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揺れる東芝「事後対応」ケーススタディ・オリンパス

東芝、21日に社長が記者会見。第三者委員会から報告書を公開し、進退についても言及

新社長決定、ガバナンス強化を前面に


 <2012年2月28日付>
 オリンパスは27日、次期社長に笹宏行執行役員(56、現社長)が就任すると発表した。会長には主力行の三井住友銀行元専務で日本総合研究所社長の木本泰行氏(63)を招く。高山修一社長ら取締役、監査役は全員辞任する。現経営陣の総退陣で、経営責任を明確化して再生を急ぐ。ただ再生プランは「策定中。しかるべき時期に公表する」(笹次期社長)とするにとどまった。

 4月20日開催の臨時株主総会で選任する。常勤取締役5人のうち木本氏と準主力行である三菱東京UFJ銀行元執行役員の藤塚英明氏(56)の二人を外部から招聘(しょうへい)した。取締役11人中、社外取締役を6人とし、ガバナンス強化を前面に出した。

 銀行主導の人事で、実質的な経営は木本氏が担うとの見方が強いが、人選を担当した来間紘社外取締役は「銀行から送り込まれたわけではない。経営のかじ取りの責任は笹氏が担う」と否定した。ただ損失隠し問題の後処理で財務内容が悪化しており、銀行との関係強化は必至。これを反映した人事となった。

 笹次期社長は会見で緊張した面持ちながら、はっきりとした口調で医療事業中心の将来像を示したが、資本・業務提携などの詳細には言及しなかった。経営陣の一新により損失隠し問題の幕引きを図るが、再生は緒についたばかりだ。
 
 【会見要旨/医療を中心に運営】
 笹次期社長、高山社長の一問一答は以下の通り。
 ―事業のポートフォリオの見直しは。
 笹氏 社内プロジェクトチームで事業再生プランを策定している。しかるべき時期に示したい。長期的には医療を中心に会社を運営したい。
 ―財務体質の改善、資本・業務提携は。
 笹氏 自己資本比率が大きく毀損(きそん)している事実は認識している。改善の方法はさまざまで提携も選択肢の一つだと思う。
 ―提携先として富士フイルムやソニーなどの名前があがっている。
 笹氏 いろいろな報道があるが、きちっとした形での報告はない。名前があがった会社とは、これまでもいろいろと協力している。医療機器ではカメラヘッドやモニターなどで協力している。事業戦略の策定を完了するまで何もしないというわけではない。
 ―臨時株主総会で株主提案はあるか。
 高山氏 23日の期限までに提案はなかった。
 ―株主からの損害賠償で自己資本がさらに毀損するリスクは。
 高山氏 損害賠償はすでに何件かあるが、自己資本に影響を与えるレベルではない。
 【笹氏の略歴と素顔】
 早大大学院理工学研究科修了、同年オリンパス光学工業(現オリンパス)入社。01年内視鏡事業企画部長、07年執行役員。東京都出身。
  「驚きもあったが、私の経験が評価されたことを大変光栄に思った。会社を再生したいという強い思いがある」と指名委員会から指名を受けた心境を語る。30年間にわたり、内視鏡を中心とした開発部門で経験を積んだ。医療部門の販売・マーケティング担当として世界販売戦略も推進。米国の赴任経験もあり、グローバル企業を預かる経営者の資質をみいだされた。

 1990年代、米国の医療機器に対する洗浄消毒効果についての規制強化では軟性内視鏡における洗浄消毒試験の基礎技術の確立に貢献した。消化器対応型、狭帯域光観察機能搭載型、ハイビジョン型などの内視鏡システムの開発を主導し、診断の裾野を広げた。

 再生のためには「医療事業を中心にした利益ある成長が不可欠」と強調する。規模を求めて拡大した事業構成を再検証し、収益構造を見直すことが求められる。
 (肩書き年齢は当時)

1年後、中期ビジョンを元に再建が軌道に乗り始める


 <2012年11月8日付>
 オリンパスの粉飾決算問題の発覚から8日で1年が経過する。損失計上先送りを主導した経営陣を一新し、新経営陣のもとで信頼回復とモノづくりの強化に取り組んでいる。新体制も軌道に乗り、12日発表の2012年4―9月期決算では医療機器が収益のけん引役となり、業績が堅調に推移しているという内容になりそうだ。不祥事をきっかけに受け身の企業改革に着手しなければならなかったオリンパス。世界シェア7割を誇る内視鏡など医療機器を武器に再建は順調に進んでいる。

 オリンパスは粉飾決算問題の後始末に追われながらも、この1年間で今後の成長をけん引する四つの重要な医療機器を発表した。それが約10年ぶりとなる国内向け内視鏡ビデオスコープシステムの新製品「イーヴィスルセラエリート」、同じく7年ぶりとなる海外向けの「イーヴィスエクセラIII」、新興国向けシステム「アクセオン」、外科手術用デバイス「サンダービート」だ。

 先進国では内視鏡の置き換え・買い替え需要を狙う。内視鏡の普及が進む新興国向けには普及価格機種、さらには外科手術デバイスで内視鏡への利用フィールドを世界で広げるなど4製品で医療機器事業の中長期の成長をアピールする。

 6月8日に開かれた中期ビジョン発表会。笹宏行オリンパス社長は「一連の不祥事で毀損した信頼を回復し、企業価値を向上していかなければならない」と宣言した。同ビジョンは17年3月期を最終年度とする5カ年の経営計画で、医療機器事業は12年度の売上高3492億円を5700億円に、営業利益682億円を1260億円に増やすといった意欲的な目標数値が並ぶ。

 【製品に対する信頼を失ったわけではない】
 オリンパス経営幹部は「製品に対する信頼を失ったわけではない」と口をそろえる。粉飾決算問題の発覚後も医療機器事業は好調。同事業がけん引し、13年3月期の売上高は前期比715億円増の9200億円、営業利益は同145億円増の500億円、当期利益は490億円の損失から70億円の黒字転換を見込む。

 懸念だった自己資本比率も当面の危機を脱した。3月末時点で4・6%に低下。6月末には円高の影響で2・2%と危険水位に陥ったが、ソニーとの資本・業務提携が9月末にようやく決まった。今後、オリンパスは12月にソニーと内視鏡の事業会社を設立する。調達した500億円を内視鏡の研究開発費や普及のためのトレーニングセンターの開設・運営費用に充てるなど、成長戦略を推進する経営資源を確保できた。

 ただ、再建の道のりは始まったばかり。好調な医療機器事業を幹として不採算事業の剪定(せんてい)に着手するなど、新経営陣は引き続き大胆な改革を急ピッチで進めなければならない。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
オリンパスはやはり上場廃止にならならず、常に市場の目にさらされていたことが再生で大きかった。ソニーとの資本提携も発表当時は実効性について批判的な声もあったが信用補完になり、ひとまず軌道にのりつつある。医療機器という事業の幹があったのも、再生の道を分かりやすくした。産業界全体でみると、11年の当時からガバナンスの強化が指摘されていたが、上場企業における新しい企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」が動き出したのがようやく今年6月。それも実行する企業や経営陣の意識次第で、機能するかが大きく変わる。幸い、東芝は医療やインフラの一部、半導体の一部などで幹となる事業を抱えている。変な社内対立は「ノーサイド」にして再スタートを切って欲しい。

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