ソフトバンクグループのAI群戦略、アームが勝負に出た!
「囲碁で勝つ人は碁の石をすぐ隣にばかり打たない」(孫正義)
英アームが、IoT(モノのインターネット)時代の覇者になるべく、一手を打ち出した。ビッグデータ(大量データ)のマネジメント基盤を手がける、米トレジャーデータを買収。さらにIoTプラットフォーム(基盤)ビジネスへの参入を表明した。機器からサーバークラスのビッグデータまで網羅する体制を整えた。アームのIoT戦略からは、親会社であるソフトバンクグループ(SBG)の人工知能(AI)活用ビジネスの狙いも透けて見える。
「デバイスからクラウドまでをカバーする、初のIoTプラットフォームだ」―。22日、都内でIoT事業戦略説明会を開いたアームのIoTサービスグループプレジデント、ディペッシュ・パテル氏は、こう胸を張る。
3日に発表したトレジャーデータ買収により、既存の半導体回路設計ライセンス提供ビジネスと、デバイスの接続技術、データ管理技術を手中に収めたことが大きな理由だ。
新たに提供を始めた「ペリオンIoTプラットフォーム」は、コネクティビティ管理機能と、デバイス管理機能、データ管理機能で構成する。デバイスの接続から機器の管理、生み出されたビッグデータの利活用まで、「さまざまな種類の接続方式、デバイス、データをカバーし、世界中のどこでも利用できる」(パテル氏)クラウドサービスだ。
IoTでは、収集した膨大なデータをどう利用するかが最大のカギだ。アームはあらゆる機器に搭載されうる半導体という強力なアイテムを持っているが、それだけではIoT時代の勝者とはなれない。その最後のピースを埋めるのが、トレジャーデータだ。
トレジャーデータ創業者でアームIoTサービスグループバイスプレジデントの芳川裕誠氏は、アームによる買収を受け入れた理由について、「人が生成するデータと、デバイスが生成するデータを組み合わせれば、これまでと違った価値を生める」と説明する。
これまでトレジャーデータが手がけてきたのは、前者だ。デバイスに強いアームと組めば、双方を補完できる。「人とデバイスのデータの融合が、インキュベーター(起業支援)となるのではないかと強く考えている。アームと組むことで、ようやく(グーグルなど米IT大手4社の)GAFAに対抗できるかもしれない」。
今後は統計データなども含めたあらゆるデータを活用して顧客のデータ解析を行う既存ビジネスに加え、アームのIoT事業によって生成されるデータを活用したビジネスも進める。
アーム設計の半導体にデータ収集ツールを入れるなど、IoT事業と半導体事業との相乗効果も見込める。パテル氏は「今の所はなんの計画もない」とするが、芳川氏は「そういった相乗効果も視野に入れたい」と、可能性を否定しない。
今回、アームによるトレジャーデータ買収の立役者は、もちろんSBGだ。SBG傘下に入ったことで、アームは十分な投資ができる体制を整えた。トレジャーデータも「SBGの経営資源にも期待できる」(芳川氏)と、投資の加速を明らかにする。芳川氏は「世界最大のIoTプラットフォームを目指す」と宣言した。SBGがIoT時代の主役となるための布石は打たれた。
SBGを率いる孫正義会長兼社長は、情報通信産業の近未来を見通し、本業を変えることで成功を収めてきた。その孫氏が携帯電話事業の次の本業として狙いを定めたのがAI関連事業だ。アームや10兆円規模の「ビジョン・ファンド」も、AI関連事業の拡充に密接に関係する。
近年、孫氏が多用する言葉に、「シンギュラリティー」(技術的特異点)がある。AIが人間の英知を超えることで人間の生活に大きな変化が起こるという技術概念だが、孫氏は「今後30年間に知的生産性を伴う大半の分野で、人間の英知をコンピューティングパワーが上回るようになる。AI革命はすべての産業を再定義することになる」と力説する。
このシンギュラリティー時代に備え、孫氏が打ち出した戦略が「AI群戦略」だ。AIを活用する各種サービスでトップの企業に20―40%出資することでAIファミリー企業群を作り、相乗効果を出し合う戦略だ。そのために設立したのが同ファンドだ。
一方で、孫氏は「(設立で)SBGは単なる投資会社になったわけではない」とも説明する。各分野で最高のビジネスモデルや技術を持つ企業の群れを作り、協力することでAI革命を起こすことが目的であり、「1社だけで完結できるほどAI革命は甘くない。そんな小さなものでないと思うからこそAI群戦略がある」と語る。
同ファンドが出資した企業のうち、シェアオフィス運営最大手の米ウィーワークは、AIで需要予測をしながらスペースや料金を最適化。インドのホテル運営最大手のOYOも、AIで予測した地域ごとの需要に応じて1日約4300万回価格調整することにより、インド国内の部屋数を10万部屋と、2年で100倍弱に増やした。10個以上のレンズを単一機器に置いて焦点の異なる物を同時に撮影する多眼カメラメーカーの米ライトはAI活用で3次元空間認識技術を向上させた。
こうした“AIファミリー企業”同士のサービスや製品を組み合わせれば、新たなAI革命を生み出せる―。それが孫氏の狙いだ。例えばウィーワークのオフィスにライトの多眼カメラを置けば、オフィス内の利用者の行動に応じたマッチング情報などをAIが作成できる。
アームもこうしたAI群戦略の一翼を担う。孫氏は16年のアーム買収会見で、「囲碁で勝つ人は碁の石をすぐ隣にばかり打たない。遠く離れたところにポーンと打った石が50手目、100手目に非常に大きな力を発揮する」と話している。
(文=水嶋真人、政年佐貴恵)
最後のピース 世界を網羅、IoT基盤構築
「デバイスからクラウドまでをカバーする、初のIoTプラットフォームだ」―。22日、都内でIoT事業戦略説明会を開いたアームのIoTサービスグループプレジデント、ディペッシュ・パテル氏は、こう胸を張る。
3日に発表したトレジャーデータ買収により、既存の半導体回路設計ライセンス提供ビジネスと、デバイスの接続技術、データ管理技術を手中に収めたことが大きな理由だ。
新たに提供を始めた「ペリオンIoTプラットフォーム」は、コネクティビティ管理機能と、デバイス管理機能、データ管理機能で構成する。デバイスの接続から機器の管理、生み出されたビッグデータの利活用まで、「さまざまな種類の接続方式、デバイス、データをカバーし、世界中のどこでも利用できる」(パテル氏)クラウドサービスだ。
IoTでは、収集した膨大なデータをどう利用するかが最大のカギだ。アームはあらゆる機器に搭載されうる半導体という強力なアイテムを持っているが、それだけではIoT時代の勝者とはなれない。その最後のピースを埋めるのが、トレジャーデータだ。
トレジャーデータ創業者でアームIoTサービスグループバイスプレジデントの芳川裕誠氏は、アームによる買収を受け入れた理由について、「人が生成するデータと、デバイスが生成するデータを組み合わせれば、これまでと違った価値を生める」と説明する。
これまでトレジャーデータが手がけてきたのは、前者だ。デバイスに強いアームと組めば、双方を補完できる。「人とデバイスのデータの融合が、インキュベーター(起業支援)となるのではないかと強く考えている。アームと組むことで、ようやく(グーグルなど米IT大手4社の)GAFAに対抗できるかもしれない」。
今後は統計データなども含めたあらゆるデータを活用して顧客のデータ解析を行う既存ビジネスに加え、アームのIoT事業によって生成されるデータを活用したビジネスも進める。
アーム設計の半導体にデータ収集ツールを入れるなど、IoT事業と半導体事業との相乗効果も見込める。パテル氏は「今の所はなんの計画もない」とするが、芳川氏は「そういった相乗効果も視野に入れたい」と、可能性を否定しない。
今回、アームによるトレジャーデータ買収の立役者は、もちろんSBGだ。SBG傘下に入ったことで、アームは十分な投資ができる体制を整えた。トレジャーデータも「SBGの経営資源にも期待できる」(芳川氏)と、投資の加速を明らかにする。芳川氏は「世界最大のIoTプラットフォームを目指す」と宣言した。SBGがIoT時代の主役となるための布石は打たれた。
AI群戦略 “ファミリー”で相乗効果
SBGを率いる孫正義会長兼社長は、情報通信産業の近未来を見通し、本業を変えることで成功を収めてきた。その孫氏が携帯電話事業の次の本業として狙いを定めたのがAI関連事業だ。アームや10兆円規模の「ビジョン・ファンド」も、AI関連事業の拡充に密接に関係する。
近年、孫氏が多用する言葉に、「シンギュラリティー」(技術的特異点)がある。AIが人間の英知を超えることで人間の生活に大きな変化が起こるという技術概念だが、孫氏は「今後30年間に知的生産性を伴う大半の分野で、人間の英知をコンピューティングパワーが上回るようになる。AI革命はすべての産業を再定義することになる」と力説する。
このシンギュラリティー時代に備え、孫氏が打ち出した戦略が「AI群戦略」だ。AIを活用する各種サービスでトップの企業に20―40%出資することでAIファミリー企業群を作り、相乗効果を出し合う戦略だ。そのために設立したのが同ファンドだ。
一方で、孫氏は「(設立で)SBGは単なる投資会社になったわけではない」とも説明する。各分野で最高のビジネスモデルや技術を持つ企業の群れを作り、協力することでAI革命を起こすことが目的であり、「1社だけで完結できるほどAI革命は甘くない。そんな小さなものでないと思うからこそAI群戦略がある」と語る。
同ファンドが出資した企業のうち、シェアオフィス運営最大手の米ウィーワークは、AIで需要予測をしながらスペースや料金を最適化。インドのホテル運営最大手のOYOも、AIで予測した地域ごとの需要に応じて1日約4300万回価格調整することにより、インド国内の部屋数を10万部屋と、2年で100倍弱に増やした。10個以上のレンズを単一機器に置いて焦点の異なる物を同時に撮影する多眼カメラメーカーの米ライトはAI活用で3次元空間認識技術を向上させた。
こうした“AIファミリー企業”同士のサービスや製品を組み合わせれば、新たなAI革命を生み出せる―。それが孫氏の狙いだ。例えばウィーワークのオフィスにライトの多眼カメラを置けば、オフィス内の利用者の行動に応じたマッチング情報などをAIが作成できる。
アームもこうしたAI群戦略の一翼を担う。孫氏は16年のアーム買収会見で、「囲碁で勝つ人は碁の石をすぐ隣にばかり打たない。遠く離れたところにポーンと打った石が50手目、100手目に非常に大きな力を発揮する」と話している。
(文=水嶋真人、政年佐貴恵)