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「人工知能を語り尽くそう!」日本が世界で勝つために(後編)

元Google・村上、東大・松尾、ドワンゴ・山川、IGPI・塩野、Preferred ・西川による刺激的な討論会

これからは「読み・書き・そろばん・AI」の時代に


画像認識技術の向上で課金などミクロの経済構造が変わる

 松尾 画像認識の技術が上がっていて、グーグルとかマイクロソフトの研究ではディープラーニングを使うと人間の画像認識の精度を超えている。人間よりエラー率が下がっているのはすごいイノベーションで、ほんの数年前までは、決してできることはないだろうといわれていたが短期間にできてしまった。また、今私が妄想しているのが、モノの価格の設定ということ。画像認識とかで顧客の行動をよくみていると、最初は無料で、これ以上とったら料金が発生しますよとか、従量課金などでとても細やかなバージョンができるのではないか。そうすると、ミクロの経済学的なところから結構変わってくるはずだ。

 塩野 インターネットの中で、価格収れんがどんどん起きた。皆がすぐに比較してしまうからだ。Aという店で100円だったものが、Bという店で95円だった場合、情報がネット上にどんどん載る。だから、価格の収れんはものすごく早く起こる。一方でインターネットからの情報で誰にだったらいくらで売っても良い、といった細やかな対応もできるようになってきた。そこで問題となるのは人間側の感じ方で、全部補足されていてコンビニで自分が買い忘れそうになった物をリコメンドされるような世界についていけるのか?ということが生じる。そこをどうサービス設計するかが重要になるだろう。

 松尾 インターネットで価格が収れんする中で、やはりお金を出してもいいというリアルな場はあるはず。IoTとAIを使った値付け技術といったものも生まれてくるのでは。

 山川 ほかにも、人々が意見を集約することをネット上でやるような場合に、IoTの発達でうまい方法も出てくるのでは、と思っている。

 行動履歴からコンビニ側が自動的にディスカウント

 西川 リテール分野で人工知能対応は価値を生むだろう。センシングを用いビーコンや監視カメラを組み合わせて、店舗内の空間認識だとか、人の属性とかを認識する技術はかなり進歩しているが、もう少しすると価格がリアルタイムで制御できるようになり、POSで最終的にいくらで買ったかがわかるようになる。つまりセンシングとアクチュエーターが結びつくことで、意外とすぐにうまくいくのではないかと思う。そうしたことを試そうとしたことはあるが、日本ではそこに投資意欲がある人たちはまだまだ少ない。

 塩野 リアルに何か買おうとする時にネットの協調フィルタリングで「これもどうですか?」といわれるのと同様に、コンビニで何かリアルに買おうとしたら行動履歴から、「それじゃなくてこっちを買えばディスカウントしますよ」といわれてしまうと状況はもう近い。

 松尾 いろいろ世界が変わりそうだ。最後に今後のIoTとAIの展望とか、こういう技術あるいは事業領域が重要だ、といったメッセージをいただきたい。

 人類は「通貨」について改めて考察するきっかけを得た

 村上 カレンシー(通貨)について今我々は「ユーロ」という壮大な実験と、「ビットコイン」の実験をみている。シンギュラリティー(技術的特異点)を超えた、かなり長期レンジの話だが、いよいよ人類がカレンシーについて改めて考察するきっかけを勝ち得たのではないか。アップルにしても、グーグルにしても、なぜ手ざわり感のある物流やペイブメント(車道)に入り込んでこようとしているかについて考えたい。
 
 2つ目として量子コンピュータについて今日は具体的な話ができなかったが、「D―Wave」を採用しているいろいろな技術も生まれている。量子ゲートという方式で日本の先生方は一生懸命やっておられる。量子コンピューティングの分野に人材は十分にいるので、国としてそれなりの予算をつけることが必要だと思う。

 山川 現在のディープラーニング等などの技術の発展と、既存のAIの間で一番難しいのは、やはり言語の問題だ。自然言語処理はすごく進歩しているが、基本的には言語の中で閉じているものをやっている。本当の意味で言語を理解するフェーズで、IoTとかでデータがいっぱい上がってくる状況は推進力の1つになるのではないか。言語の理解ができると本当に世界中のいろいろなものをAIが理解することを、今とは違うレベルでできるようになる。そのための技術を狙っていくべきだ。

 インターネットの概念そのものが変わる

 塩野 マクロに関しては、自立型ドローンに代表されるものが軍事的に使われ人を攻撃してしまうといった話があるが、まだ十分な議論がされていない。2点目は超ミクロで、これから多分、「読み・書き・そろばん・AI」みたいになるのではないか。ここにいらっしゃる方のお子さんくらいの世代になったらAIがクラウドになって、エクセルみたいにオフィスで解析などに普通に使えてしまうようになると思う。そういう教育も必要になる。

 西川 IoTとAIというのが組み合わさって価値を生んでいくと、インターネットそのものの定義が大きく変わっていくだろう。今は人が中心のインターネットだが、機械同士がインターネットでつながれるようになる。当然ネットワークアーキテクチャーが変化していく。

 また人工知能が発展すると、ネットワーク制御そのものもが進化を遂げると考える。今は機械を協調させるにしても、プロトコルを定めてうまく協調できるように人がルールをつくっている。それが人工知能の発展で、プロトコルそのものもを人工知能が生成する時代がそう遠くない未来に来るのではないか。

 松尾 本日はありがとうございました。

 
日刊工業新聞社とモノづくり日本会議は6月17日に日刊工業新聞社創刊100周年記念シンポジウム「見えてきた近未来のスマートコミュニティ×ロボット~人工知能やIoTでコミュニケーション、コミュニティが変わる!~」の中で、5名の方によるパネルディスカッションを開きました。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
後編はより具体的な事例が出てきてビジネス化へのヒントになるのではないか。一方で村上さんのカレンシー(通貨)の視点は非常に示唆に富む。ちょうどギリシャ危機の最中に、AIが発達することで世界的な通貨危機リスクが減る方向に行くのか、あるいはその逆なのか。

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