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「リュウグウ」探査目前に、その成功で日本が得る価値

21日にも到着、JAXAが万全の体制整える
「リュウグウ」探査目前に、その成功で日本が得る価値

小惑星表面に到着する「はやぶさ2」の想像図(池下章裕氏提供)

 はるか30億キロメートルの航海の果てに、小惑星探査機「はやぶさ2」のミッションが正念場を迎えようとしている。目的地である小惑星「リュウグウ」へ21日にも到着し、各種探査を始める。トラブル続きだった初代「はやぶさ」と違い、これまで順調な旅路だったはやぶさ2。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の担当チームはミッション遂行に万全の体制で臨む。

上空接近、あと20日―降下シミュレーション念入り


 はやぶさ2とリュウグウとの距離は5月30日現在、約8000キロメートル。東京から米サンフランシスコほどの距離まで近づいた。

 リュウグウとの距離が2500キロメートルとなる5日にもイオンエンジンの運転を終え、21日―7月5日にもリュウグウの高度20キロメートル地点に到着する予定だ。

 JAXA宇宙科学研究所ではやぶさ2プロジェクトチームを率いる津田雄一プロジェクトマネージャは、「動いている小惑星にタイミング良く到着するのは難しい。慎重に運用していきたい」と気を引き締める。

 はやぶさ2の現地での探査期間は1年半を予定する。そこでの最終的な目標は、リュウグウの表面とその表層下にある試料の採取だ。小惑星表面に接近し試料を採取するためには、さまざまな調査や実証を行う必要がある。

 リュウグウ到着後、撮影した画像から詳細を調べた後、小型ローバー(探査車)や小型着陸機での探査に入る。さらに小惑星表面の試料採取を試みる。

 また衝突装置を射出し、その衝撃でリュウグウ表面に人工的なクレーターを作り、そこに着陸、地下物質を採取する。こうして得た試料を地球に持ち帰るまでがミッションだ。

 リュウグウは直径900メートル程度と推定される。太陽系形成初期の水や有機物などを多く含んでいると考えられており、リュウグウの試料を持ち帰ることができれば、太陽系の進化や誕生、生命の起源などを解き明かせるかもしれない。

 はやぶさ2には、地球帰還用カプセルや着陸地点にクレーターを作る衝突装置、小型ローバー、光学カメラなどの機器が詰め込まれている。2月には搭載カメラでリュウグウの撮影に成功したものの、リュウグウの軌道ははっきり分かっておらず、近距離で撮影後に詳細な3次元モデルを作製する。リュウグウの自転軸を調べ、着陸可能な場所を選ぶことになる。

 地球との通信の時間差を考慮し、本番前に3Dモデルと通信画像からはやぶさ2の正確な位置を割り出し、計画を立てる必要がある。このため、JAXAのチームはリュウグウへの降下を想定したシミュレーション訓練を繰り返している。

 はやぶさ2のミッション実行には、探査機の製造企業も全面的に協力する。

 NECは、はやぶさ2のバス(基幹系)機器や光学航法カメラなどの観測機器、探査機システム全体の設計・製造を手がけた。さらに運用面では地球の重力を利用して軌道を変える「地球スイングバイ」やイオンエンジンの運転などを支援した。リュウグウ到着後には、リュウグウ表面への降下ミッションの成功に協力する。

 はやぶさ2のNEC側の開発責任者である宇宙システム事業部第一宇宙システムグループの大島武プロジェクトディレクターは、「わくわくしながら小惑星への到着を待っている。小惑星に降りるのは難しいミッションだが、JAXAの運用チームを支援し成功に導きたい」と準備を進める。

NASAと連携―高まる日本の存在感


 ミッション成功には海外との協力も不可欠だ。米航空宇宙局(NASA)は、はやぶさ2の追跡・管制などを支援。また16年に打ち上げた小惑星探査機「オシリス・レックス」から得られる小惑星「ベンヌ」の試料とリュウグウの試料の互いの提供も約束した。

 さらに、はやぶさ2に搭載している小型着陸機「MASCOT」(マスコット)を開発したドイツとフランスや、試料入りの帰還カプセルの地球上の着陸場所を提供する豪州など、地球規模で連携が広がり、ミッションを成功に導く。

 今後、月や火星、さらに遠い宇宙への国際宇宙探査が広がっていくだろう。その時に小惑星探査など得意な技術を持っていることは、日本が優位な立場で国際宇宙探査に参加するための重要な要素となる。初代はやぶさに続き、はやぶさ2でもミッションが成功すれば、今後の宇宙開発で日本の存在感を一層高めることができる。

 はやぶさ2は19年11―12月にリュウグウを出立し、20年末ごろ往復52億キロメートルの旅路を終えて地球に帰還する。もし機体の健全性や燃料に問題がなければ、帰還カプセルを地球へ投下した後、別の探査に向かう可能性も残る。
はやぶさ2に搭載した光学航法カメラ(JAXA提供)

リュウグウの試料を回収する予定の地球帰還用カプセル(JAXA提供)
日刊工業新聞2018年6月1日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
竜宮城からの“玉手箱”を持ち帰るための大事な一歩を踏み出そうとするはやぶさ2。これからしばらくは人類の宇宙開発史にとって、歴史的な成果の達成が相次ぐことになるだろう。 (日刊工業新聞社・冨井哲雄)

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