「第2のNEC」を作ったNECの終わりなき構造改革
グローバルBUを一つの会社と見立てる
NECは経営陣の中枢を一新し、背水の陣で成長回帰に挑む。指針とするのは計画半ばでいったんは白紙に戻し、4月に再スタートを切った3カ年の中期経営計画だ。3年後の2020年度に見据える利益水準は前中計と同等だが、目標達成への道筋はがらりと変えた。国内では従業員の3000人の削減などで大なたを振るう一方、海外では「第2のNEC」を作る覚悟だ。
4月に始動した新体制では、「海外事業の権限と責任を一元化し、収益構造の立て直しを急ぐ」(新野隆社長)。NECの海外事業はここ数年、売上高が全社比20%前後にとどまる一方、営業損益は数十億円の赤字とみられる。ここにどうメスを入れ、成長軌道へ反転させるのか。就任3年目に入る新野社長体制は正念場に立つ。
まず手を打ったのは組織再編だ。1日付で各ビジネスユニット(BU)に分散する海洋システムやディスプレー、基地向け無線システム、IP―PBX(交換機)などの海外中心の事業を「グローバルBU」の傘下として束ねた。
これには二つの狙いがある。一つは各事業そのものを海外に寄せることで、機動力を発揮しやすくした。もう一つは収益構造の立て直し。それぞれの事業が国内にひもづいていれば海外部分の損益が分かりにくいが、実質的に国内と切り離すことで、収益構造の現実が浮き彫りとなる。
対外的に「第2のNEC」という表現は用いないが、グローバルBUを一つの会社と見立てることで新しい展開を見込む。結果、縮小・撤退のふるいにかかる領域も出そうだ。
グローバルBUの目玉は、顔認証や人工知能(AI)などを駆使したバイオメトリクス(生体認証)技術を看板商品に据える海外セーフティー事業だ。同事業は20年度までに売上高を現行比4倍の2000億円に引き上げる計画。
第1弾として、警察などの公共機関向けにITサービスで実績を持つ英ノースゲート・パブリック・サービス(NPS)を710億円で買収、反撃へのろしを上げた。
20年以降、主戦場の国内ビジネス全体が頭打ちとなり、市場は徐々に縮小すると見込まれる。国内でしっかりと稼げる期間は残り2、3年しか残されていないとの懸念が広がる。
NECはこうした危機感の中で、前日本GEジャパン(東京都港区)社長の熊谷昭彦氏(61)を執行役員副社長に迎え入れ、グローバルBUのトップに据えた。
熊谷氏はGEで30年以上勤務し、米GEの役員も務めた。こうした経験を買われての抜てきだ。NECが事業責任者を副社長級で外部から招くのは熊谷氏が初。期待の大きさがうかがえる。
一方で、新体制を支える生え抜きキーマンといえば、1日付で代表取締役副社長に昇格した森田隆之氏(58)。グローバルセーフティー事業を指揮する山品正勝執行役員常務も注目だ。
森田氏の直近はグローバル事業の責任者(CGO)。新体制では最高財務責任者(CFO)として、成長戦略のカギとなるM&A(合併・買収)なども指揮する。
山品氏は研究所出身。研究部長や半導体の事業部長などを歴任し、海外市場にも精通する。新規事業の創出を命じられたこともあり、「研究者としての考えだけでは事業化には至らない。そこからビジネスモデルを意識するようになった」と語る。海外セーフティー事業は第2のNECの成長エンジン。厳しい道のりが予想されるものの、期待は大きい。
NECの構造改革はパソコン、携帯電話、ビッグローブ、リチウムイオン電池と続き、一巡したかに見えていた。しかし、今回の中計ではもう一段踏み込み、工場を中心とするハードウエア事業領域と、スタッフなどの間接部門に改革のメスを入れる。
国内工場はIT系や通信系を合わせて8カ所。いずれもNECプラットフォームズ(東京都千代田区、保坂岳深社長)が統括する。現在は業務システムの標準化を進める一方、「同じ土俵で仕事ができるように生産システムの共通化にも取り組む」(保坂社長)。システム統合は事業継続計画(BCP)対策になり、かつ工場への負荷も平準化できる。
NECは最盛期には売上高が5兆円あり、当時からの体制が残る。現状は売上高が3兆円を割り込む。身の丈に合った体制に絞り込むため、工場再編を進めるとみられる。
(文=斉藤実)
4月に始動した新体制では、「海外事業の権限と責任を一元化し、収益構造の立て直しを急ぐ」(新野隆社長)。NECの海外事業はここ数年、売上高が全社比20%前後にとどまる一方、営業損益は数十億円の赤字とみられる。ここにどうメスを入れ、成長軌道へ反転させるのか。就任3年目に入る新野社長体制は正念場に立つ。
まず手を打ったのは組織再編だ。1日付で各ビジネスユニット(BU)に分散する海洋システムやディスプレー、基地向け無線システム、IP―PBX(交換機)などの海外中心の事業を「グローバルBU」の傘下として束ねた。
これには二つの狙いがある。一つは各事業そのものを海外に寄せることで、機動力を発揮しやすくした。もう一つは収益構造の立て直し。それぞれの事業が国内にひもづいていれば海外部分の損益が分かりにくいが、実質的に国内と切り離すことで、収益構造の現実が浮き彫りとなる。
対外的に「第2のNEC」という表現は用いないが、グローバルBUを一つの会社と見立てることで新しい展開を見込む。結果、縮小・撤退のふるいにかかる領域も出そうだ。
グローバルBUの目玉は、顔認証や人工知能(AI)などを駆使したバイオメトリクス(生体認証)技術を看板商品に据える海外セーフティー事業だ。同事業は20年度までに売上高を現行比4倍の2000億円に引き上げる計画。
第1弾として、警察などの公共機関向けにITサービスで実績を持つ英ノースゲート・パブリック・サービス(NPS)を710億円で買収、反撃へのろしを上げた。
20年以降、主戦場の国内ビジネス全体が頭打ちとなり、市場は徐々に縮小すると見込まれる。国内でしっかりと稼げる期間は残り2、3年しか残されていないとの懸念が広がる。
NECはこうした危機感の中で、前日本GEジャパン(東京都港区)社長の熊谷昭彦氏(61)を執行役員副社長に迎え入れ、グローバルBUのトップに据えた。
熊谷氏はGEで30年以上勤務し、米GEの役員も務めた。こうした経験を買われての抜てきだ。NECが事業責任者を副社長級で外部から招くのは熊谷氏が初。期待の大きさがうかがえる。
一方で、新体制を支える生え抜きキーマンといえば、1日付で代表取締役副社長に昇格した森田隆之氏(58)。グローバルセーフティー事業を指揮する山品正勝執行役員常務も注目だ。
森田氏の直近はグローバル事業の責任者(CGO)。新体制では最高財務責任者(CFO)として、成長戦略のカギとなるM&A(合併・買収)なども指揮する。
山品氏は研究所出身。研究部長や半導体の事業部長などを歴任し、海外市場にも精通する。新規事業の創出を命じられたこともあり、「研究者としての考えだけでは事業化には至らない。そこからビジネスモデルを意識するようになった」と語る。海外セーフティー事業は第2のNECの成長エンジン。厳しい道のりが予想されるものの、期待は大きい。
NECの構造改革はパソコン、携帯電話、ビッグローブ、リチウムイオン電池と続き、一巡したかに見えていた。しかし、今回の中計ではもう一段踏み込み、工場を中心とするハードウエア事業領域と、スタッフなどの間接部門に改革のメスを入れる。
国内工場はIT系や通信系を合わせて8カ所。いずれもNECプラットフォームズ(東京都千代田区、保坂岳深社長)が統括する。現在は業務システムの標準化を進める一方、「同じ土俵で仕事ができるように生産システムの共通化にも取り組む」(保坂社長)。システム統合は事業継続計画(BCP)対策になり、かつ工場への負荷も平準化できる。
NECは最盛期には売上高が5兆円あり、当時からの体制が残る。現状は売上高が3兆円を割り込む。身の丈に合った体制に絞り込むため、工場再編を進めるとみられる。
(文=斉藤実)
日刊工業新聞2018/年4月18日の記事から抜粋