FIT終了で「2019年問題」、新たなビジネスモデルの模索が始まる
再生エネ普及へのチャンス?
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度に「2019年問題」が迫っている。09年の制度開始時から太陽光発電の余剰電力を売電してきた世帯の契約が19年度末に終了する。対象と言われる50万世帯が自ら電気の売り先や価格を決める必要があり、電力業界にとっても初めての事態だ。FIT終了が迫る中、新しいビジネスの模索が始まった。(編集委員・松木喬)
FITは09年11月に「余剰電力買い取り制度」としてスタート。家庭の太陽光パネルが発電し、自宅で使い切れなかった電気を、10年間固定価格で電力会社に売電できる仕組みだ。経済産業省は10年経過後の19年11月に“FIT切れ”が約37万件発生すると見込む。太陽光発電協会の累計設置数から推定すると、19年度末までにFIT切れは50万件に達しそうだ。
17年末には経産省の委員会でこの問題が話し合われた。同委員会ではFITが終わった家庭は、電気を買い取る電力小売業者か、電力を供給する家庭と需要家の間で需給バランスを保つアグリゲーターと契約できなければ、無償で電力系統に送電する案が政府から示された。
ある太陽電池メーカー幹部は「いきなりタダとは思わなかった」と驚きを隠さない。買い手が見つかれば売電はできるが、価格は小売業者などと相対で決める。電力卸売価格を参考にすると、10円より低くなりそうだ。
問題は対象家庭がFIT終了を認知しているかどうか。50万世帯が自分で電気の売り先と価格を決める必要がある。ソーラーフロンティア(東京都港区)の社長をつとめる太陽光発電協会の平野敦彦代表理事は混乱を避けるため「周知が第一。FITは国の制度であり、政府に要望していきたい。時間的余裕はない」とする。
設置から10年が経過した太陽光パネルの多くは売電収入で投資回収が終わっており、もっとも安い電源となる。このメリットを生かし、政府や業界は発電した電気を自宅で使う自家消費が拡大すると見込む。太陽光由来の電気を使うほど電力会社からの購入を抑え、光熱費を節約できる。
太陽電池各社は自家消費への移行を見据え、発電した電気を夜間に使うための蓄電池の導入を提案する。パナソニックは太陽光と蓄電池の電気を1台で制御できるパワーコンディショナー(電力調整装置)を12年に発売。17年には壁に取り付けられるまで小型化した。さらに蓄電池を後付できる太陽光用パワコンも2月中に市場投入し、自家消費商戦に備える。
3月には家庭用エネルギー管理システム(HEMS)の機能を強化し、給湯機「エコキュート」との連携を始める。日中は太陽光パネルの余剰電力でお湯を沸かしてため、夜の入浴や家事で使えば光熱費を削減できる。吉田和弘ソーラービジネスユニット長は「太陽光発電単品から、ソリューションの提案になる」と営業戦略の変化を語る。
三菱電機電材住設PV計画部の塩田実次長も「日常的に使うエコキュートとの連携がわかりやすく、もっとも経済的」と太鼓判を押し、電気自動車(EV)への充電も薦める。
同社は太陽光パネル、EV、家庭の電気をやりとりするパワコンをいち早く製品化。太陽光パネルがつくった余剰電気で充電すれば、EVの電気代も抑えられる。
総合電機メーカーにとっては新しい商材を売り込むチャンスでもある。自家消費のメリットなどを実感してもらう提案力が試されそうだ。
蓄電池メーカーのエリーパワー(東京都品川区)も19年問題に注目する。現在は夜間電力の充電が中心だが、蓄電池が高額なため投資回収に時間がかかっていた。太陽光パネルの電気の自家消費が始まると充放電の回数が増え、蓄電池の価値が高まる。
家庭向けに蓄電池レンタルを手がけるオリックスも「自家消費が『営業トーク』の主流になりつつある」と市場の変化を指摘する。19年問題は蓄電池市場が立ち上がるきっかけとなる可能性もある。
19年問題を境に生まれるビジネスチャンスは家庭内にとどまらない。電源を持たない電力小売り事業者にとってFIT終了後の太陽光パネルは魅力的だ。投資せずに電源を確保でき、火力発電のように燃料費の変動がない。しかも再生可能エネルギー由来の電気を求める企業が増えており、需要も見込める。
事実、積水ハウスはFIT終了家庭から電力を調達すると表明している。リコーやアスクルも事業で使う電気全量を再生エネルギーに切り替えると宣言。米アップルはサプライヤーにも再生エネを活用するように働きかけており、再生エネ電気に大きなニーズが生まれている。
電力小売り事業者はFIT終了家庭から電気を調達できれば、企業への電力販売を増やせる。太陽光発電協会の平野代表理事によれば、ソーラーフロンティアは昭和シェル石油と一体で、FIT終了家庭からの電力調達を検討しているという。
09年のFIT開始を機に、投資目的の太陽光パネル設置が増えた。19年問題を契機に、本来の二酸化炭素(CO2)削減の価値にも目が向きそうだ。
環境省は、太陽光発電の自家消費が生む「CO2削減価値」を家庭が売り出し、それを企業がまとめて購入できる取引制度の創設を目指している。18年度にブロックチェーンを活用して削減価値を瞬時に取引できるシステム設計に着手する予定だ。
削減価値を調達して企業がCO2排出量を減らす仕組みとして、すでにグリーン電力証書や国のJ―クレジット制度がある。ただ、いずれも認定手続きが必要で、実際に企業が削減価値を買えるまで時間がかかっていた。
また、今のFITでは再生エネ電気の「購入者」にはCO2削減価値が認められない。電気代と徴収している賦課金でFITが成り立っており、削減価値は賦課金を支払う国民全体が所有すると考えるからだ。同省の制度ができれば企業が直接、CO2削減価値を入手できる。
平野代表理事は「19年問題と言ってきたが、必ずしも“問題”だけではない。企業の知恵、ビジネス力で新しい提案ができる」と、FIT終了がビジネスチャンスであると強調する。19年問題は、FIT依存の再生エネ普及から脱却する試金石となる。
周知が第一。“FIT切れ”50万件…
FITは09年11月に「余剰電力買い取り制度」としてスタート。家庭の太陽光パネルが発電し、自宅で使い切れなかった電気を、10年間固定価格で電力会社に売電できる仕組みだ。経済産業省は10年経過後の19年11月に“FIT切れ”が約37万件発生すると見込む。太陽光発電協会の累計設置数から推定すると、19年度末までにFIT切れは50万件に達しそうだ。
17年末には経産省の委員会でこの問題が話し合われた。同委員会ではFITが終わった家庭は、電気を買い取る電力小売業者か、電力を供給する家庭と需要家の間で需給バランスを保つアグリゲーターと契約できなければ、無償で電力系統に送電する案が政府から示された。
ある太陽電池メーカー幹部は「いきなりタダとは思わなかった」と驚きを隠さない。買い手が見つかれば売電はできるが、価格は小売業者などと相対で決める。電力卸売価格を参考にすると、10円より低くなりそうだ。
問題は対象家庭がFIT終了を認知しているかどうか。50万世帯が自分で電気の売り先と価格を決める必要がある。ソーラーフロンティア(東京都港区)の社長をつとめる太陽光発電協会の平野敦彦代表理事は混乱を避けるため「周知が第一。FITは国の制度であり、政府に要望していきたい。時間的余裕はない」とする。
総合電機に商機 蓄電池市場、提案型に
設置から10年が経過した太陽光パネルの多くは売電収入で投資回収が終わっており、もっとも安い電源となる。このメリットを生かし、政府や業界は発電した電気を自宅で使う自家消費が拡大すると見込む。太陽光由来の電気を使うほど電力会社からの購入を抑え、光熱費を節約できる。
太陽電池各社は自家消費への移行を見据え、発電した電気を夜間に使うための蓄電池の導入を提案する。パナソニックは太陽光と蓄電池の電気を1台で制御できるパワーコンディショナー(電力調整装置)を12年に発売。17年には壁に取り付けられるまで小型化した。さらに蓄電池を後付できる太陽光用パワコンも2月中に市場投入し、自家消費商戦に備える。
3月には家庭用エネルギー管理システム(HEMS)の機能を強化し、給湯機「エコキュート」との連携を始める。日中は太陽光パネルの余剰電力でお湯を沸かしてため、夜の入浴や家事で使えば光熱費を削減できる。吉田和弘ソーラービジネスユニット長は「太陽光発電単品から、ソリューションの提案になる」と営業戦略の変化を語る。
三菱電機電材住設PV計画部の塩田実次長も「日常的に使うエコキュートとの連携がわかりやすく、もっとも経済的」と太鼓判を押し、電気自動車(EV)への充電も薦める。
同社は太陽光パネル、EV、家庭の電気をやりとりするパワコンをいち早く製品化。太陽光パネルがつくった余剰電気で充電すれば、EVの電気代も抑えられる。
総合電機メーカーにとっては新しい商材を売り込むチャンスでもある。自家消費のメリットなどを実感してもらう提案力が試されそうだ。
蓄電池メーカーのエリーパワー(東京都品川区)も19年問題に注目する。現在は夜間電力の充電が中心だが、蓄電池が高額なため投資回収に時間がかかっていた。太陽光パネルの電気の自家消費が始まると充放電の回数が増え、蓄電池の価値が高まる。
家庭向けに蓄電池レンタルを手がけるオリックスも「自家消費が『営業トーク』の主流になりつつある」と市場の変化を指摘する。19年問題は蓄電池市場が立ち上がるきっかけとなる可能性もある。
FIT依存脱却へ 太陽光パネル魅力的
19年問題を境に生まれるビジネスチャンスは家庭内にとどまらない。電源を持たない電力小売り事業者にとってFIT終了後の太陽光パネルは魅力的だ。投資せずに電源を確保でき、火力発電のように燃料費の変動がない。しかも再生可能エネルギー由来の電気を求める企業が増えており、需要も見込める。
事実、積水ハウスはFIT終了家庭から電力を調達すると表明している。リコーやアスクルも事業で使う電気全量を再生エネルギーに切り替えると宣言。米アップルはサプライヤーにも再生エネを活用するように働きかけており、再生エネ電気に大きなニーズが生まれている。
電力小売り事業者はFIT終了家庭から電気を調達できれば、企業への電力販売を増やせる。太陽光発電協会の平野代表理事によれば、ソーラーフロンティアは昭和シェル石油と一体で、FIT終了家庭からの電力調達を検討しているという。
09年のFIT開始を機に、投資目的の太陽光パネル設置が増えた。19年問題を契機に、本来の二酸化炭素(CO2)削減の価値にも目が向きそうだ。
環境省は、太陽光発電の自家消費が生む「CO2削減価値」を家庭が売り出し、それを企業がまとめて購入できる取引制度の創設を目指している。18年度にブロックチェーンを活用して削減価値を瞬時に取引できるシステム設計に着手する予定だ。
削減価値を調達して企業がCO2排出量を減らす仕組みとして、すでにグリーン電力証書や国のJ―クレジット制度がある。ただ、いずれも認定手続きが必要で、実際に企業が削減価値を買えるまで時間がかかっていた。
また、今のFITでは再生エネ電気の「購入者」にはCO2削減価値が認められない。電気代と徴収している賦課金でFITが成り立っており、削減価値は賦課金を支払う国民全体が所有すると考えるからだ。同省の制度ができれば企業が直接、CO2削減価値を入手できる。
平野代表理事は「19年問題と言ってきたが、必ずしも“問題”だけではない。企業の知恵、ビジネス力で新しい提案ができる」と、FIT終了がビジネスチャンスであると強調する。19年問題は、FIT依存の再生エネ普及から脱却する試金石となる。
日刊工業新聞2017年2月19日