揺れる東芝「事後対応」ケーススタディ・オリンパス
東芝、21日に社長が記者会見。第三者委員会から報告書を公開し、進退についても言及
1カ月後、経営陣が総退陣を表明。再建の方向性示す
<2011年12月8日付>
オリンパスは7日、高山修一社長が記者会見を開き、14日に予定している決算発表など再建にめどをつけて2月にも現経営陣が総退陣する方針を明らかにした。弁護士、有識者で組織する委員会で事業再建計画、不正経理・監査の解明を推進。他社との業務・資本提携なども視野に、失われた信頼の回復を目指す。
【ベンチャー育成事業まず俎上−デジカメで他社と協業も】
事業再建計画では「事業構造の最適化」に踏み込む。7日の会見で高山社長は詳細に言及しなかったが、まずメスが入りそうなのは「飛ばし」の温床となったベンチャー育成事業。特に内視鏡メーカーとしては相乗効果に乏しく、損失隠しの隠れみのに使われた調理器具、化粧品開発などの国内子会社3社の扱いは俎(そ)上にのぼるだろう。
同計画では他社との協業も積極的に検討する。同社はこれまで「株価は下落したが、事業は毀損(きそん)していない」(高山社長)と繰り返し強調してきた。しかし一部で起きている“オリンパス製品離れ”に配慮したのか、「新技術や販売チャンネルの獲得に向けて、業務提携の可能性を追求する」(高山社長)方向に転じた。
さらに焦点となるのがデジタルカメラ事業。同事業は11年4―6月期に黒字にこぎつけたが、事業環境は依然厳しい。提携などによる事業基盤の強化が欠かせない。同時に資本提携については「チャンスがあれば検討したい」と断言し、資本の充実を図る考えだ。
【不正を告発したウッドフォード元社長への評価も一変させる】
高山社長が態度を一変させたのは、不正を告発したマイケル・ウッドフォード元社長に対する評価も同じ。これまでウッドフォード元社長を株価下落の戦犯として断罪してきたが、「我々ができなかった提起をしたことは評価している」とひょう変した。東京地検特捜部など司直による強制捜査も予想されており、透明性のある経営体制に早急に移行する必要がある。
「新事業の創出が経営陣の共通認識だった」。95―06年に同社取締役だった宮田耕治氏はこう振り返る。オリンパスがマネーゲームの果てに不正会計に至った背景には、新規事業立ち上げの焦りがあった。90年代後半に財テクの失敗による損失が膨らむ一方、主力事業の内視鏡とカメラの両事業の成長が頭打ちとなりつつあった。電子分野などで新規事業を立ち上げたが相次ぎ頓挫。切り札として手を出したのがファンドへの投資だった。
「自社で技術開発し、育て上げるのがオリンパスのDNAだった」(宮田氏)。巧妙な金融手法で20年間にわたり損失を隠蔽してきた同社だが、元来は技術本意のモノづくり企業だった。
そのメーカーとしてのDNAも、90年代後半には壊れていた。主力の内視鏡事業は世界シェアトップにある半面、もはや大きな伸びしろはない。金融資産の含み損は1000億円規模に達し、“飛ばし”と不正会計を繰り返すことになった。
この間、宮田氏らを含めて取締役が不正の事実を知ることが無いまま事態が進行した。同社の復権には経営体制の立て直しが急務だが、長期間にわたるガバナンスの不在がもたらした傷は深い。
産業界から非難の声。法務省は内部統制強化へ法改正に動く
企業による大規模な不正が相次いで発覚する中、法務省の法制審議会会社法制部会は7日に会合を開き、企業の内部統制強化などを目的とした会社法改正の中間試案を大筋まとめた。オリンパスの巨額損失隠し問題も踏まえ、社外取締役の要件の厳格化や監査役の権限強化を打ち出した。大企業の社外取締役選任の義務化、社外取締役を主体として経営者の選任・解任にも関与できる「監査・監督委員会」制度の設置案も盛り込んだ。法務省は来秋の臨時国会に改正法案提出を目指す。
社外取締役の要件ではオリンパスの社外取締役がいずれも取引先の関係者だったこともあり、(1)親会社の取締役や執行役ら(2)当該企業の取締役や執行役らの配偶者および一定範囲の親族・姻族―のほか重要な取引先の関係者を除外する案も盛り込んだ。社外取締役の選任を義務付ける対象には、会社法上の「大会社」であって株式上場企業などの「公開会社」とする案などが挙がった。監査役の要件も同様に厳格化。監査役に監査法人の選任・解任議案や報酬の決定権を持たせる案も盛り込んだ。
新しい内部統制機関として提唱した監査・監督委員会は3人以上の取締役で構成し、うち過半数を社外取締役とする。委員は取締役会での議決権を持ち、経営の監督に当たる。業務執行と監督の機能の切り離しで監督の実効性が高まるほか、業務執行担当の取締役が職務に専念できる利点があると見ている。
一方、経団連の米倉弘昌会長は7日高知市内で会見し、社外取締役の義務づけなどを柱にした会社法改正について「オリンパスは3人の社外取締役がいた。義務づけしても改善にはならない」と慎重な姿勢を示した。米倉会長は「トップの高い倫理観が必要」として、法律の強化より経営者としての資質を求めた。
【注目された東証の判断は・・】
「オリンパスは不正会計を行い、投資家をだまし続けてきた。これで上場維持になるなら、東証は何をすれば上場廃止になるのか明確な基準を示すべきだ」。ある東証1部上場企業の役員は皮肉っぽく話す。株主、顧客、取引先、金融機関、従業員などステークホルダーの利益を毀損したオリンパスに対して、産業界からも非難の声があがる。
だが、市場関係者の間ではオリンパスは上場廃止にならないとの声が多い。損失隠しは社長と取締役ら少数によるもので、組織ぐるみではないとなれば上場廃止にならないとの理屈だ。粉飾決算の末に上場廃止となったカネボウは“債務超過”を隠蔽(ぺい)していた。オリンパスは財務上の致命的な問題点は無いとしており、上場は維持できるとの見方もある。
だがカネボウの上場廃止の大きな理由の一つは市場の規律維持。巨額の使い込みが明らかになった大王製紙、架空増資で発覚した井上工業など、ガバナンス、コンプライアンス上の重大な問題が相次いで露見している。投資家の市場への信用をいかに回復するか、東証の判断が注目される。
(肩書きは当時)