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財源ないけど…幼児・高等教育「無償化」どこまで

消費増税以外の確保策は?
2020年4月から本格的に始まる高等教育や幼児教育の無償化―。財源への不安や「逆差別になる」などと異論が渦巻く中、政府はこの6月に策定される経済財政運営の基本方針「骨太の方針」で低所得世帯の大学授業料の免除、幼児教育の無償化を柱とする2兆円規模の経済政策パッケージを盛り込む。だが、これだけでは本格的な教育無償化をまかなうことはできない。

3.7兆円必要


 政府は17年末、19年10月に予定する消費増税による増収分の使い道を変更し、消費増税時の1兆7000億円円と企業の拠出金3000億円を充てる新たな政策パッケージを打ち出した。安倍晋三首相が新たに掲げた看板政策「人づくり革命」と、賃上げや生産性向上に取り組む企業への税負担軽減を盛り込んだ「生産性革命」が両輪となる。

 問題はどこまで無償化するかだ。文部科学省の試算によれば、就学前教育(保育所や幼稚園など)の無償化に7000億円、大学や専門学校など高等教育をすべて無償化すれば3兆7000億円が必要になる。

未来に「ツケ」


 政府の「人生100年時代構想会議」が17年末にまとめた中間報告では、3歳から5歳までの幼児教育では所得にかかわらず一律で認定保育園などを無償化し、住民税の非課税世帯は国立大学の授業料を免除することなどを盛り込んだ。

 最大の問題は、消費増税だけでは賄えない財源の確保。一つのアイデアは教育費財源に限定した「教育国債」の発行。自民党の下村博文元文科相らは「建設国債の教育版」と位置づけ、「建設国債より乗数効果は大きい」としているが、財務省は「未来の世代にツケを回す」と反発する。

 もう一つの案は、小泉進次郎氏らが主張する、企業・個人が負担する社会保険料を引き上げて財源とする「こども保険」の導入。この案に対しては、現役世代の負担が大きくなることから与野党双方とも反対を表明している。

 一方、政府は20年度から年収250万円未満の住民税非課税世帯の学習意欲のある子どもに対し、国立大学の授業料を免除する。私立大は一定額を支給し、給付型奨学金も大幅に増やす方針だ。

授業料増加


 現在の大学の学費は初年度で国公立が80万―100万円、私立が約110万―150万円。ちなみに1975年度の国公立の入学金は5万円で授業料は年間3万6000円、私立大は同約10万円、同18万円強だった。この間の消費者物価指数の上昇率は約2倍で、授業料は物価上昇率を上回って増加している。賃金が十分に上がらない中、国公立と私立との差額も小さくなり、国公立でも親の負担は大きくなった。

 無償化すれば進学率が現在の5割強から上昇するとみられるが、大学側からは「自治への介入」との反発が出ている。対象大学の要件が不透明なためだ。
日刊工業新聞2018年5月日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
教育の質向上は生産性の向上を通じて経済成長につながる。だが政権が財源の難問をクリアできなければ、本格的な教育無償化は画餅に帰すことになる。 (日刊工業新聞社・八木沢徹)

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