高級品もネット通販も伸びる。腕時計メーカーはどう動く
セイコー・シチズン・カシオ首脳に聞く
2018年の腕時計(ウオッチ)業界は、変化が進む市場環境に対する各社の戦略が焦点となりそうだ。米国ではeコマース(電子商取引)が増加し、主要販路である百貨店などの実店舗流通が低迷。17年は同国でのウオッチ販売が不調だった。また、スマートウオッチの存在感が増して商品の多様化が進んだ。他国にも波及するとみられる環境変化に対し、ウオッチメーカー各社は流通改革や商品企画でどのような手を打つのか。大手3社の首脳に聞いた。
●中村吉伸社長「ヒト・モノ・カネ積極投入」
―ウオッチ事業の見通しは。
「17年は円安が海外売り上げの追い風となり、10―12月期からは国内販売が伸びた。中間所得層も動きだして国内消費は増加の兆しがある。為替が17年と同水準以上に円安で推移すれば18年も増収が続くだろう。だが、海外の政治リスクの顕在化に伴う円高シフトはいつ起きてもおかしくない。先に先にとスピード感をもって施策を打つことが大切だ」
―流通構造が変化している米国の対策は。
「現地の高級商材の流通に精通する人材を他社から採用した。高価格商品の販売方法にたけていて、現地の人脈も広い。直営店の展開に加え、既存流通の開拓も並行的に進めている。商品はスマートウオッチと重ならないよう高価格帯を伸ばしていく方針だ」
―eコマースへの対応策は。
「eコマースはグローバルに広がる。専門部署をつくってマーケティングや広告宣伝の進め方を検討している。販売価格への影響など対応が難しい時代になる。対策にはしっかりヒト・モノ・カネを投入する方針だ」
―1月に半導体の製造子会社を持分法適用会社にしました。
「半導体事業は多額の資金が必要でウオッチ事業と両方への投資継続は難しかった。ウオッチ事業を柱にするという経営方針のもとで判断した。今後はウオッチ事業の拡大に向けた投資に大きく舵を切る。一方、日本政策投資銀行との提携のもとで今後も半導体事業を伸ばすし、将来は上場もあり得る。ウオッチにはICが入っていることもあり大株主として深い関係は続く」
●戸倉敏夫社長「セグメンテーション強化」
―ウオッチの市況をどうみていますか。
「国内消費は力強さが欠けるが17年は10月頃から売り上げが伸びてきた。スイスの統計では同年の7月頃から高価格帯を中心に販売が伸び、足元では中価格帯も伸びてきた。国内外とも回復基調にあり18年はこの傾向が強まるだろう」
―米国や中国でウオッチのeコマースが増加しています。
「eコマースでは商品価格の乱れが懸念される。これを避けるにはeコマースを通じて取れる顧客プロファイルを踏まえてセグメンテーションを行い、流通に沿った形で商品戦略を立てないといけない。既に米国ではeコマースで注文が入った商品を当社倉庫から顧客に運ぶシステムを敷いて対応している。中国は商品を流通によって分ける戦略が奏功して販売が伸びている」
―eコマースは世界に広がりそうです。
「同じ商品をどの流通でも売る方法は通じなくなる。消費者嗜好の多様化に対応するこれまでのマルチブランド戦略と、今後強めるセグメンテーション戦略は密接に関連する。多様化する顧客や流通にどう対応していくか。販売だけでなく商品の作り方まで含めた改革が必要で18年は土台作りの年になる」
―好調な工作機械事業は業界も活況です。
「半導体や自動車向けなどが好調で17年度は売上高と利益ともに過去最高になる見通し。当面の受注も取れているが必ずサイクルはやってくる。単に業界トレンドに乗るだけでなく、低周波振動切削技術の搭載機種を増やすなど技術をもっと強化していく」
●増田裕一取締役専務執行役員「限定モデルで値崩れ防止」
―ウオッチの多様化が進んでいます。商品開発の方針は。
「引き続きアナログウオッチの高機能化を図る。インターネットに直接接続してサマータイム変更にも対応する完全自動化や、ウオッチを合わせるだけの保証機能などトータルでの“信頼性”で差別化したい。『G―ショック』が売れたのは耐衝撃性があるからではなく、それだけの“信頼性”があったからだ」
―スマートウオッチの開発は。
「スマートウオッチの多くが着信通知、活動量計、心拍数計測ぐらいでネタが尽きている。そこに乗っかるだけではダメだ。当社のアウトドアウオッチ『プロトレックスマート』は、デジタル画面上の地図のカテゴリーを広げる戦略をとっている。例えばゴルフコースでピンまでの距離が測定できたり、釣りのポイントを記録できたりする。カシオ製は地図が見やすくて使いやすいというポジションで差別化していく」
―eコマースが広がっています。
「eコマースでは販売価格が崩れることが懸念されるが、中国ではサイト運営会社と協力し、その流通に限定したモデルを企画してうまく対応している。広告宣伝ではインスタグラムなどのソーシャルメディアの活用が必要だ」
―山形工場の新棟が5月に稼働します。
「マザー工場としての役割のほか、高機能ムーブメント(駆動装置)から完成品に至る生産ラインをアピールする狙いもある。見学スペースに世界中から人を呼んでカシオのモノづくりを訴求する計画だ」
(聞き手=田中明夫)
セイコーホールディングス
●中村吉伸社長「ヒト・モノ・カネ積極投入」
―ウオッチ事業の見通しは。
「17年は円安が海外売り上げの追い風となり、10―12月期からは国内販売が伸びた。中間所得層も動きだして国内消費は増加の兆しがある。為替が17年と同水準以上に円安で推移すれば18年も増収が続くだろう。だが、海外の政治リスクの顕在化に伴う円高シフトはいつ起きてもおかしくない。先に先にとスピード感をもって施策を打つことが大切だ」
―流通構造が変化している米国の対策は。
「現地の高級商材の流通に精通する人材を他社から採用した。高価格商品の販売方法にたけていて、現地の人脈も広い。直営店の展開に加え、既存流通の開拓も並行的に進めている。商品はスマートウオッチと重ならないよう高価格帯を伸ばしていく方針だ」
―eコマースへの対応策は。
「eコマースはグローバルに広がる。専門部署をつくってマーケティングや広告宣伝の進め方を検討している。販売価格への影響など対応が難しい時代になる。対策にはしっかりヒト・モノ・カネを投入する方針だ」
―1月に半導体の製造子会社を持分法適用会社にしました。
「半導体事業は多額の資金が必要でウオッチ事業と両方への投資継続は難しかった。ウオッチ事業を柱にするという経営方針のもとで判断した。今後はウオッチ事業の拡大に向けた投資に大きく舵を切る。一方、日本政策投資銀行との提携のもとで今後も半導体事業を伸ばすし、将来は上場もあり得る。ウオッチにはICが入っていることもあり大株主として深い関係は続く」
シチズン時計
●戸倉敏夫社長「セグメンテーション強化」
―ウオッチの市況をどうみていますか。
「国内消費は力強さが欠けるが17年は10月頃から売り上げが伸びてきた。スイスの統計では同年の7月頃から高価格帯を中心に販売が伸び、足元では中価格帯も伸びてきた。国内外とも回復基調にあり18年はこの傾向が強まるだろう」
―米国や中国でウオッチのeコマースが増加しています。
「eコマースでは商品価格の乱れが懸念される。これを避けるにはeコマースを通じて取れる顧客プロファイルを踏まえてセグメンテーションを行い、流通に沿った形で商品戦略を立てないといけない。既に米国ではeコマースで注文が入った商品を当社倉庫から顧客に運ぶシステムを敷いて対応している。中国は商品を流通によって分ける戦略が奏功して販売が伸びている」
―eコマースは世界に広がりそうです。
「同じ商品をどの流通でも売る方法は通じなくなる。消費者嗜好の多様化に対応するこれまでのマルチブランド戦略と、今後強めるセグメンテーション戦略は密接に関連する。多様化する顧客や流通にどう対応していくか。販売だけでなく商品の作り方まで含めた改革が必要で18年は土台作りの年になる」
―好調な工作機械事業は業界も活況です。
「半導体や自動車向けなどが好調で17年度は売上高と利益ともに過去最高になる見通し。当面の受注も取れているが必ずサイクルはやってくる。単に業界トレンドに乗るだけでなく、低周波振動切削技術の搭載機種を増やすなど技術をもっと強化していく」
カシオ計算機
●増田裕一取締役専務執行役員「限定モデルで値崩れ防止」
―ウオッチの多様化が進んでいます。商品開発の方針は。
「引き続きアナログウオッチの高機能化を図る。インターネットに直接接続してサマータイム変更にも対応する完全自動化や、ウオッチを合わせるだけの保証機能などトータルでの“信頼性”で差別化したい。『G―ショック』が売れたのは耐衝撃性があるからではなく、それだけの“信頼性”があったからだ」
―スマートウオッチの開発は。
「スマートウオッチの多くが着信通知、活動量計、心拍数計測ぐらいでネタが尽きている。そこに乗っかるだけではダメだ。当社のアウトドアウオッチ『プロトレックスマート』は、デジタル画面上の地図のカテゴリーを広げる戦略をとっている。例えばゴルフコースでピンまでの距離が測定できたり、釣りのポイントを記録できたりする。カシオ製は地図が見やすくて使いやすいというポジションで差別化していく」
―eコマースが広がっています。
「eコマースでは販売価格が崩れることが懸念されるが、中国ではサイト運営会社と協力し、その流通に限定したモデルを企画してうまく対応している。広告宣伝ではインスタグラムなどのソーシャルメディアの活用が必要だ」
―山形工場の新棟が5月に稼働します。
「マザー工場としての役割のほか、高機能ムーブメント(駆動装置)から完成品に至る生産ラインをアピールする狙いもある。見学スペースに世界中から人を呼んでカシオのモノづくりを訴求する計画だ」
(聞き手=田中明夫)
日刊工業新聞2018年1月11日