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5Gで海外勢が攻勢、製造現場で起こすゲームチェンジ

精密な機械制御システムは汎用ソフトウェアに置き換わる
5Gで海外勢が攻勢、製造現場で起こすゲームチェンジ

ベッコフはウィンドウズベースの産業パソコンでPLCなどをソフトウエア化し、ラインを統合制御するシステムを展示

 2020年のサービス開始を目指す次世代の移動通信システム、第5世代通信(5G)を製造現場に応用する動きが海外で進む。5Gではデータ転送の遅延課題が解消され、ロボットなどの機器をクラウド上で効率的に制御できる期待がある。ただ同時に、日本が得意な精密な機械制御や管理のシステムが、汎用ソフトウエアの組み合わせなどに置き換わる懸念が強まる。競争原理が根底から覆る「ゲームチェンジ」となる可能性があり、各社は対応を急ぐ必要がある。

海外勢の攻勢 サーバーからロボ制御


 4月下旬にドイツで開かれた世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ」。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が試作したロボットの腕には、ボードが据え付けられている。ボードに乗せたボールを落とさないように、ロボットが巧みに板を操る。

 これは5Gの可能性を示す展示だ。ボールの位置などデータを5Gでロボットからサーバーに送信。そしてサーバー側からロボットの動きを制御する。この通信サイクルの時間は1・5ミリ秒前後と、現行の通信方式4Gの10分の1以下。サーバーからロボットをほぼリアルタイムで制御できる。同社によると、5Gが普及し始める20年に実証試験を始める計画だ。

 同社は独ベッコフオートメーションと連携し、離れた工場間を5Gでリアルタイム制御するシステムも試作中。ベッコフのほか、ボッシュやクカなどドイツの有力企業とも組み、工場の無線化を進める。

 フィンランドの通信機器大手、ノキアも5Gで攻勢に出る。ボッシュと共同で、工場に使う産業機械のデータを高速伝送するシステムを開発中だ。

 日本では5Gの応用先は、自動運転やエンターテインメントなどが有力だ。一方、海外では工場に5Gを導入する機運が高まる。

ゲームチェンジ “職人芸”の世界不要に


 「これはゲームチェンジだ―」。同見本市でクラウド側からの攻勢を目の当たりにした日本人の多くが、そう表現する。

 4Gでは、ロボットなどを制御するにはデータ転送の遅延が大きい。通信ケーブルは設置の手間がかかる。そのため、クラウドコンピューティングと、機械側で情報処理する「エッジコンピューティング」ですみ分けが進むと見られてきた。

 クラウドは欧米企業の独壇場だ。このため、ファナックや三菱電機、オムロンなど日本のファクトリーオートメーション(FA)企業は、エッジ向けのシステム開発に注力する。5Gの普及により、今後、エッジが優位な場面は縮小しかねない。

 さらに、日本が得意とするハードとソフトの「すりあわせ」が必要な製品が、汎用的で標準的なソフトに置き換わる動きも進む。

 ファーウェイの5Gを使うロボットでは、機械制御を担うプログラマブルロジックコントローラー(PLC)がロボットからサーバーに移っている。ベッコフの主力製品の一つ、産業パソコンも、米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」上でPLCの機能を実現できる。PLCは三菱電機などの日本企業が、独シーメンスなどと並んで高いシェアを維持する。だが、PLCのソフトウエア化が進むと、今のような“職人芸”の世界が不要になり、PLCの差別化が難しい。

 ファーウェイは5Gが普及すれば、「Raas(サービスとしてのロボット)」が進むとみる。ロボット自体は機能が簡素なコモディティー(汎用品)として供給し、クラウド側でユーザーに必要な追加機能を提供するという発想だ。

 こうした動向に注目する経済産業省産業機械課の長谷川洋課長補佐は、「5Gが工場に浸透するのは25年以降と、時間がかかるだろう。それでも、PLCのソフト化の流れは変わらない」と断言する。
 

クラウド化加速 MESも日本の知見吸収?


 5Gの普及で工場のクラウド管理の流れは一層加速しそうだ。例えば、作業者や機械の作業計画と進捗(しんちょく)を管理する製造実行システム(MES)。あらゆるデータがMES上で行き交うため、“スマート工場の要衝”として重要性が増している。

 ドイツでは生産管理システム専業に続き、統合業務パッケージ(ERP)大手のSAPもMESのクラウド提供を始めた。標準のMESをクラウド化すれば、初期投資を抑えられ、他のシステムと連携させやすい。

 一方、日本ではMESを内製化したり、工場ごとにカスタマイズしたりする。利用環境とすりあわせる方が使い勝手はよいが、互換性や拡張性に乏しい。これがあだとなり、業界標準を獲得した海外製ソフトに市場から駆逐されてしまうことが懸念される。

 実際、事務系ソフトのマイクロソフトやSAPだけでなく、3次元CADなどの工業系ソフトでも仏ダッソーなどが日本市場を席巻した。特にCADは日本に浸透する過程で、日本の知見を吸収していったという指摘もある。製造データの要衝であるMESでも、同じことが繰り返されるのではないか―。関係者は緊張感を高める。野村総合研究所の藤野直明主席研究員は、「製造業の標準化への試みを、日本も無視しない方がいい」と指摘する。

日本勢の巻き返しは… 国際連携拡大、孤立防ぐ


 日本も手をこまぬいているわけではない。「19年にも海外拠点を設けたい」。産業用IoT(モノのインターネット)の企業連合、エッジクロスコンソーシアムの徳永雅樹事務局長はそう意気込む。

 17年11月の設立時から、三菱電機やオムロンに加え、日本IBMと日本オラクルが幹事会社に加わるなど国際色豊かだ。同連合はエッジ側の機器だけでなく、クラウド側とも円滑に連携できるよう、国際協調を目指す。海外拠点の設置で連携をさらに広げる。日本が世界標準から孤立するのを防ぐ狙いだ。
SAPもクラウド管理による工場のデジタル化を推進する
日刊工業新聞2018年5月14日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ただ、こうした連携に盲点があるとすれば、あらゆる機器がつながると、一部の機器が不要になったり陳腐化したりする点だ。デジタル化ですべての参加者が強みを発揮できるとは限らない。ファーウェイなどの中国・ドイツ連合はそこに目を付け、ゲームチェンジで産業構造を塗り替える狙いだ。日本はこの点に留意する必要がある。 (日刊工業新聞社大阪支社・平岡乾)

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