「空飛ぶクルマ」実現へ…安全基準で行政と企業が綱引き

官民協議会が初会合

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初会合であいさつする経産省の井上宏司製造産業局長(右は無人実証機のモックアップ=29日)
 操縦士なしで空を移動できる電動航空機「空飛ぶクルマ」の実用化に向け、官民による議論が始まった。経済産業省と国土交通省が「空の移動革命に向けた官民協議会」の初会合を開催。企業や省庁、大学の関係者による議論の結果、特に安全基準、用途、経済性の三つの分野で論点が明らかになった。

 最も意見が集中したのは安全基準だ。墜落するリスクがあるだけに、航空機と同じ安全性が求められる。航空行政を担う国交省の高野滋航空局安全部長は「空飛ぶクルマは、おそらく航空法上の航空機に該当し、耐空証明が必要になる。安全の担保と、国際的に統一された基準をどう作るのかを考える必要がある」と説明する。

 一方、企業側はスピード感を重視する。飛行ロボット(ドローン)への投資に特化するドローンファンド(東京都港区)の千葉功太郎ゼネラルパートナーは「(飛行機、ヘリコプターに続く)第3の耐空証明を米連邦航空局(FAA)と足並みをそろえて早く取り組むべきだ。今の飛行機と同じものを適用しようとすると、いつまでたっても飛べない」と訴える。

 事業化の面でも意見が割れた。航空宇宙工学の第一人者、東京大学の鈴木真二教授は、安全面を考慮し「まずはドローンで物流に使うところから取り組むべきだ」と指摘。一方、開発を進めるTemma(テンマ)の福井宏治社長は「産業界としては旅客で勝負したい。すでにFAAは新しい(耐空証明の)カテゴリーを作っている。日本が遅れると輸出のチャンスがなくなる」と危惧する。

 用途の面では、おおむね集約されつつある。都市の渋滞を回避する用途、離島・山間部での交通手段、物流、観光、災害など緊急時の人・物資の輸送だ。有志団体「CARTIVATOR(カーティベーター)」の中村翼共同代表は「人の命を救うという用途は必然性がある。有用なんだと認知してもらうためには重要なステップだ」と力を込める。

 必然性のある用途は国民的な合意形成を進め、普及させる上でも重要だ。鈴木教授は「必要と言うことを(国民の)皆さんに分かってもらわないと、作っていく動きにならない。『経済性は少し悪いが、利便性が高い』といった目的を見つけるのがカギだ」とみる。

 産業として育成し集積させるには、収益を上げられるか否かも重要になる。2023年の実用化を目指す米ウーバー・テクノロジーズのエリック・アリソン氏は「最終的には自家用車に乗る時と同じようなコストになる」と自信を示した。

 ただ、日本の投資環境は欧米に比べて遅れている。千葉ゼネラルパートナーは「1機開発するのに、100億―300億円かかる。世界と比較すると(日本の投資額は)ケタが足りない。東京が世界で最初の(空飛ぶクルマの)マーケットとして開放できれば、投資が集まる」と訴える。
(文=敷田寛明)

日刊工業新聞2018年8月31日

COMMENT

協議会では多様な意見が出たものの、産業の芽を育てようという認識では一致していた。政策を主導する経産省には、産業化するための知恵と企業・省庁関係者や国民を納得させるためのシナリオ作りが求められる。 (日刊工業新聞社・敷田寛明)

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