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全ての強化は非現実的、課題山積の「火山監視」見直しへ

草津白根山、噴火1カ月
全ての強化は非現実的、課題山積の「火山監視」見直しへ

写真は噴火した本白根山の近くにある草津国際スキー場のライブカメラ映像=1月23日午前(草津温泉観光協会ホームページより)

 12人が死傷した草津白根山(群馬県草津町)噴火から約1カ月が過ぎた。噴火の可能性が高いとして重点的に監視してきた「湯釜火口」周辺ではなく、過去1500年間、噴火がないと考えられていた本白根山付近で突然に発生した。噴火予測はどこまで可能か。顕著な前兆現象が確認できない場合に、どのような対策ができるのか。草津本白根の調査、研究を通し、火山監視のあり方の検討が始まっている。

 草津白根山には、気象庁の観測点に加え、東京工業大学や防災科学技術研究所が観測所を設けて継続的に観測している。ただ、

 観測網は、活発な火山活動を示す湯釜周辺に集中し、今回噴火した草津本白根山付近は手薄だった。本白根山付近では、過去1500年間、噴火はなかったとされていたからだ。

 だが、調査が進むと、もっと近年に、また頻繁に小規模噴火を繰り返していた可能性が出てきた。産業技術総合研究所は国土地理院が持つ航空機からのレーザー光線で観測する「空中レーザー測量」による地形図を分析。火口湖の鏡池付近に複数の火口を確認した。

 レーザー測量は火口上の樹木などを除外したデータが取れるため、航空写真では見つけられない噴火の形跡を確認できる。いつ頃発見した火口ができたかを知るには詳細な現地調査が必要だが、以前から知られている噴火の際にできた火口より新しいことは確認した。

 国内には111の活火山がある。気象庁は現在、国内50の「常時観測火山」(火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山)を24時間体制で監視している。監視体制は近年の火山活動の活発度や付近の住民の有無などで判断する。

 今回の噴火を受け、火山噴火予知連絡会は「火山活動評価検討会」で観測のあり方の検討を始めるが、全ての火山の監視体制強化は現実的ではない。

 石原和弘会長(京都大学名誉教授)は「活動の少ない火山も対象とすれば、相当数が候補となる。どこまで観測を強化するか、優先順位を付けざるを得ない」という。

活動履歴“洗い直し”


 そこで重要なのが、過去の詳細な活動履歴だ。噴火予知連の火山活動評価検討会では、過去の噴火履歴を精査する予定だ。小規模な水蒸気噴火などは地質学的な形跡が少なく、記録に残っていない。そのため「最新の地形観測技術などを適用して、過去の噴火を洗い直す」(石原会長)。

 草津本白根山の噴火跡を見つけた航空レーザー測量は、これまで富士山や伊豆大島など一部の火山でしか使われていない。1回の観測費用は1億円程度ともされる。

 産総研活断層・火山研究部門の川邉禎久主任研究員は、「山腹からの噴火跡も分かるなど、レーザー測量の有効性は従来から指摘されてきた。国交省など他の省庁や事業での観測画像が、火山研究でも共有できる仕組みができれば」と期待する。

 防災科研火山防災研究部門の棚田俊收(としかず)部門長も、火山活動履歴調査の重要性を強調する。火山は「研究者が独自に集めたデータが研究材料となっている」とし、「一定の手法で履歴を集めるべきだ。10年、20年単位で取り組む必要がある。国の施策として進めなければ実現は難しい」と話す。

 ただし、精度の高い噴火活動履歴を基に充実した監視体制を敷いても、噴火を予測して対応できるかは分からない。今回、予兆現象を捉えられなかった要因の一つは、目立つ前兆現象が少ない水蒸気噴火だったことがある。被害が大きかった14年の御嶽山噴火も水蒸気噴火だった。

水蒸気噴火のプロセス解明へ


 水蒸気噴火を事前に予測し、警戒情報を出せるのか。文部科学省の科学研究費助成事業による支援で、草津白根山噴火の総合調査が始まっている。

 全国の大学や防災科研など12機関の研究者が参加。今後の噴火の可能性調査や、顕著な前兆活動のない水蒸気噴火のプロセス解明を目指す。例えば火口周辺のロープウエーのゴンドラに残った傷から、噴石の速度を計算し、理解に役立てる。

 同調査を統括する東工大理学院火山流体研究センターの小川康雄教授は「水蒸気噴火でも前兆現象が全くないわけではない」とし、過去の観測、地盤変動の精密なデータの再確認や空中磁気探査による温度調査などを予定する。これをもとに、どうすれば前兆現象を捉えられるか、新しい観測手法の開発につなげる方針だ。

 日本は火山国だが、火山研究者の不足は深刻だ。文科省の調査では火山研究者は80人ほど。気象庁が火山監視人材を増やしても、防災・減災につなげるには、研究に携わる人材の増員が欠かせない。

 文科省は14年の御嶽山の噴火後に「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」を立ち上げ、人材育成と観測、予測、対策の一体的な研究を推進。地球物理学、地質・岩石学、地球化学に加え、関連分野を体系的に学べる場を提供している。

 火山研究は従来、「山持ち」と言われ、各大学や研究者がそれぞれ担当する火山を観測・研究し、横の連携や情報共有はあまり活発ではなかったという。だが、プロジェクト発足後、観測情報を一元化するシステムの開発を目指すなど、状況は変わりつつある。

日本全体で防災計画


 また、火山学の発展には理学的分野だけでなく、新たな観測手法や災害対策技術の開発など、工学や社会科学などの研究者の参画も重要だ。人材確保だけでなく、火山研究の裾野を広げることが、被害の軽減につながる。

 火山研究の進展は、経験の多さで決まると言われる。活動が活発な火山は情報が多く、噴火のプロセスや構造の理解が進むため、ある程度の噴火予測もできる。

 これは火山防災でも同じで、火山が身近でない地域は防災対応も遅れがちだ。産総研活断層・火山研究部門の山元孝広総括研究主幹は「火山の被害を経験していない都市部こそ危険。人ごとと考えずに、火山防災計画を考えるきっかけにしてほしい」と話す。
【草津本白根噴火】
1月23日9時59分、草津本白根山の鏡池北火口で発生。噴火につながると判断できる前兆現象は確認できず、気象庁は噴火警戒レベルを事前に上げることができなかった。噴出物に新しいマグマは含まれず「水蒸気噴火」とみられる。噴出物量は推定3万―5万トン。14年9月に発生し、戦後最大の被害を出した御嶽山噴火時の10分の1以下で、比較的小規模な噴火だった。
                     

(文=曽谷絵里子)
日刊工業新聞2018年3月6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
1914年の桜島大正大噴火では、東北地方まで降灰があった。現在では5センチメートル程度の降灰で、道路や鉄道、航空機などの交通網のへの影響のほか、外気を取り込み発電する火力発電所など都市機能のまひにつながる。「1世紀に1回程度は、広範囲に影響を及ぼす大規模噴火が起きている。富士山や浅間山が大規模噴火を起こす可能性も十分にあり、首都圏も火山と無関係ではない」(山元主幹)。火山防災の計画は日本全国で必要だ。 (日刊工業新聞科学技術部・曽谷絵里子)

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