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「高プロだけは何としても成立してほしい」 働き方関連法案の着地点

名を捨てて実を取るのか
「高プロだけは何としても成立してほしい」 働き方関連法案の着地点

法案に対する神津連合会長(左)と加藤厚労相(右)の認識の差は埋まっていない(4月28日=第89回メーデー中央大会)

 立憲民主党など大半の野党議員が欠席する中、働き方改革関連法案が4月27日に審議入りし、連休中の2日も審議された。安倍晋三首相は「70年ぶりの大改革」とし、今国会中の成立を目指す。法案は、野党が導入に反発する高度プロフェッショナル(高プロ)制度の導入が含まれる一括改正法案。与党単独での強行採決も予想され、国会紛糾は必至だ。

 審議入り翌日の28日、連合主催の第89回メーデー中央大会が代々木公園(東京都渋谷区)で開かれた。式典であいさつした連合の神津里季生会長は、働き方改革関連法案に対し「過労死を無くすためのものだったのに、趣旨が違う内容が入っている」と述べ、高プロ制度導入の削除をあらためて求めた。

 来賓として出席した加藤勝信厚生労働相は「長時間労働の是正や同一労働同一賃金などの実現に向けた法案だ」として理解を求めたが、5月1日に開かれた各地のメーデーでも「働かせ方改革だ」として削除要求発言が相次いだ。

 今国会で最大の争点となる働き方改革。政府は4月6日に働き方改革関連法案を閣議決定、衆院に提出した。ただ、働き方改革をめぐっては、裁量労働に関する厚生労働省の不適切データ問題に野党だけでなく与党内でも批判が強まり、法案から裁量労働制の対象業務拡大項目を削除した。

 また、法案を作成した厚労省の東京労働局が、裁量労働制度を不当適用した野村不動産に対し、昨年末に特別指導を行ったことを公表したものの、その後、同社の社員が過労自殺していたことが明らかになり、「印象操作だ」と非難を浴びた。

 今後、争点となるのは高プロ制度導入の是非。労働基準法や労働契約法改正など計8本からなる働き方改革関連法案は、罰則付きの残業上限規制や非正規労働者の待遇改善を図る「同一労働同一賃金」の導入とともに、野党や連合が“スーパー裁量労働”と導入に強く反対している高プロ制度導入とがセットになっているからだ。

 3年近くも店ざらしにされていた高プロ導入は経済界の悲願。高プロの前身とも言える「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、法案提出さえ阻まれた経緯がある。裁量労働拡大も消えた今、経済界は「高プロだけは何としても成立してほしい」(経団連首脳)と与党に働きかける。

 一方、労働組合の支持を受ける野党は高プロ制度の削除も求め、対案を提出するなど対決姿勢を強めている。連合は2月、立憲民主、希望、民進など野党5党の受け皿となる超党派政策勉強会「連合政策・制度推進フォーラム」を立ち上げ、働き方改革での共闘を確認した。4月10日には神津連合会長、野党議員ら連合フォーラムメンバーが院内集会を開き、立憲民主、希望、民進3党の共闘を確認した。ただ与党の法案には労働側が導入を求める罰則付きの残業規制と同一労働同一賃金制度導入も含まれることから「廃案を主張するのは難しい」(連合幹部)。

 一方、自民党内にも「人手不足が深刻な中小企業に配慮してほしい」との意見が相次ぎ、導入時期を1年遅らせることにした経緯がある。そもそも、法案は神津連合会長が安倍首相に要請した「年間104日以上の休日の義務化」や勤務間インターバルの導入など修正内容を全て反映させたものだ。だが、政府は法案一本化は撤回せず、いったんは連合側も「やむにやまれず」(神津会長)合意した経緯がある。あくまでも高プロ導入の反対姿勢を貫けば、残業規制、同一労働同一賃金という果実も得られないという事情があった。

 「反対だけを唱えているだけでは得られるものは何もない。過労死問題が危機的状況にある中で、労働者のため少しでも多くの実を取らなければならない」(神津会長)。しかし現場は受け入れに難色を示し、連合執行部は昨秋、一転して容認を撤回した。
  
日刊工業新聞2018年5月4日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
労働側にとって、残業規制と同一労働同一賃金導入は悲願だ。政府の「アメとムチ」作戦に対し、野党側はあくまでも審議入りを拒否するのか、それとも名を捨てて実を取るのか。当初会期末は6月20日。会期延長、与党側の強行採決の可能性を含め、後半国会から目を離せない。 (日刊工業新聞社・八木沢徹)

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