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「君のカラダは星くずでできている!?」

元素の途方もない時間と空間の旅
「君のカラダは星くずでできている!?」

展示スペースに書いてある言葉

**偶然来た元素
 「君のカラダは星くずでできている!?」

 私たちが研究している建物の展示スペースにはそう書いてある。

 皆さんの体や地球上のさまざまな物質を形作る元素は宇宙開闢(かいびゃく)から存在したわけではない。宇宙の開闢直後に存在した元素は、ほぼ水素とヘリウムだけだったと考えられている。その後水素やヘリウム達は、時には広大なる宇宙空間を彷徨(さまよ)い、時には星の一部となってその内部の高密度・灼熱(しゃくねつ)環境下でゆっくりと融合し重い元素へと姿を変えてきた。

 そして、その星が生涯を閉じるときに宇宙空間にばらまかれ、再び広大な宇宙空間を彷徨い、たまたま地球上にやってきた元素が皆さんの体を作っている、というのが冒頭のフレーズのメッセージである。核融合によって重元素が作られた、というのは科学好きの間では常識となっていて、某著名作家Kの小説の冒頭部分でもそのように書かれている。

激烈な環境下


 しかし、これは一部分間違いで、核融合反応で作られる元素はせいぜい鉄(元素番号26)までなのである。それより重い元素、象徴的には金(元素番号79)やウラン(元素番号92)は上のシナリオでは作られず、超新星爆発や中性子星合体のようなもっとすごくもっと激烈な環境下で、多くの短寿命放射性原子核を経由して作られたという仮説がある。これを「r過程仮説」という。

 この仮説はファウラー博士らによって60年前に提唱されたが、経由する短寿命放射性原子核を地球上で作ることができなかったために、60年間検証されることなく今日に至っている。

10―20年後に


 60年の月日を経て、これらの原子核の少なくとも一部を、ようやく人工的に作ることができるようになった。我らが誇るRIビームファクトリーが持つ空前の原子核生成能力ゆえである。RIビームファクトリーではr過程に関わる多くの原子核が作られ、私達研究者は、先端検出器を使ってその寿命、重さ、反応率を次々と測り、そして今後測ろうとしている。

 新たな実験結果が予想通りであることはまずない。研究者は、原子核が発する聲に耳を澄ませ、原子核を支配する法則を夢想し、それらが宇宙で一瞬だけ生まれた時間に思いを馳(は)せる。
日刊工業新聞2018年8月6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
10年後か20年後か皆さんにお伝えしたい。 「君のカラダはこんな凄い経験をして来た星屑でできているのですよ」と。 (仁科加速器科学研究センタースピン・アイソスピン研究室室長 上坂友洋)

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