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学び支えるエドテックベンチャー、理想の教育に挑む若き旗手たち
最先端のITを教育に活用するEdTech(エドテック)で「学び」の風景が変わりつつある。技術の活用方法や着眼点はさまざま。小学校におけるプログラミング教育必修化が2年後に迫ることも広がりの背景にある。そんな新たな学びを支えるのは、エドテックベンチャーの旗手たち。それぞれの問題意識や理想の教育を目指し、教育の変革に挑んでいる。
黒板を背にした一人の教師が大勢の生徒を前に授業を進める―。明治以来、150年以上続く光景を一変させたいと話すのは、AI(人工知能)による学習支援サービスを展開するatama plus(アタマプラス、東京都中央区)の稲田大輔代表取締役CEO(最高経営責任者)。大手商社を経て、東大時代の同級生2人と2017年4月に起業した。
学習履歴や集中度、ミスの傾向などをリアルタイムでAIが分析。一人一人に合わせたオーダーメイド教材を提供する。サービス開始から1年足らず。大手の学習塾で導入が広がっている。
AI活用の利点は、問題が解けない根本原因を特定できること。例えば高1の数学でつまずきがちな「正弦定理」。これまで類似問題をひたすら解き続けることで克服するしかなかったが、つまずきの原因はひとそれぞれ。ある生徒は、前段階である「三角形の外心」が理解できていないと診断された。そして、その習得には中学校で学んだ「三平方の定理」にいったんさかのぼって復習するのが効果的である―といった具合だ。数十分ほど問題を解けば、それぞれの得意不得意や理解度がAIによって把握できるという。
基礎学習の習得にかかる時間を半減させ、その分、社会で生きる力を養いたいと語る稲田CEO。AIはティーチング、人間はコーチングに徹することで、一方通行の授業ではなく、教師は生徒を励ましたりケアするといった本来の役割が発揮できると考えている。
「スタプラ」の愛称で受験生の間で人気の教育アプリを提供するスタディプラス(東京都渋谷区)。利用者は300万人を超える受験生の「プラットフォーマー」として知名度を誇る。いつ、どれだけ勉強したかや使用した参考書をスマートフォン(スマホ)のアプリに登録すれば、日、週、月別のグラフで可視化される。
一見すると、これまでアナログで記録してきた学習履歴がデジタル化されただけのようだが、スマホを肌身離さず持ち歩くデジタルネーティブ世代の心をつかむ秘密がある。
SNS(交流サイト)機能はそのひとつ。友人同士だと話しにくいが、同じ志望校の受験生とはむしろ積極的に交流することでモチベーションを高めたい―。こうしたユーザーの声に応えて、機能拡充したところ、登録者数が急増。生徒の自宅学習を把握したい塾や予備校の利用も増えている。
「やっぱモチベだよね」―。開発の原点には、廣瀬高志社長自身が受験生時代、友人と幾度も交わした会話がある。
「これまでの教育は、教える側の目線が強く、学ぶ側の個性や違いが考慮されてきませんでした。テクノロジーの力を借りれば、主体的に学ぶスタイルが定着する。その際、『モチベーション』をいかに刺激するかはカギとなります」(廣瀬社長)。
プログラミング教育という新市場を牽引するライフイズテック(東京都港区)。中核事業である中高生がプログラミングやITを学ぶキャンプやスクール運営に加え、現在、力を注ぐのがオンライン型の学習サービスの開発だ。
そのひとつが2018年4月に市場投入したプログラミング学習教材。ウォルト・ディズニー・ジャパンとライセンス契約を締結。オンライン学習の課題である継続率を高めるため、エンタテインメント性を高めたのが特徴だ。ディズニーの人気キャラクターが登場するオンラインのレッスンや、オフラインではストーリーと連動した「魔法の本」など、興味が持続する仕掛けが随所に施されている。12万8000円と決して安いとは言えないにもかかわらず販売は好調。購入者の中にはプログラミングに初めて触れる初心者も少なくない。将来、役立つプログラミングを楽しく学べるとあって、「投資と考えればむしろお得」と考える人も少なくないという。
同社は私立開成高校(東京都荒川区)で物理の非常勤講師を務めていた水野雄介代表取締役CEOが2010年に設立。エドテックベンチャーでは老舗企業の領域だ。
「文化祭で自作のゲームを発表したい」。生徒が相談に訪れたことが起業の原点にある。野球やサッカーが好きな生徒と同じぐらい、パソコンやITが好きな子がいるはずなのに、学ぶ場所やチャンスをつかむ場所がない―。「野球に例えれば甲子園を経てプロ入りという道が拓けているように、IT界にもスーパーヒーローを輩出する仕組みが必要」(水野CEO)とプログラミング人材のすそ野拡大に挑んできた。
設立から8年―。事業拡大の背景には、プログラム教育を取り巻く社会の変化があることを感じている。小学校でのプログラミング教育必修化はもとより、スマートフォンの普及でITが身近になった効果も学習意欲に拍車をかけた。中高生のためのスマートフォンアプリ開発コンテスト「アプリ甲子園」にはライフイズテックのキャンプ卒業生が数多く入賞。同年代がテクノロジーを使って家族の困りごと解決したり、日常生活のアイディアを具現化する姿を前に「自分もやってみたい」「プログラミングは特別なスキルではない」との認識が広がっているという。
米調査会社のフロスト&サリバンによると、2015年から2022年のエドテック関連市場の平均成長率は18・3%。22年には400億ドルを超えるとみられる。とりわけ公教育におけるテクノロジー活用で日本は世界に遅れを取っているとの指摘もあるが、atama plusの稲田CEOはこう語る。「教育現場の変革に時間がかかるのはいずこも同じ。国としての戦略が明確になれば、むしろ日本の方が爆発的に普及する素地がある」。ライフイズテックの水野CEOも「日本の高品質な教材は、米国市場でも反応がいい」と、海外展開も視野に入れる。
AIで学習支援
黒板を背にした一人の教師が大勢の生徒を前に授業を進める―。明治以来、150年以上続く光景を一変させたいと話すのは、AI(人工知能)による学習支援サービスを展開するatama plus(アタマプラス、東京都中央区)の稲田大輔代表取締役CEO(最高経営責任者)。大手商社を経て、東大時代の同級生2人と2017年4月に起業した。
学習履歴や集中度、ミスの傾向などをリアルタイムでAIが分析。一人一人に合わせたオーダーメイド教材を提供する。サービス開始から1年足らず。大手の学習塾で導入が広がっている。
AI活用の利点は、問題が解けない根本原因を特定できること。例えば高1の数学でつまずきがちな「正弦定理」。これまで類似問題をひたすら解き続けることで克服するしかなかったが、つまずきの原因はひとそれぞれ。ある生徒は、前段階である「三角形の外心」が理解できていないと診断された。そして、その習得には中学校で学んだ「三平方の定理」にいったんさかのぼって復習するのが効果的である―といった具合だ。数十分ほど問題を解けば、それぞれの得意不得意や理解度がAIによって把握できるという。
基礎学習の習得にかかる時間を半減させ、その分、社会で生きる力を養いたいと語る稲田CEO。AIはティーチング、人間はコーチングに徹することで、一方通行の授業ではなく、教師は生徒を励ましたりケアするといった本来の役割が発揮できると考えている。
受験生の心つかむ
「スタプラ」の愛称で受験生の間で人気の教育アプリを提供するスタディプラス(東京都渋谷区)。利用者は300万人を超える受験生の「プラットフォーマー」として知名度を誇る。いつ、どれだけ勉強したかや使用した参考書をスマートフォン(スマホ)のアプリに登録すれば、日、週、月別のグラフで可視化される。
一見すると、これまでアナログで記録してきた学習履歴がデジタル化されただけのようだが、スマホを肌身離さず持ち歩くデジタルネーティブ世代の心をつかむ秘密がある。
SNS(交流サイト)機能はそのひとつ。友人同士だと話しにくいが、同じ志望校の受験生とはむしろ積極的に交流することでモチベーションを高めたい―。こうしたユーザーの声に応えて、機能拡充したところ、登録者数が急増。生徒の自宅学習を把握したい塾や予備校の利用も増えている。
「やっぱモチベだよね」―。開発の原点には、廣瀬高志社長自身が受験生時代、友人と幾度も交わした会話がある。
「これまでの教育は、教える側の目線が強く、学ぶ側の個性や違いが考慮されてきませんでした。テクノロジーの力を借りれば、主体的に学ぶスタイルが定着する。その際、『モチベーション』をいかに刺激するかはカギとなります」(廣瀬社長)。
プログラミング人材育てる
プログラミング教育という新市場を牽引するライフイズテック(東京都港区)。中核事業である中高生がプログラミングやITを学ぶキャンプやスクール運営に加え、現在、力を注ぐのがオンライン型の学習サービスの開発だ。
そのひとつが2018年4月に市場投入したプログラミング学習教材。ウォルト・ディズニー・ジャパンとライセンス契約を締結。オンライン学習の課題である継続率を高めるため、エンタテインメント性を高めたのが特徴だ。ディズニーの人気キャラクターが登場するオンラインのレッスンや、オフラインではストーリーと連動した「魔法の本」など、興味が持続する仕掛けが随所に施されている。12万8000円と決して安いとは言えないにもかかわらず販売は好調。購入者の中にはプログラミングに初めて触れる初心者も少なくない。将来、役立つプログラミングを楽しく学べるとあって、「投資と考えればむしろお得」と考える人も少なくないという。
IT界のスーパーヒーローを
同社は私立開成高校(東京都荒川区)で物理の非常勤講師を務めていた水野雄介代表取締役CEOが2010年に設立。エドテックベンチャーでは老舗企業の領域だ。
「文化祭で自作のゲームを発表したい」。生徒が相談に訪れたことが起業の原点にある。野球やサッカーが好きな生徒と同じぐらい、パソコンやITが好きな子がいるはずなのに、学ぶ場所やチャンスをつかむ場所がない―。「野球に例えれば甲子園を経てプロ入りという道が拓けているように、IT界にもスーパーヒーローを輩出する仕組みが必要」(水野CEO)とプログラミング人材のすそ野拡大に挑んできた。
設立から8年―。事業拡大の背景には、プログラム教育を取り巻く社会の変化があることを感じている。小学校でのプログラミング教育必修化はもとより、スマートフォンの普及でITが身近になった効果も学習意欲に拍車をかけた。中高生のためのスマートフォンアプリ開発コンテスト「アプリ甲子園」にはライフイズテックのキャンプ卒業生が数多く入賞。同年代がテクノロジーを使って家族の困りごと解決したり、日常生活のアイディアを具現化する姿を前に「自分もやってみたい」「プログラミングは特別なスキルではない」との認識が広がっているという。
400億ドル市場が広がる
米調査会社のフロスト&サリバンによると、2015年から2022年のエドテック関連市場の平均成長率は18・3%。22年には400億ドルを超えるとみられる。とりわけ公教育におけるテクノロジー活用で日本は世界に遅れを取っているとの指摘もあるが、atama plusの稲田CEOはこう語る。「教育現場の変革に時間がかかるのはいずこも同じ。国としての戦略が明確になれば、むしろ日本の方が爆発的に普及する素地がある」。ライフイズテックの水野CEOも「日本の高品質な教材は、米国市場でも反応がいい」と、海外展開も視野に入れる。