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過去の噴火の教訓生きるか?気象庁、50の火山観測データ公開始める

 気象庁は、富士山や伊豆大島など、24時間体制で観測・監視している50の火山について、観測データの公開を21日から始めた。最近2カ月間の活動について、日別の地震回数や噴煙の高さなどをグラフや表で掲載。さらに最近の活動状況と比較するため、長期間の観測データをグラフで表示する。

 また、御嶽山(長野県・岐阜県)など21の火山の火口付近に整備した監視カメラの画像も新たに公開する。気象庁は2014年の御嶽山噴火を受け、火山観測データの公開に向けた準備を進めてきた。

日刊工業新聞2016年12月20日



三原山の噴火から30年。費用不足で観測網維持に不安の声もあった


 1986年の三原山(東京都大島町)噴火から、11月15日で30年となる。噴火は火山灰や岩石をはじめ、人体に有害な火山ガスの噴出といった、さまざまな被害をもたらす。噴火の兆候を捉えて防災に役立てるには、火山の継続的な観測体制が必要だ。しかし、各観測点の整備に伴う費用は大学や研究機関に委ねられる。研究者からは費用の面から観測体制の維持を不安視する声もあがる。

マグマ活発化


 東京大学地震研究所観測開発基盤センターの森田裕一教授らの研究グループは、伊豆大島に設置した研究所の観測網で得たデータを分析。伊豆大島火山の地下の浅部で発生する極めて小さな火山性地震が、地下にたまるマグマの増加や月や太陽の引力による潮の満ち引きと関係している可能性を明らかにした。

 こうした傾向は特に2010年以降に見られ、地下でのマグマ活動が活発になった可能性がある。ただ、火山の観測の継続には課題もある。森田教授は、「噴火に至る過程を観測データに基づき理解することは、科学的な噴火予測に不可欠だ。観測網の安定的な維持が望まれる」と指摘。しかし、「大学の法人化以降、大学に観測点の整備のための国の予算が付いていない」とし、観測網の維持に不安を漏らす。

観測業務集約も


 さらに、防災科学技術研究所火山防災研究部門の棚田俊收(としかず)部門長は、「国の火山防災を議論する大きな組織を新設し、その組織に火山の観測業務を集約するのが望ましい。その上で、データをリアルタイムで公開すべきでは」と提案する。実際、伊豆大島には東大や防災科研、気象庁などの観測点が入り交じっており、効率化の観点から集約化を求める声もある。

 また、大学や研究機関の観測点で得た情報は気象庁にも送られ、火山活動の監視に役立てられている。だが、観測点の保守整備の費用は各大学や研究機関の負担だ。棚田部門長は、「研究用の観測点に、火山活動の監視業務まで頼るのは負担が大きい」と話す。

 日本には110の活火山があるが、観測点が一つもない場所もある。火山の噴火は前回から数百年以上の間隔が空くことも珍しくなく、投資してもすぐには防災に役立たないと思われてしまう場合もある。しかし、噴火した場合は数週間―数カ月程度被害が続くなど影響が大きい。

長期視点不可欠


 火山は平穏な状態から観測し続けないと変化が分かりにくい。また観測点の設置後も、約1年間は機器が正常に作動するかどうかを確かめる必要がある。噴火の兆候が現れた後や噴火後に観測体制を強化するのは防災対策上、得策ではない。長期的な視点を持った火山の観測体制の整備が求められる。
(文=福沢尚季)

日刊工業新聞2016年11月15日を一部修正

日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
防災のためには、火山を継続的に観測することが不可欠です。公的な支援も検討するべきではないでしょうか。

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