正確な時刻はどこで、どうやって「つくられる」?
毎日当たり前のように見ている時計。正確な時刻がわからなくなったら大変だ。では正確な時刻=標準時は、どこでどのように決められているのだろう。
現在の世界の標準時(協定世界時=UTC)は、原子時計の刻み(周波数)に基づき定められている。1967年に1秒の長さの基準が天文観測から原子時計に移行し、我々は超高精度な時間のものさしを手にすることができた。
だが原子時計には装置としての故障や寿命がつきものである。そのたびに標準時が止まったり飛んだりはしないのだろうか。
UTCでその心配は無用だ。国際機関の国際度量衡局(BIPM)が世界中から集めた500台超の原子時計データの合成から、UTCは構築される。全ての時計が止まらない限りUTCは途切れないし、合成することで各時計の機差によるふらつきもならされる。
だがUTCは時刻合せには不向きである。なぜなら現在のUTCが計算されるのは翌月であり、さらにその実体は計算機内の数値でありUTCを刻む実時計は存在しないからだ。そのため、各国の標準機関がUTCに準拠する標準時を作り国内に供給している。日本では、情報通信研究機構(NICT)が「日本標準時(JST)」の発生と供給を担っている。
JSTにおいては、NICTの運用する原子時計群の合成結果を基に、JSTの基となる基準周波数と1秒同期パルスの実信号を常時出力し、電波や電話回線、ネットワーク等を通じて、正確な時刻を一般に供給している。
BIPMはJSTとUTCとの時刻差(先月値)を月に1回公表するので、過去値から現在の時刻差を予測しつつJSTを調整している。この予測精度が研究の腕の見せ所であり、JSTとUTCとの時刻差は最大でもプラスマイナス20ナノ秒程度(10ナノ秒=1億分の1秒)である。JSTは非常に安定であるため、UTCへの合わせ込みは年に数回程度で十分である。
このように高精度で信頼性の高いJSTを実現するため、原子時計の周波数特性を踏まえた最適な合成手法(時系アルゴリズム)の研究や、超高精度な時刻・周波数比較・伝送技術の研究を進めている。また信頼性を高めるため、ハードウエア・ソフトウエア両面で何重もの安全対策を施している。
正確な時刻とその基となる周波数標準は、高度ICT社会を支える基盤として不可欠な技術である。今後も精度と信頼性両面の向上を目指して、研究開発を進めていく。
(文=情報通信研究機構・電磁波研究所上席研究員 花土ゆう子)
【略歴】
89年東北大理学研究科修士課程修了、通信総合研究所(現NICT)入所。2008年電通大情報システム学研究科博士課程修了。17年より現職。日本標準時の発生および原子時計合成アルゴリズムの研究に従事する。博士(工学)。>
現在の世界の標準時(協定世界時=UTC)は、原子時計の刻み(周波数)に基づき定められている。1967年に1秒の長さの基準が天文観測から原子時計に移行し、我々は超高精度な時間のものさしを手にすることができた。
だが原子時計には装置としての故障や寿命がつきものである。そのたびに標準時が止まったり飛んだりはしないのだろうか。
UTCでその心配は無用だ。国際機関の国際度量衡局(BIPM)が世界中から集めた500台超の原子時計データの合成から、UTCは構築される。全ての時計が止まらない限りUTCは途切れないし、合成することで各時計の機差によるふらつきもならされる。
だがUTCは時刻合せには不向きである。なぜなら現在のUTCが計算されるのは翌月であり、さらにその実体は計算機内の数値でありUTCを刻む実時計は存在しないからだ。そのため、各国の標準機関がUTCに準拠する標準時を作り国内に供給している。日本では、情報通信研究機構(NICT)が「日本標準時(JST)」の発生と供給を担っている。
JSTにおいては、NICTの運用する原子時計群の合成結果を基に、JSTの基となる基準周波数と1秒同期パルスの実信号を常時出力し、電波や電話回線、ネットワーク等を通じて、正確な時刻を一般に供給している。
BIPMはJSTとUTCとの時刻差(先月値)を月に1回公表するので、過去値から現在の時刻差を予測しつつJSTを調整している。この予測精度が研究の腕の見せ所であり、JSTとUTCとの時刻差は最大でもプラスマイナス20ナノ秒程度(10ナノ秒=1億分の1秒)である。JSTは非常に安定であるため、UTCへの合わせ込みは年に数回程度で十分である。
このように高精度で信頼性の高いJSTを実現するため、原子時計の周波数特性を踏まえた最適な合成手法(時系アルゴリズム)の研究や、超高精度な時刻・周波数比較・伝送技術の研究を進めている。また信頼性を高めるため、ハードウエア・ソフトウエア両面で何重もの安全対策を施している。
正確な時刻とその基となる周波数標準は、高度ICT社会を支える基盤として不可欠な技術である。今後も精度と信頼性両面の向上を目指して、研究開発を進めていく。
(文=情報通信研究機構・電磁波研究所上席研究員 花土ゆう子)
89年東北大理学研究科修士課程修了、通信総合研究所(現NICT)入所。2008年電通大情報システム学研究科博士課程修了。17年より現職。日本標準時の発生および原子時計合成アルゴリズムの研究に従事する。博士(工学)。>
日刊工業新聞2018年2月6日