“空飛ぶクルマ”や“キャッシュレス”政府の19年度注力事業をまるっと紹介
概算要求出そろう
総額102兆円台後半となる見通しの2019年度予算の概算要求では、経済産業省などによる産業の創出支援が目立った。人工知能(AI)や新モビリティー、宇宙関連、ベンチャー育成などに予算を計上し、日本経済に活力を与え、デフレ脱却に寄与する新産業の創出を促す。また、自然災害の多発を受け、防災・減災関連の予算も力を入れる。
新しいモビリティー社会の実現に向け、経産省が産業育成の支援に乗り出している。一つは、操縦士なしで空を移動する電動航空機で、いわゆる「空飛ぶクルマ」だ。実用化に向けて、中核技術の開発事業として8億円を計上した。大型航空機の電動化に転用することも見据え、“空の移動革命”につなげる。
空飛ぶクルマは垂直離着陸を行い、時速100キロ―200キロメートル前後で高度150メートル前後の空域を飛行することを想定。渋滞が激しい都市部や交通が不便な中山間地域、人命救助などに用いる。海外では米ウーバー・テクノロジーズが23年の実用化を目指すなど開発競争が始まっている。予算措置を通じて技術革新を後押しし、空飛ぶクルマの実用化を急ぐ。
このほか次世代モビリティー分野では、高度な自動走行システムの社会導入に向けた研究開発・実証事業として、18年度当初予算比約57%増の55億円を盛り込んだ。政府は20年を目途に公道での無人自動走行移動サービスを実現する目標を掲げる。サービスの提供に向け、システムの開発・実用化に力を入れる。
第4次産業革命に向けたイノベーションの担い手として、経産省はベンチャー企業への支援を拡充する。6月に日本を代表する将来有望なベンチャー「J―スタートアップ」に約90社を選定。海外展開、製品の量産化などを集中的に支援する。J―スタートアップ企業などへの支援を強化するため、新たに13億9000万円を盛り込んだ。
時価総額10億ドル以上の非上場ベンチャー「ユニコーン企業」などを多数生み出すべく、アクセルを踏む。海外関連では各国で開かれるイベントへの出展を後押しするほか、日本貿易振興機構(ジェトロ)の拠点網などを通じ、現地の政府や企業とのマッチングを図る。
また、国内では製造業大手やモノづくり支援拠点などとベンチャーの協業案件を支援、製品の円滑な量産化を促す。これにより、日本にまだ少ない「ハードウェアベンチャー」の育成につなげる。
現金を極力使わないキャッシュレス社会の実現に向け、経産省が本腰を入れる。手続きの簡素化による消費促進や、生産性向上につなげる構え。新規事業として29億5000万円を盛り込んだ。
キャッシュレス店舗の利用者を優遇することで需要を喚起し、主に地域の中・小規模店舗によるキャッシュレス導入を促す。
店舗が決済事業者などに支払う手数料の一部を補助することにより、店舗は浮いた分を基に割り引きやポイントの形で利用者に還元する仕組み。決済事業者、自治体、地域金融機関、地域経済団体などが連携して取り組むことを条件とする。参加する店舗は、キャッシュレス端末の導入負担も軽減する。決済事業者などを通じ、導入費の一部を補助する。
日本はキャッシュレス決済が民間最終消費支出全体の2割程度にとどまり、中国など諸外国より遅れている。経産省は地域を巻き込む手厚い支援で遅れを取り戻すべく、取り組みを急ぐ。
気候変動の影響で自然災害が頻発・激甚化する中、「国土強靱化に向けた防災・減災は待ったなしの課題」(石井啓一国土交通相)。国交省は社会全体で災害リスクに備える「防災意識社会」への転換に向け、防災・減災対策に力を入れる。
7月の西日本豪雨や近年の洪水被害を受け、中小河川を含む水害対策に前年度当初予算比33%増の5273億円を、総合的な土砂災害対策に同25%増の958億円をそれぞれ要求した。
いずれもハード、ソフトを一体化する総合的な対策と位置づける。例えば、水害では洪水の氾濫を未然に防ぐため堤防のかさ上げや、越水したとしても決壊までの時間を引き延ばす堤防構造の工夫など、各種ハード対策を推進。ソフト対策として水害対応のタイムライン(防災行動計画)を策定・運用し、避難警戒体制を築く。
土砂災害では土砂・流木や土砂・洪水氾濫による予防的対策とともに、土砂災害警戒区域の指定や警戒情報の精度向上に取り組む。
文部科学省はAI人材の育成に向け、前年度当初予算比27億円増の133億円を要求した。研究予算と教育予算を組み合わせ、最先端から教養まで幅広いレベルの人材を育成する。133億円のうち、90億円を理化学研究所と科学技術振興機構が一体的に進める「AIPプロジェクト」が占める。先端研究を通して最高峰の人材を育てる。
人材全体を底上げするため、全国の大学に数理・データサイエンス教育を普及させる。この教育カリキュラムは東京大学や大阪大学などの6大学が開発してきた。文系や理系を問わずに大学全体として対応する。大学の運営費交付金を活用し、予算は同3億円増の9億円とした。
研究を支える設備面ではスーパーコンピューターの「ポスト京」が製造段階に入る。同150億円増の205億円を要求した。設計見直しで当初計画から2年遅れたが、計算素子を工夫してAIに対応させた。スパコン「京」の100倍の性能向上と21―22年度の運用開始を目指す。
省庁別に集計した宇宙関連の概算要求は、18年度当初予算比22・3%増の3556億円となった。同予算の半分以上を占めるのは文部科学省で、新型基幹ロケット「H3」の開発費に同60%増の340億円を計上、エンジンの実証試験などを進め20年度の打ち上げに向けた動きを加速する。
また、地球より遠い深宇宙探査が世界的に広がる中、火星衛星や小惑星などへの探査計画に40億円を盛り込んだ。さらにスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去技術の実証に6億円、打ち上げに利用したロケットを再び使う「再使用ロケット」の開発に向けた飛行実験に1億4000万円を新規で計上した。
内閣府はセンチメートル級の測位が可能な準天頂衛星「みちびき」の23年の7機体制に向け、5―7号機の開発に新規で124億円を盛り込んだ。経済産業省は衛星データの利用環境を整え、新ビジネスの創出を促す事業に同13%増の13億5000万円を計上。産業利用に向けデータを解析・応用できる高度人材を育成する。
新モビリティー 空飛ぶクルマ開発推進
新しいモビリティー社会の実現に向け、経産省が産業育成の支援に乗り出している。一つは、操縦士なしで空を移動する電動航空機で、いわゆる「空飛ぶクルマ」だ。実用化に向けて、中核技術の開発事業として8億円を計上した。大型航空機の電動化に転用することも見据え、“空の移動革命”につなげる。
空飛ぶクルマは垂直離着陸を行い、時速100キロ―200キロメートル前後で高度150メートル前後の空域を飛行することを想定。渋滞が激しい都市部や交通が不便な中山間地域、人命救助などに用いる。海外では米ウーバー・テクノロジーズが23年の実用化を目指すなど開発競争が始まっている。予算措置を通じて技術革新を後押しし、空飛ぶクルマの実用化を急ぐ。
このほか次世代モビリティー分野では、高度な自動走行システムの社会導入に向けた研究開発・実証事業として、18年度当初予算比約57%増の55億円を盛り込んだ。政府は20年を目途に公道での無人自動走行移動サービスを実現する目標を掲げる。サービスの提供に向け、システムの開発・実用化に力を入れる。
ベンチャー育成 スタートアップ支援拡充
第4次産業革命に向けたイノベーションの担い手として、経産省はベンチャー企業への支援を拡充する。6月に日本を代表する将来有望なベンチャー「J―スタートアップ」に約90社を選定。海外展開、製品の量産化などを集中的に支援する。J―スタートアップ企業などへの支援を強化するため、新たに13億9000万円を盛り込んだ。
時価総額10億ドル以上の非上場ベンチャー「ユニコーン企業」などを多数生み出すべく、アクセルを踏む。海外関連では各国で開かれるイベントへの出展を後押しするほか、日本貿易振興機構(ジェトロ)の拠点網などを通じ、現地の政府や企業とのマッチングを図る。
また、国内では製造業大手やモノづくり支援拠点などとベンチャーの協業案件を支援、製品の円滑な量産化を促す。これにより、日本にまだ少ない「ハードウェアベンチャー」の育成につなげる。
キャッシュレス 中・小規模店舗を優遇
現金を極力使わないキャッシュレス社会の実現に向け、経産省が本腰を入れる。手続きの簡素化による消費促進や、生産性向上につなげる構え。新規事業として29億5000万円を盛り込んだ。
キャッシュレス店舗の利用者を優遇することで需要を喚起し、主に地域の中・小規模店舗によるキャッシュレス導入を促す。
店舗が決済事業者などに支払う手数料の一部を補助することにより、店舗は浮いた分を基に割り引きやポイントの形で利用者に還元する仕組み。決済事業者、自治体、地域金融機関、地域経済団体などが連携して取り組むことを条件とする。参加する店舗は、キャッシュレス端末の導入負担も軽減する。決済事業者などを通じ、導入費の一部を補助する。
日本はキャッシュレス決済が民間最終消費支出全体の2割程度にとどまり、中国など諸外国より遅れている。経産省は地域を巻き込む手厚い支援で遅れを取り戻すべく、取り組みを急ぐ。
防災・減災対策 ハード・ソフト一体化
気候変動の影響で自然災害が頻発・激甚化する中、「国土強靱化に向けた防災・減災は待ったなしの課題」(石井啓一国土交通相)。国交省は社会全体で災害リスクに備える「防災意識社会」への転換に向け、防災・減災対策に力を入れる。
7月の西日本豪雨や近年の洪水被害を受け、中小河川を含む水害対策に前年度当初予算比33%増の5273億円を、総合的な土砂災害対策に同25%増の958億円をそれぞれ要求した。
いずれもハード、ソフトを一体化する総合的な対策と位置づける。例えば、水害では洪水の氾濫を未然に防ぐため堤防のかさ上げや、越水したとしても決壊までの時間を引き延ばす堤防構造の工夫など、各種ハード対策を推進。ソフト対策として水害対応のタイムライン(防災行動計画)を策定・運用し、避難警戒体制を築く。
土砂災害では土砂・流木や土砂・洪水氾濫による予防的対策とともに、土砂災害警戒区域の指定や警戒情報の精度向上に取り組む。
AI・スパコン関連 最高峰の人材育成
文部科学省はAI人材の育成に向け、前年度当初予算比27億円増の133億円を要求した。研究予算と教育予算を組み合わせ、最先端から教養まで幅広いレベルの人材を育成する。133億円のうち、90億円を理化学研究所と科学技術振興機構が一体的に進める「AIPプロジェクト」が占める。先端研究を通して最高峰の人材を育てる。
人材全体を底上げするため、全国の大学に数理・データサイエンス教育を普及させる。この教育カリキュラムは東京大学や大阪大学などの6大学が開発してきた。文系や理系を問わずに大学全体として対応する。大学の運営費交付金を活用し、予算は同3億円増の9億円とした。
研究を支える設備面ではスーパーコンピューターの「ポスト京」が製造段階に入る。同150億円増の205億円を要求した。設計見直しで当初計画から2年遅れたが、計算素子を工夫してAIに対応させた。スパコン「京」の100倍の性能向上と21―22年度の運用開始を目指す。
宇宙関連 「H3」20年度打ち上げ
省庁別に集計した宇宙関連の概算要求は、18年度当初予算比22・3%増の3556億円となった。同予算の半分以上を占めるのは文部科学省で、新型基幹ロケット「H3」の開発費に同60%増の340億円を計上、エンジンの実証試験などを進め20年度の打ち上げに向けた動きを加速する。
また、地球より遠い深宇宙探査が世界的に広がる中、火星衛星や小惑星などへの探査計画に40億円を盛り込んだ。さらにスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去技術の実証に6億円、打ち上げに利用したロケットを再び使う「再使用ロケット」の開発に向けた飛行実験に1億4000万円を新規で計上した。
内閣府はセンチメートル級の測位が可能な準天頂衛星「みちびき」の23年の7機体制に向け、5―7号機の開発に新規で124億円を盛り込んだ。経済産業省は衛星データの利用環境を整え、新ビジネスの創出を促す事業に同13%増の13億5000万円を計上。産業利用に向けデータを解析・応用できる高度人材を育成する。
日刊工業新聞2018年9月7日