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ゲリラ豪雨を9割捕捉、精度支えるデータの源は“人”
連載・変革する天気予報(3)
夏場に全国各地で発生するゲリラ豪雨は時に人命を脅かす。積乱雲が急速に発達し、発生するため予測は難しいとされてきた。ただ、ビッグデータや人工知能(AI)を活用する時代になり、その定説がくつがえされつつある。ウェザーニューズ(千葉市美浜区)はビッグデータを活用し、ゲリラ豪雨の発生を1時間前に予測するシステムを構築した。ゲリラ豪雨が発生した場合について、実際にそれを予報していた割合(捕捉率)は9割にも上る。このシステムの精度を支えるのは“人の目”が観測器となるコミュニティーの存在だ。
2008年8月5日。東京都豊島区で突然、猛烈な豪雨が発生した。下水道内で工事中だった土木作業員が流され、尊い人命が失われた。当時の気象庁はゲリラ豪雨について「場所や時間を特定し、十分な時間的余裕をもって予想することは難しい」との認識を示した。しかし、ウェザーニューズの石橋知博執行役員は「ゲリラ豪雨の予測は難しいと言って終わらせるのは簡単だが、我々にできることは確実にある」と思っていた。
確かに、従来の大気のデータなどを基にした物理方程式によって予測することは難しい。一方でゲリラ豪雨を発生させる積乱雲は暗く、モクモクとした形になるなど見た目は特徴的だ。このため石橋執行役員は「皆で空を見上げてその情報を共有すれば、ゲリラ豪雨が発生する場所は確実に分かる」と考えていた。
そこで一般の生活者に携帯電話で撮影した雲の画像の提供を求めるコミュニティー「ゲリラ雷雨防衛隊」の結成を呼びかけた。大気の状態などからゲリラ豪雨が発生しそうな地域を広範囲で推定し、6時間ほど前にその地域にいる「隊員」に雲の監視を依頼するメールを送る。隊員から送られてきた雲の画像データと他の観測データを合わせて解析。ゲリラ豪雨の発生を予測し、通知するという流れだ。08年に初めて運用し、発生20分ほど前に予測した結果、捕捉率は約7割に上った。
この仕組みが成功した理由は、防衛隊の隊員として1万人もの参加者を集められたことにある。ウェザーニューズは05年に天気に関する情報提供を生活者に求めるコミュニティーを構築し、貢献した参加者には景品を贈るなどコミュニティーを育成していた。このため、防衛隊を発足した際、このコミュニティーの参加者を隊員として迎え入れることに成功した。
その後、隊員は順調に増え、16年には10万人に達した。「ゲリラ豪雨の予測という今までできなかったことが、自分の協力によって可能になるという充実感を参加者に実感してもらえたことでコミュニティーが発展した」(石橋執行役員)。また、隊員から送られる雲の画像を自動で解析する技術の導入なども進み、ゲリラ豪雨の捕捉率は発生1時間前の予測で9割に達した。今夏も9月までをメドに防衛隊は稼働している。
ゲリラ雷雨防衛隊を活用した予報は、従来の物理方程式を活用した予報とは一線を画す。AI・ビッグデータ活用時代は、こうした従来とは異なる手法で予報を高精度化する流れが加速する気配を見せている。
ウェザーニューズが2月に天気アプリに実装した予報はその一例だ。雨雲レーダーの画像をAIに学習させ、そのAIが将来の降水分布を予想する。物理方程式による予報と合わせて活用することで、予報の高精度化を実現した。1時間先から3時間先までの予報について、従来は1時間間隔で1キロメートルメッシュの地域ごとに予報していたが、10分間隔で250メートルメッシュで予報できるようになった。
ウェザーニューズの石橋執行役員は「AIが予報業務の効率化だけでなく、予報そのものに使われることで精度を大幅に向上させられる可能性が見えてきた。従来とはまったく異なる方法で天気予報が作られていくことが現実味を帯びている」と見解を語る。AI・ビッグデータ時代が本格的に到来するとされる今後、天気予報がどのような発展を遂げるのか注目される。
【01】チョコモナカジャンボも採用…“気象予報で需要先読み”拡大前夜
【02】電通系と連携も、IBMは気象ビジネスを席巻するか
【03】ゲリラ豪雨を9割捕捉、精度支えるビッグデータは“人”
【04】森田さんが語るAI時代の気象予報士「予報はスパコンに勝てない」
“防衛隊”を募る
2008年8月5日。東京都豊島区で突然、猛烈な豪雨が発生した。下水道内で工事中だった土木作業員が流され、尊い人命が失われた。当時の気象庁はゲリラ豪雨について「場所や時間を特定し、十分な時間的余裕をもって予想することは難しい」との認識を示した。しかし、ウェザーニューズの石橋知博執行役員は「ゲリラ豪雨の予測は難しいと言って終わらせるのは簡単だが、我々にできることは確実にある」と思っていた。
確かに、従来の大気のデータなどを基にした物理方程式によって予測することは難しい。一方でゲリラ豪雨を発生させる積乱雲は暗く、モクモクとした形になるなど見た目は特徴的だ。このため石橋執行役員は「皆で空を見上げてその情報を共有すれば、ゲリラ豪雨が発生する場所は確実に分かる」と考えていた。
そこで一般の生活者に携帯電話で撮影した雲の画像の提供を求めるコミュニティー「ゲリラ雷雨防衛隊」の結成を呼びかけた。大気の状態などからゲリラ豪雨が発生しそうな地域を広範囲で推定し、6時間ほど前にその地域にいる「隊員」に雲の監視を依頼するメールを送る。隊員から送られてきた雲の画像データと他の観測データを合わせて解析。ゲリラ豪雨の発生を予測し、通知するという流れだ。08年に初めて運用し、発生20分ほど前に予測した結果、捕捉率は約7割に上った。
この仕組みが成功した理由は、防衛隊の隊員として1万人もの参加者を集められたことにある。ウェザーニューズは05年に天気に関する情報提供を生活者に求めるコミュニティーを構築し、貢献した参加者には景品を贈るなどコミュニティーを育成していた。このため、防衛隊を発足した際、このコミュニティーの参加者を隊員として迎え入れることに成功した。
その後、隊員は順調に増え、16年には10万人に達した。「ゲリラ豪雨の予測という今までできなかったことが、自分の協力によって可能になるという充実感を参加者に実感してもらえたことでコミュニティーが発展した」(石橋執行役員)。また、隊員から送られる雲の画像を自動で解析する技術の導入なども進み、ゲリラ豪雨の捕捉率は発生1時間前の予測で9割に達した。今夏も9月までをメドに防衛隊は稼働している。
画像認識技術で予報精度を向上
ゲリラ雷雨防衛隊を活用した予報は、従来の物理方程式を活用した予報とは一線を画す。AI・ビッグデータ活用時代は、こうした従来とは異なる手法で予報を高精度化する流れが加速する気配を見せている。
ウェザーニューズが2月に天気アプリに実装した予報はその一例だ。雨雲レーダーの画像をAIに学習させ、そのAIが将来の降水分布を予想する。物理方程式による予報と合わせて活用することで、予報の高精度化を実現した。1時間先から3時間先までの予報について、従来は1時間間隔で1キロメートルメッシュの地域ごとに予報していたが、10分間隔で250メートルメッシュで予報できるようになった。
ウェザーニューズの石橋執行役員は「AIが予報業務の効率化だけでなく、予報そのものに使われることで精度を大幅に向上させられる可能性が見えてきた。従来とはまったく異なる方法で天気予報が作られていくことが現実味を帯びている」と見解を語る。AI・ビッグデータ時代が本格的に到来するとされる今後、天気予報がどのような発展を遂げるのか注目される。
連載「変革する天気予報」
【01】チョコモナカジャンボも採用…“気象予報で需要先読み”拡大前夜
【02】電通系と連携も、IBMは気象ビジネスを席巻するか
【03】ゲリラ豪雨を9割捕捉、精度支えるビッグデータは“人”
【04】森田さんが語るAI時代の気象予報士「予報はスパコンに勝てない」
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AI・ビッグデータの活用が叫ばれるビジネスの世界で気象データを活用する動きが広がり始めました。市場の拡大機運を狙ってIT業界の巨人も気象ビジネス市場に参入しました。AI・ビッグデータ時代の天気予報の革新を追いました。