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ノーベル賞受賞の白川氏「好奇心と教養が社会を支え、研究者は社会に支えられている」

どうなる日本の科学(10)筑波大学名誉教授・白川英樹氏
 ―長年、基礎研究や教育の重要性を説いてきました。
 「日本は天然資源に乏しく、以前から人材を育てるしかないと叫ばれてきた。大学の主な役割はすぐに応用につながらず、時間のかかる基礎研究だ。1人200万―300万円もあれば十分にできる研究も少なくない。国の戦略として拡充すべきだ。科学に投資しすぎだと問題視する国民がどれだけいるのだろうか」

 ―科学への投資の効率化と多様性の確保はバランスを取るのが難しいです。
 「義務教育はもちろん、高等教育も個性を生かした教育が大切だ。多様な人材が社会を豊かにする。研究も同様だ。すべての研究が社会ですぐに役に立つわけではない。基礎研究中の基礎研究といわれる宇宙線の研究も、最近ではピラミッドや東京電力福島第一原子力発電所、火山などの透視に応用されている。経済的な価値や効率性だけを追求していてはたどり着かない研究は多い」

 ―1977年の国際学会の会場で導電性高分子の豆電球をともし、世界を驚かせました。いまも実験教室で小中高生に教えています。
 「ノーベル賞の受賞後、ことあるごとに研究者が社会に科学を伝える重要を説いてきた。03年から始めた日本科学未来館での特別実験教室、05年から始めたソニー教育財団主催の『科学の泉』など、他の教室も含めると参加者の総数はおよそ5000人に達する。日本学術振興会の『ひらめき☆ときめきサイエンス』では、2017年度は341件の科学実験が紹介された。件数以上の数の研究者が参加してくれている。研究機関に中高生を招いて、科学の面白さを伝える重要な企画だ。自身で費用を負担する熱心な先生もおられる。できればすべての研究者に取り組んでほしい」

 ―すでに多忙な研究者に奉仕せよというのは難しいのでは。
 「奉仕ではなく義務と捉えるべきだ。納税者への還元は企業の株主への対応と同じではないだろうか。自然科学に限らず、知的好奇心が学びの動力源になる。一人ひとりの好奇心と教養が社会を支えている。そして研究者はこの社会に支えられている」

 「大学や学会などの努力で優れた科学コンテンツが充実してきている。これまでは市民が科学者や直接科学に触れるきっかけは少なかったが、最近は研究に参加する手段も増えてきた。例えば、クラウドシステムを用いて市民に協力を呼びかけ、ミツバチのマルハナバチ類の写真を集めて生態分布を調査している研究もある。工夫しだいで科学に触れる機会はいくらでも広がる」
日刊工業新聞2017年12月26日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
最近はメディア顔負けのわかりやすいコンテンツを研究機関が配信するようになった。次は市民参画だろう。“教わる科学”から“一緒に楽しむ科学”にいかにシフトするか。これは防災研究の取り組みが参考になる。防災は災害への恐怖心だけでは持続しないため、VR(仮想現実)やゲームによる楽しむ防災が登場した。楽しんだことをきっかけに科学コンテンツが生きるようになる。

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