刊工業新聞2019年1月1日

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