手を打たなければ乗り遅れ。「アジア」バイク市場に新潮流
“FUNバイク”高まる需要、富裕層・中産階級にターゲット
国内2輪メーカーが、インドや東南アジア地域で趣味性の高い“FUNバイク”の拡販に力を入れている。同地域では富裕層や中産階級が増加し、嗜好(しこう)性の高い製品への需要が高まっている。国内2輪メーカーは排気量126cc以上の商品ラインの拡大や、販売店のハード・ソフトの充実で需要を取り込む。同時に世界的な電動化に対応した商品も投入し、市場攻略で先手を打つ構えだ。
高まる需要―富裕層・中産階級にターゲット
「FUNバイクを購入する人は、スクーターを購入する人と客層が全く違う。店の雰囲気の良さも購入意欲を高める一つの理由になる」(安部典明ホンダ執行役員)。
業界では主に排気量126cc以上のスポーツモデル、舗装路もオフロードも走れるアドベンチャーモデル、長距離の旅に適したクルーザーモデルなど趣味性の高いバイクを“FUNバイク”と呼ぶ。富裕層、中産階級が増加するアジア地域で、先進国市場と同様にFUNバイクの需要が高まりつつあるという。
ホンダはインドで主にFUNバイクを販売する店を現在の24店舗から、さらに10店舗以上増やす計画だ。これまでは通常のバイク販売店の一部で展示販売していたFUNバイクを前面に打ち出す。
店のエンブレムには、日本国内で4月から展開を始める新販売店網で用いる「ウイングマーク」を採用。羽根とホンダのロゴを黒地にシルバーで立体的に表現し、上質な雰囲気を持たせている。
インドと同様の店舗はすでにタイやマレーシア、中国にも出店。5月までにベトナムホーチミン市でも初出店する。安部執行役員は「今後の需要動向次第では、ベトナムでも店舗増も検討する」とする。
インドでは、同1000ccクラスのアドベンチャーモデル「アフリカツイン」やスポーツモデル「CBR」シリーズを投入しており、店舗拡大で拡販する。
FUNバイクを主力商品とする川崎重工業はインドで、現在12の販売店を2020年までに30店舗とする。販売台数も現在の1000台規模から20年までに4000―5000台規模にまで増やす計画だ。17年9月には現地で新工場が稼働。現地サプライヤーからの部品調達も増やして「ニンジャ300」「Z250」、同1000ccクラスの「ニンジャ1000」など大排気量車種の生産も始めた。
同社は世界的に店舗デザインの統一を進めてきており、黒地に緑のラインを合わせた外観で高級感を演出した店舗を日本やインドネシアで展開している。インドでも同様のコンセプトを打ち出す。
スズキは店舗1件当たりの接客品質などを高める戦略だ。マレーシアやタイ、インドの126cc以上の製品を扱う店舗で従業員やサービススタッフの研修を強化する。インドではクルーザーモデル「イントルーダー」など新型車を投入し、拡大を目指す。西河雅宏二輪事業本部長は「(東南アジア、インドの)成長性は有望で、店舗の底力を上げて事業を安定的に黒字化したい」とする。
ヤマハ発動機も、人気の高まりを受けアジアで大排気量車の販売を本格化しているが、店舗戦略については今後の市場環境を見ながら検討する方針だ。
もう一つ、アジア地域で無視できないのが2輪の電動化だ。中国ではすでに電動自転車が年間2000万台規模で販売されていると言われる。インドでも現地のヒーローやパジャジなど大手だけでなく、新興メーカーも含めて電動バイク市場への参入が相次いでいる。日本のメーカーも無視できない市場だ。
ホンダはスクーター「PCX」の電動モデルとハイブリッドモデルを18年に投入する。
電動モデルは脱着可能な独自のバッテリーを採用する。ヤマハ発動機もグローバルモデルと位置づける電動バイクの数年内の発売を表明しており、アジア市場で人気の排気量100―125cc相当とみられる。どちらも具体的な投入時期や地域に関しては、充電インフラの普及状況や市場性を見ながら検討を進める方針だ。
日本自動車工業会の調査では国内の2輪車販売台数は80年代から減少傾向にあり、16年は同9・3%減の33万8000台。全国軽自動車協会連合会によると17年は軽2輪(同126―250cc)は同21・9%増と4年ぶり増加、小型2輪(同251cc以上)は同1・7%増と3年ぶりに増加したが、全体ではピーク時から激減している。
アジア市場は自動車情報サイトのマークラインズによると、16年の2輪車販売台数はインドが前年比6・9%増の約1759万台。統計の確認できる08年以降伸び続けている。ベトナムは同9・5%増の約312万台で、2年続けて増加中。タイは景気低迷や政情不安を脱し、同4・0%増の約174万台で4年ぶりに増加に転じた。
経済成長が続くフィリピンやパキスタンでも市場が拡大。中国、インドがけん引してきた2輪市場は、アジア全域に広がり始めている。各社にとって同地域が戦略市場なのは間違いない。
だが、「(市場が)広がってからでは遅い。今から手を打たなければ乗り遅れてしまう」(川崎重工業の太田和男常務)。早い段階で販売網の整備やブランディングを進める必要がある。
(文=山田諒)
高まる需要―富裕層・中産階級にターゲット
「FUNバイクを購入する人は、スクーターを購入する人と客層が全く違う。店の雰囲気の良さも購入意欲を高める一つの理由になる」(安部典明ホンダ執行役員)。
業界では主に排気量126cc以上のスポーツモデル、舗装路もオフロードも走れるアドベンチャーモデル、長距離の旅に適したクルーザーモデルなど趣味性の高いバイクを“FUNバイク”と呼ぶ。富裕層、中産階級が増加するアジア地域で、先進国市場と同様にFUNバイクの需要が高まりつつあるという。
ホンダはインドで主にFUNバイクを販売する店を現在の24店舗から、さらに10店舗以上増やす計画だ。これまでは通常のバイク販売店の一部で展示販売していたFUNバイクを前面に打ち出す。
店のエンブレムには、日本国内で4月から展開を始める新販売店網で用いる「ウイングマーク」を採用。羽根とホンダのロゴを黒地にシルバーで立体的に表現し、上質な雰囲気を持たせている。
インドと同様の店舗はすでにタイやマレーシア、中国にも出店。5月までにベトナムホーチミン市でも初出店する。安部執行役員は「今後の需要動向次第では、ベトナムでも店舗増も検討する」とする。
インドでは、同1000ccクラスのアドベンチャーモデル「アフリカツイン」やスポーツモデル「CBR」シリーズを投入しており、店舗拡大で拡販する。
FUNバイクを主力商品とする川崎重工業はインドで、現在12の販売店を2020年までに30店舗とする。販売台数も現在の1000台規模から20年までに4000―5000台規模にまで増やす計画だ。17年9月には現地で新工場が稼働。現地サプライヤーからの部品調達も増やして「ニンジャ300」「Z250」、同1000ccクラスの「ニンジャ1000」など大排気量車種の生産も始めた。
同社は世界的に店舗デザインの統一を進めてきており、黒地に緑のラインを合わせた外観で高級感を演出した店舗を日本やインドネシアで展開している。インドでも同様のコンセプトを打ち出す。
スズキは店舗1件当たりの接客品質などを高める戦略だ。マレーシアやタイ、インドの126cc以上の製品を扱う店舗で従業員やサービススタッフの研修を強化する。インドではクルーザーモデル「イントルーダー」など新型車を投入し、拡大を目指す。西河雅宏二輪事業本部長は「(東南アジア、インドの)成長性は有望で、店舗の底力を上げて事業を安定的に黒字化したい」とする。
ヤマハ発動機も、人気の高まりを受けアジアで大排気量車の販売を本格化しているが、店舗戦略については今後の市場環境を見ながら検討する方針だ。
電動化、新興メーカーも参入
もう一つ、アジア地域で無視できないのが2輪の電動化だ。中国ではすでに電動自転車が年間2000万台規模で販売されていると言われる。インドでも現地のヒーローやパジャジなど大手だけでなく、新興メーカーも含めて電動バイク市場への参入が相次いでいる。日本のメーカーも無視できない市場だ。
ホンダはスクーター「PCX」の電動モデルとハイブリッドモデルを18年に投入する。
電動モデルは脱着可能な独自のバッテリーを採用する。ヤマハ発動機もグローバルモデルと位置づける電動バイクの数年内の発売を表明しており、アジア市場で人気の排気量100―125cc相当とみられる。どちらも具体的な投入時期や地域に関しては、充電インフラの普及状況や市場性を見ながら検討を進める方針だ。
国内販売は下げ止まり?
日本自動車工業会の調査では国内の2輪車販売台数は80年代から減少傾向にあり、16年は同9・3%減の33万8000台。全国軽自動車協会連合会によると17年は軽2輪(同126―250cc)は同21・9%増と4年ぶり増加、小型2輪(同251cc以上)は同1・7%増と3年ぶりに増加したが、全体ではピーク時から激減している。
アジア市場は自動車情報サイトのマークラインズによると、16年の2輪車販売台数はインドが前年比6・9%増の約1759万台。統計の確認できる08年以降伸び続けている。ベトナムは同9・5%増の約312万台で、2年続けて増加中。タイは景気低迷や政情不安を脱し、同4・0%増の約174万台で4年ぶりに増加に転じた。
経済成長が続くフィリピンやパキスタンでも市場が拡大。中国、インドがけん引してきた2輪市場は、アジア全域に広がり始めている。各社にとって同地域が戦略市場なのは間違いない。
だが、「(市場が)広がってからでは遅い。今から手を打たなければ乗り遅れてしまう」(川崎重工業の太田和男常務)。早い段階で販売網の整備やブランディングを進める必要がある。
(文=山田諒)
日刊工業新聞2018年3月16日