ソフトバンク・ドコモ・KDDI、「5G」競う
コネクテッドカーのインフラに
ソフトバンクは第5世代通信「5G」の商用化に向け、東京都港区で実証試験を開始した。高層ビルなどの遮蔽(しゃへい)物がある場所で画像・映像の伝送試験などを行う。同社は人口が密集する都心部で5Gの実証試験を進めており、今回はその一環。実際の使用環境に近い状況で実証して5Gの知見を蓄積し、2020年頃の商用化を目指す。
実証試験は、通信機器の製造を手がけるノキアソリューションズ&ネットワークス(東京都港区)と行う。自動車での高速移動時に通信基地局が切り替わった場合の通信環境の変化や、高層ビルなど電波が届きにくい場所、人が多い街中での通信速度などを検証する。これにより環境によって異なる5Gの特性を把握し、事業化に役立てる狙い。
またソフトバンクはホンダと共同で5Gを活用したコネクテッドカー(つながる車)技術の共同研究を始める。自動車のテストコースに5G環境を2018年度中に構築。高速移動中での基地局の円滑な切り替え技術や車載アンテナ、通信圏外域からのデータ送受信の復旧技術を開発する。自動車、通信に関する両社の知見を持ち寄り、5Gの普及を想定したコネクテッドカー技術の実用化を目指す。
ソフトバンクが、ホンダの研究開発子会社の本田技術研究所(埼玉県和光市)が北海道鷹栖町に持つテストコースに複数の基地局を設置し、本格的な研究を始める。
5Gは高速かつ大容量のデータをやりとりできる一方、現行システムと比べて電波の届く範囲が狭い。そのため5G環境下でのコネクテッドカーの実現には、通信する基地局を安定的に切り替える技術や、電波が弱い地域でのデータ送受信性を確保する技術が必要となる。両社は車両間通信や道路状況に応じた適切な情報提供のやりとりに関する技術などの開発にも取り組む。
ホンダがコネクテッドカー分野で他社と協業するのは初めて。ソフトバンクとは、16年から自動車への人工知能(AI)活用の研究にも共同で取り組んでいる。
2020年の商用化を目指す第5世代移動通信網「5G」。この次世代の通信インフラが普及すれば、音楽やスポーツなど大容量コンテンツを遅延なく送れるようになる。コンサート会場やスポーツ競技場に行かず、手持ちのスマートフォンなどで臨場感のあるライブ映像を楽しめ、自分の好きな視点で映像を見ることが可能になる。
「5Gでキーになるのは映像だと思っている」―。NTTドコモの中村武宏5G推進室室長はこう話す。現在主流の第4世代移動通信網「4G」の10倍以上の通信速度を実現する5Gを使えば、従来できなかったスマホサービスを提供できる。中でも映像はユーザーにとって視覚的に分かりやすく、技術の進歩を体感しやすい。ドコモは数十件の5G実証に取り組み、そのうちの7―8割が映像関連という。
人気アーティスト「Perfume(パフューム)」のパフォーマンスを全世界にライブ配信した取り組みはその一つ。映像や音声だけでなく、その空間や環境の情報も伝送するのが特徴だ。
パフュームのメンバー3人が東京、ニューヨーク、ロンドンの3都市に分かれて同時にダンスパフォーマンスを披露。それをリアルタイムに一つの映像に合成し、インターネットで配信した。ポイントは3人の映像を寸分違わずに合成している点で、3人のダンスは完全にシンクロした。
その際、情報伝送の一部区間に5Gを活用した。ネットワークにおける映像や音声の間の遅延はわずか0・5ミリ秒。5Gが実用化されると、屋外で光回線を引くことができないような場所でも、無線で大容量の映像を送ることができる。
さらに、もう一つ重要な技術がある。NTTが開発した伝送技術「Kirari!(キラリ)」だ。映像の同期技術を用いて、異なる地点の3人の映像を同じタイミングで再生した。5Gとキラリの映像表現を組み合わせることで、その場の空間を丸ごと、リアルタイムに配信できる。
スポーツでも新たな観戦スタイルを提案する。20年の東京五輪・パラリンピックの開幕まで1000日を切る中、ドコモはパラリンピック種目の一つである「車いすフェンシング」の試合で実証を行った。
東京都渋谷区の試合会場と、同墨田区の東京スカイツリーにある観戦会場をつなぎ、映像・音声伝送区間の一部に5G回線を活用。試合会場に設置した複数のカメラで試合を撮影し、その内容を2Kの映像で9本伝送した。ユーザーは好きな視点から自由に観戦できる。
競技場のようにインターネット回線が整っていない場所では、5Gでなければ大容量コンテンツを送ることはできない。場所を選ばずに新たな鑑賞・観戦スタイルで楽しめるのは5Gならではだ。
吉沢和弘社長は5Gを使ったライブ映像配信の商用化について「将来はスポーツや芝居のライブ映像を複数の会場に同時配信するサービスを検討する。入場料は(競技場だけでなく)複数の会場からもらえるようにする」と話す。
KDDIはスポーツ中継などの映像の視点を、個人が自由に変えながら楽しめる技術の実用化に力を注ぐ。スマホの普及や動画配信サービスの拡大により、スポーツ中継は自由な時間や場所で楽しめる時代に入った。KDDIは次の価値として「視点の自由」を提案。最新技術と5Gを組み合わせて実現しようとしている。
昨秋開催された「CEATEC(シーテック)ジャパン2017」。会場の一角にはクライミングウォールが設置され、壁をよじ登るクライマーを16台のカメラが取り囲んだ。モニターには、クライマーを捉えた映像をリアルタイムに配信。コントローラーの操作により自由に視点を変更でき、カメラのない角度からの映像も映し出した―。
KDDI総合研究所(埼玉県ふじみ野市)が開発した「自由視点リアルタイム映像システム」で実現した映像だ。同システムは複数のカメラ映像を基に被写体の3次元(3D)映像を作成。別途作成した背景映像と組み合わせ、自由視点のリアルタイム映像を実現する。
これまでは被写体の抽出に時間がかかり、映像の即時生成は難しかった。同社はカメラの台数の増強や、人工知能(AI)を活用した被写体抽出技術の導入などで可能にした。
ただ、同システムは被写体が複数になると映像生成に一定の時間が必要になる。このため、サッカーなどの団体競技はリアルタイムの映像生成が難しい。超臨場感通信グループの内藤整リーダーは「開発したシステムを多様な現場で検証し、技術開発を積み重ねて(団体競技における自由視点のリアルタイム映像を)19年頃までに実現したい」と力を込める。
また、KDDIは自由視点映像の普及に向けて他社の技術も取り込む。昨夏には米国の「4DREPLAY」に出資した。同社のシステムは30―50台のカメラで撮影した映像をつなぎ合わせ、自由視点映像を生成する。KDDI総研のシステムに比べ、視聴できる映像はカメラ視点のみと自由度は低いが、団体競技でも5秒程度で映像を生成できる。KDDIはサービスの充実に向け、この二つの技術を連携できないか模索している。
KDDIが自由視点に力を注ぐ理由は、映像サービスが新たな価値になると見込むからだ。バリュー事業企画本部戦略推進部サービス推進グループの松村敏幸マネージャーは「今まで視聴できなかった視点の映像など顧客に新しい体験を提供できる」と強調する。
特に5Gとの融合に大きな期待を寄せる。例えば競技場でサッカーの試合を観戦しながら、手元のモバイル端末では別の視点の映像を楽しむといった体験が実現する。リアルタイムの自由視点映像をモバイル端末に配信する場合、複数のカメラ映像の配信が必要になる。容量が大きいため既存の4Gでは耐えられないが、5Gであれば可能になるという。
一方、こうした映像の商用化には需要の喚起が欠かせない。そこでKDDIは協業先のサイトで、自由視点技術を活用したサッカーの試合映像などを積極的に配信し視聴を促している。5Gが整い始める20年代に向け、消費者の自由視点映像に対する期待や関心を高めていく。
※内容は当時のもの
実証試験は、通信機器の製造を手がけるノキアソリューションズ&ネットワークス(東京都港区)と行う。自動車での高速移動時に通信基地局が切り替わった場合の通信環境の変化や、高層ビルなど電波が届きにくい場所、人が多い街中での通信速度などを検証する。これにより環境によって異なる5Gの特性を把握し、事業化に役立てる狙い。
またソフトバンクはホンダと共同で5Gを活用したコネクテッドカー(つながる車)技術の共同研究を始める。自動車のテストコースに5G環境を2018年度中に構築。高速移動中での基地局の円滑な切り替え技術や車載アンテナ、通信圏外域からのデータ送受信の復旧技術を開発する。自動車、通信に関する両社の知見を持ち寄り、5Gの普及を想定したコネクテッドカー技術の実用化を目指す。
ソフトバンクが、ホンダの研究開発子会社の本田技術研究所(埼玉県和光市)が北海道鷹栖町に持つテストコースに複数の基地局を設置し、本格的な研究を始める。
5Gは高速かつ大容量のデータをやりとりできる一方、現行システムと比べて電波の届く範囲が狭い。そのため5G環境下でのコネクテッドカーの実現には、通信する基地局を安定的に切り替える技術や、電波が弱い地域でのデータ送受信性を確保する技術が必要となる。両社は車両間通信や道路状況に応じた適切な情報提供のやりとりに関する技術などの開発にも取り組む。
ホンダがコネクテッドカー分野で他社と協業するのは初めて。ソフトバンクとは、16年から自動車への人工知能(AI)活用の研究にも共同で取り組んでいる。
日刊工業新聞2018年4月6日の記事に加筆
Perfumeをダンス映像で
2020年の商用化を目指す第5世代移動通信網「5G」。この次世代の通信インフラが普及すれば、音楽やスポーツなど大容量コンテンツを遅延なく送れるようになる。コンサート会場やスポーツ競技場に行かず、手持ちのスマートフォンなどで臨場感のあるライブ映像を楽しめ、自分の好きな視点で映像を見ることが可能になる。
「5Gでキーになるのは映像だと思っている」―。NTTドコモの中村武宏5G推進室室長はこう話す。現在主流の第4世代移動通信網「4G」の10倍以上の通信速度を実現する5Gを使えば、従来できなかったスマホサービスを提供できる。中でも映像はユーザーにとって視覚的に分かりやすく、技術の進歩を体感しやすい。ドコモは数十件の5G実証に取り組み、そのうちの7―8割が映像関連という。
人気アーティスト「Perfume(パフューム)」のパフォーマンスを全世界にライブ配信した取り組みはその一つ。映像や音声だけでなく、その空間や環境の情報も伝送するのが特徴だ。
パフュームのメンバー3人が東京、ニューヨーク、ロンドンの3都市に分かれて同時にダンスパフォーマンスを披露。それをリアルタイムに一つの映像に合成し、インターネットで配信した。ポイントは3人の映像を寸分違わずに合成している点で、3人のダンスは完全にシンクロした。
その際、情報伝送の一部区間に5Gを活用した。ネットワークにおける映像や音声の間の遅延はわずか0・5ミリ秒。5Gが実用化されると、屋外で光回線を引くことができないような場所でも、無線で大容量の映像を送ることができる。
さらに、もう一つ重要な技術がある。NTTが開発した伝送技術「Kirari!(キラリ)」だ。映像の同期技術を用いて、異なる地点の3人の映像を同じタイミングで再生した。5Gとキラリの映像表現を組み合わせることで、その場の空間を丸ごと、リアルタイムに配信できる。
スポーツでも新たな観戦スタイルを提案する。20年の東京五輪・パラリンピックの開幕まで1000日を切る中、ドコモはパラリンピック種目の一つである「車いすフェンシング」の試合で実証を行った。
東京都渋谷区の試合会場と、同墨田区の東京スカイツリーにある観戦会場をつなぎ、映像・音声伝送区間の一部に5G回線を活用。試合会場に設置した複数のカメラで試合を撮影し、その内容を2Kの映像で9本伝送した。ユーザーは好きな視点から自由に観戦できる。
競技場のようにインターネット回線が整っていない場所では、5Gでなければ大容量コンテンツを送ることはできない。場所を選ばずに新たな鑑賞・観戦スタイルで楽しめるのは5Gならではだ。
吉沢和弘社長は5Gを使ったライブ映像配信の商用化について「将来はスポーツや芝居のライブ映像を複数の会場に同時配信するサービスを検討する。入場料は(競技場だけでなく)複数の会場からもらえるようにする」と話す。
スポーツの新しい“個人視点”
KDDIはスポーツ中継などの映像の視点を、個人が自由に変えながら楽しめる技術の実用化に力を注ぐ。スマホの普及や動画配信サービスの拡大により、スポーツ中継は自由な時間や場所で楽しめる時代に入った。KDDIは次の価値として「視点の自由」を提案。最新技術と5Gを組み合わせて実現しようとしている。
昨秋開催された「CEATEC(シーテック)ジャパン2017」。会場の一角にはクライミングウォールが設置され、壁をよじ登るクライマーを16台のカメラが取り囲んだ。モニターには、クライマーを捉えた映像をリアルタイムに配信。コントローラーの操作により自由に視点を変更でき、カメラのない角度からの映像も映し出した―。
KDDI総合研究所(埼玉県ふじみ野市)が開発した「自由視点リアルタイム映像システム」で実現した映像だ。同システムは複数のカメラ映像を基に被写体の3次元(3D)映像を作成。別途作成した背景映像と組み合わせ、自由視点のリアルタイム映像を実現する。
これまでは被写体の抽出に時間がかかり、映像の即時生成は難しかった。同社はカメラの台数の増強や、人工知能(AI)を活用した被写体抽出技術の導入などで可能にした。
ただ、同システムは被写体が複数になると映像生成に一定の時間が必要になる。このため、サッカーなどの団体競技はリアルタイムの映像生成が難しい。超臨場感通信グループの内藤整リーダーは「開発したシステムを多様な現場で検証し、技術開発を積み重ねて(団体競技における自由視点のリアルタイム映像を)19年頃までに実現したい」と力を込める。
また、KDDIは自由視点映像の普及に向けて他社の技術も取り込む。昨夏には米国の「4DREPLAY」に出資した。同社のシステムは30―50台のカメラで撮影した映像をつなぎ合わせ、自由視点映像を生成する。KDDI総研のシステムに比べ、視聴できる映像はカメラ視点のみと自由度は低いが、団体競技でも5秒程度で映像を生成できる。KDDIはサービスの充実に向け、この二つの技術を連携できないか模索している。
KDDIが自由視点に力を注ぐ理由は、映像サービスが新たな価値になると見込むからだ。バリュー事業企画本部戦略推進部サービス推進グループの松村敏幸マネージャーは「今まで視聴できなかった視点の映像など顧客に新しい体験を提供できる」と強調する。
特に5Gとの融合に大きな期待を寄せる。例えば競技場でサッカーの試合を観戦しながら、手元のモバイル端末では別の視点の映像を楽しむといった体験が実現する。リアルタイムの自由視点映像をモバイル端末に配信する場合、複数のカメラ映像の配信が必要になる。容量が大きいため既存の4Gでは耐えられないが、5Gであれば可能になるという。
一方、こうした映像の商用化には需要の喚起が欠かせない。そこでKDDIは協業先のサイトで、自由視点技術を活用したサッカーの試合映像などを積極的に配信し視聴を促している。5Gが整い始める20年代に向け、消費者の自由視点映像に対する期待や関心を高めていく。
日刊工業新聞2018年1月1日
※内容は当時のもの