材料と計測、日本はデータ競争で生き残れるか
マテリアルズ・インフォマティクスでプラットフォーム競争?
人工知能(AI)技術などを材料分野に応用する「マテリアルズ・インフォマティクス」(MI)が、新材料の研究開発を加速している。ベンチャーなどの小さな組織にとって強力な武器になりつつある。一方で、検索サービスで起きた米グーグルなどによる「プラットフォーム競争」が材料の世界でも起きるかもしれない。日本では計測機器メーカーが連合を組んでデータ連携を図る。材料と計測、データの競争を追いかける。
AI技術やビッグデータ(大量データ)解析のブームを受け、データの蓄積や囲い込みが広がっている。合言葉は「データ・イズ・ニュー・オイル」(データは新資源)だ。顧客の行動データや購買履歴など、採算を度外視した先行投資も散見される。材料開発にAIなどを応用するMIも同様だ。勝ちパターンは誰にも見えないが、プラットフォーム競争が早くも始まっている。
「データの量は資本に比例する。大学は企業に、日本は米国に本当に勝てるのか」―。文部科学省ではこんな言葉も漏れる。データやAIは本来、パワーゲームの世界だ。産業界が本気になれば学術界はかなわない。産業界と学術界でどんな役割分担が適切か議論が必要になる。
米国ではオバマ前大統領の重点施策の一つとして2011年から、新材料を効率的に生み出す「マテリアルズ・ゲノム・イニシアティブ」が進められてきた。高精度シミュレーションでデータを大量に生成し、無機物6万9640件、エネルギーバンド構造5万3648件などのデータを提供している。このデータをもとに実験結果を分析したり、新材料を設計したりできる。
トランプ政権の誕生で予算は縮小されたものの、物質・材料研究機構の統合型材料開発・情報基盤部門の出村雅彦副部門長は、「とてもしぶとい業界。他の研究予算や民間資金を集めて必ず生き残る」と評価する。
日本では物材機構の保有する材料データベースが最大規模だ。このデータを拡充するため、他の科技施策との連携が検討されている。その一つが文科省の支援事業「ナノテクノロジープラットフォーム」だ。
物材機構や京都大学など、全国26機関が保有する高性能電子顕微鏡やX線回折装置などを有効利用するため、共同利用や実験代行を進めている。この装置のデータを収集できれば、自然とデータが集まる仕組みが作れる。同事業は専任のオペレーターを抱えているため、データの質は保証されている。
ただ実際の運用では、データ共有の方法などについて異論も出ている。論文投稿の前のデータ提供は難しい上、論文にならなかった失敗データだったとしても、これに実験条件や試料作成過程などの説明をつけるのは負担が大きい。
MIはまだ成功事例を積み上げる段階だ。材料データベースと解析ツール群、計測技術など、どの研究インフラがプラットフォームにまで育つか分からない。
ただ、データベースが国際競争に劣れば、海外に依存するリスクが顕在化する。産学官を交えて日本の競争力をどこに見いだし、伸ばしていくか試行錯誤が続く。
<記者の目>
マテリアルズインフォマティクスのデータを集めるためと、大学などの研究を効率化するために、失敗データの共有は重要になります。マテリアルズインフォマティクスではAIに失敗データを学習させないと精度が上がりません。また研究者にとっても実験を始める前に別の研究者の失敗例を確認して同じ轍を踏まないようにできれば成功率が上がります。
この反論として、失敗データを共有できるよう整えるのは手間がかかるという声があります。ですが失敗例も成功例と同じくらい科学へ貢献するはずです。その失敗例が信頼できるかどうかは、生データや実験ログ、実験戦略を共有すればわかるはずで、それがなければ成功でも失敗でも研究自体が信頼されません。成功例が一つ二つでは信頼されないように、失敗例も一つ二つでは信頼されないと思います。
成功でも失敗でも、ちゃんとした研究は評価される環境ができれば、成功例のように無理にこじつけて論文を書く必要がなくなるかもしれません。分類学がそうであったように、まずは確かな知見とデータを蓄える仕組みが必要だと思います。>
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)では計測技術がデータの標準や信頼性を決める。人工知能(AI)技術用に解析しやすいフォーマットや品質が求められているためだ。おりしも計測機器業界では企業の壁を越えたデータの連携が始まっている。経済産業省は2018年度予算として10億円を用意し、データ連携を支援する。
現在、計測機器は“計測”から“解析”へとシフトしている。例えば装置が検出した大量のピークは、人間では読み解くことができない。そこで情報技術によってデータベースと照合し、物質の種類を推定する。島津製作所の田中耕一シニアフェローは「体内の代謝物分析など、ビッグデータ(大量データ)解析は必須」と説明する。
さらに海外の計測機器メーカーがM&A(合併・買収)を繰り返し、さまざま機器を手中に収めて複合計測サービスを展開している。従来、日本の企業は個々に強い機器を持つものの、複合提案は苦手だった。そこで各社でデータを連携させ、仮想的に複合分析を実現しようとしている。
名古屋大学の一村信吾教授(産業技術総合研究所特別顧問)らは、日本学術振興会の専門委員会でデータ連携の在り方を議論してきた。島津製作所や堀場製作所、日本電子などの計測機器メーカーが集まり、データや解析支援機能の連携のあり方を模索してきた。
一方、議論の中では、米グーグルなど情報産業の脅威も挙がった。大手IT企業が計測機器をそろえ、分析代行としてデータを集め始めれば、解析AIが加速度的に賢くなり、先行者に独占されかねない。
これらの議論を踏まえ、一村教授が中心になって4社で計測機器のデータ連携が始まろうとしている。電子顕微鏡や質量分析装置、X線回折装置などの共通フォーマットを整え、データをクラウドに集める。試料台を固定する「試料ホルダー」も開発し、異なる計測機器でもナノレベル(ナノは10億分の1)で同じ空間を計測できるようにする。
装置はバラバラのまま、データや解析を連携させ複合解析を実現する。18年度予算の要求額は10億円。大気中ナノ粒子を計測対象に据えた。
一村教授は「データの不確かさや試料の前処理も共有する。ただメーカーは開示を嫌うため、データに階層を設けてセキュリティー管理する」と説明する。
メーカーにとってはデータ信頼性の保証と同時に、機器校正やメンテナンスなどをスマート化できる。ユーザーにとっては、機器を統一する必要がなく、個々の計測機器の強みを最大限利用しつつ多面的な解析ができる。
材料開発のためのMIと計測機器のためのデータ連携。それぞれ出発点は違ってもゴールは一つだ。計測データを統合し、AI技術で分析、材料開発を加速させる。
このサイクルを回す過程でデータが蓄積され、AIは賢くなる。米国の「勝者総取り方式」は日本には馴染みそうになく、連携を通じて戦う素地ができつつある。
<記者の目>
計測機器メーカーの連携は他の産業にとってもモデルになると思います。材料業界にとってはX線回折や電子顕微鏡などの計測分析装置が連携してくれると助かります。スポーツや生活習慣関連業界にとっては、腕時計型や靴型、眼鏡型などのウエアラブルが連携して統合的にデータを解析できるとサービスの幅が広がります。今後、デバイス間でデータを連携させて、補い合うモデルはいろんな分野ででてくると思います。>
研究者やベンチャーはマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を利用して続々と成果を挙げている。研究の加速だけでなく、計算予測をもとに新材料のコンセプト特許を出願し、特許を買った大企業から特許料収入を得るベンチャーも現れた。MIは小さな組織が国際競争を戦い抜くための武器になる。
「AI(人工知能)は10人分の仕事をする」と九州大学発ベンチャー「Kyulux」(キューラックス、福岡市西区)の安達淳治最高技術責任者(CTO)は目を細める。
同社は有機発光材料を開発。有機分子の構造から発光特性をAI技術で予測する。量子力学に基づいて精密に発光特性を計算すると、通常なら1分子の計算に1日かかる。AIなら数ミリ秒ですむ。検討できる分子の桁が違うのだ。膨大な有機分子をAIで絞り込み、量子計算にかけて性能を確かめる。
安達CTOは、「思いがけない分子構造も提案される。探索範囲が広がった」と喜ぶ。このAI技術を獲得するために米国法人を立ち上げ、米ハーバード大学の研究者を雇用している。米国法人は1年で人員を倍増した。
AIには科学論文として公開されたデータと、九大やキューラックスが合成してきたデータを学習させる。論文には成功したデータしかないが、研究室での失敗データが予測精度を高めた。安達CTOは「ベンチャーが世界で戦うための武器だ」と強調する。
一方、理化学研究所の中嶋隆人チームリーダーは、次世代太陽電池として期待されている「ペロブスカイト太陽電池」の材料候補をスパコン「京」で網羅的に計算した。
1万1025個の化合物を量子計算して結晶構造とエネルギー状態、バンドギャップなどのデータを集めた。中嶋リーダーは、「機械学習にはGPGPU(GPUを使った汎用計算)は魅力的。だが『京』は多数の信頼性の高いデータ生成に威力を発揮する」と説明する。
この計算データの中から、光の吸収しやすさや電子などの受け渡しのしやすさを勘案して化合物を厳選。結果、51個の候補化合物を特定した。中嶋リーダーは「材料とデバイス、製造プロセスの一連のシステムを設計できるシミュレーターを開発し、有機薄膜太陽電池の統合設計を実現したい」と展望する。
さらにMIを利用して特許で生計を立てるベンチャーも現れた。米ノースウエスタン大学のグレゴリー・オルソン教授は、材料開発ベンチャー「QuesTek Innovations」(ケステック)で、合成前の材料の性能を計算で予測し、コンセプト特許を申請。技術移転した企業が事業化したら特許料収入を受け取るビジネスを展開する。
材料研究者が実用材料を開発するには、信頼性保証を含めて10年単位の期間が必要だった。物質・材料研究機構の橋本和仁理事長は、「研究者は材料そのものだけでなく、データや特許など、MIで幅広い出口戦略を描けるようになる」と指摘する。今後は材料データと知財や標準化、規格などとの連携がカギになる。
(文=小寺貴之)
AI技術やビッグデータ(大量データ)解析のブームを受け、データの蓄積や囲い込みが広がっている。合言葉は「データ・イズ・ニュー・オイル」(データは新資源)だ。顧客の行動データや購買履歴など、採算を度外視した先行投資も散見される。材料開発にAIなどを応用するMIも同様だ。勝ちパターンは誰にも見えないが、プラットフォーム競争が早くも始まっている。
「データの量は資本に比例する。大学は企業に、日本は米国に本当に勝てるのか」―。文部科学省ではこんな言葉も漏れる。データやAIは本来、パワーゲームの世界だ。産業界が本気になれば学術界はかなわない。産業界と学術界でどんな役割分担が適切か議論が必要になる。
米国ではオバマ前大統領の重点施策の一つとして2011年から、新材料を効率的に生み出す「マテリアルズ・ゲノム・イニシアティブ」が進められてきた。高精度シミュレーションでデータを大量に生成し、無機物6万9640件、エネルギーバンド構造5万3648件などのデータを提供している。このデータをもとに実験結果を分析したり、新材料を設計したりできる。
トランプ政権の誕生で予算は縮小されたものの、物質・材料研究機構の統合型材料開発・情報基盤部門の出村雅彦副部門長は、「とてもしぶとい業界。他の研究予算や民間資金を集めて必ず生き残る」と評価する。
日本では物材機構の保有する材料データベースが最大規模だ。このデータを拡充するため、他の科技施策との連携が検討されている。その一つが文科省の支援事業「ナノテクノロジープラットフォーム」だ。
物材機構や京都大学など、全国26機関が保有する高性能電子顕微鏡やX線回折装置などを有効利用するため、共同利用や実験代行を進めている。この装置のデータを収集できれば、自然とデータが集まる仕組みが作れる。同事業は専任のオペレーターを抱えているため、データの質は保証されている。
ただ実際の運用では、データ共有の方法などについて異論も出ている。論文投稿の前のデータ提供は難しい上、論文にならなかった失敗データだったとしても、これに実験条件や試料作成過程などの説明をつけるのは負担が大きい。
MIはまだ成功事例を積み上げる段階だ。材料データベースと解析ツール群、計測技術など、どの研究インフラがプラットフォームにまで育つか分からない。
ただ、データベースが国際競争に劣れば、海外に依存するリスクが顕在化する。産学官を交えて日本の競争力をどこに見いだし、伸ばしていくか試行錯誤が続く。
マテリアルズインフォマティクスのデータを集めるためと、大学などの研究を効率化するために、失敗データの共有は重要になります。マテリアルズインフォマティクスではAIに失敗データを学習させないと精度が上がりません。また研究者にとっても実験を始める前に別の研究者の失敗例を確認して同じ轍を踏まないようにできれば成功率が上がります。
この反論として、失敗データを共有できるよう整えるのは手間がかかるという声があります。ですが失敗例も成功例と同じくらい科学へ貢献するはずです。その失敗例が信頼できるかどうかは、生データや実験ログ、実験戦略を共有すればわかるはずで、それがなければ成功でも失敗でも研究自体が信頼されません。成功例が一つ二つでは信頼されないように、失敗例も一つ二つでは信頼されないと思います。
成功でも失敗でも、ちゃんとした研究は評価される環境ができれば、成功例のように無理にこじつけて論文を書く必要がなくなるかもしれません。分類学がそうであったように、まずは確かな知見とデータを蓄える仕組みが必要だと思います。>
計測機器で連合
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)では計測技術がデータの標準や信頼性を決める。人工知能(AI)技術用に解析しやすいフォーマットや品質が求められているためだ。おりしも計測機器業界では企業の壁を越えたデータの連携が始まっている。経済産業省は2018年度予算として10億円を用意し、データ連携を支援する。
現在、計測機器は“計測”から“解析”へとシフトしている。例えば装置が検出した大量のピークは、人間では読み解くことができない。そこで情報技術によってデータベースと照合し、物質の種類を推定する。島津製作所の田中耕一シニアフェローは「体内の代謝物分析など、ビッグデータ(大量データ)解析は必須」と説明する。
さらに海外の計測機器メーカーがM&A(合併・買収)を繰り返し、さまざま機器を手中に収めて複合計測サービスを展開している。従来、日本の企業は個々に強い機器を持つものの、複合提案は苦手だった。そこで各社でデータを連携させ、仮想的に複合分析を実現しようとしている。
名古屋大学の一村信吾教授(産業技術総合研究所特別顧問)らは、日本学術振興会の専門委員会でデータ連携の在り方を議論してきた。島津製作所や堀場製作所、日本電子などの計測機器メーカーが集まり、データや解析支援機能の連携のあり方を模索してきた。
一方、議論の中では、米グーグルなど情報産業の脅威も挙がった。大手IT企業が計測機器をそろえ、分析代行としてデータを集め始めれば、解析AIが加速度的に賢くなり、先行者に独占されかねない。
これらの議論を踏まえ、一村教授が中心になって4社で計測機器のデータ連携が始まろうとしている。電子顕微鏡や質量分析装置、X線回折装置などの共通フォーマットを整え、データをクラウドに集める。試料台を固定する「試料ホルダー」も開発し、異なる計測機器でもナノレベル(ナノは10億分の1)で同じ空間を計測できるようにする。
装置はバラバラのまま、データや解析を連携させ複合解析を実現する。18年度予算の要求額は10億円。大気中ナノ粒子を計測対象に据えた。
一村教授は「データの不確かさや試料の前処理も共有する。ただメーカーは開示を嫌うため、データに階層を設けてセキュリティー管理する」と説明する。
メーカーにとってはデータ信頼性の保証と同時に、機器校正やメンテナンスなどをスマート化できる。ユーザーにとっては、機器を統一する必要がなく、個々の計測機器の強みを最大限利用しつつ多面的な解析ができる。
材料開発のためのMIと計測機器のためのデータ連携。それぞれ出発点は違ってもゴールは一つだ。計測データを統合し、AI技術で分析、材料開発を加速させる。
このサイクルを回す過程でデータが蓄積され、AIは賢くなる。米国の「勝者総取り方式」は日本には馴染みそうになく、連携を通じて戦う素地ができつつある。
計測機器メーカーの連携は他の産業にとってもモデルになると思います。材料業界にとってはX線回折や電子顕微鏡などの計測分析装置が連携してくれると助かります。スポーツや生活習慣関連業界にとっては、腕時計型や靴型、眼鏡型などのウエアラブルが連携して統合的にデータを解析できるとサービスの幅が広がります。今後、デバイス間でデータを連携させて、補い合うモデルはいろんな分野ででてくると思います。>
ベンチャーの武器に
研究者やベンチャーはマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を利用して続々と成果を挙げている。研究の加速だけでなく、計算予測をもとに新材料のコンセプト特許を出願し、特許を買った大企業から特許料収入を得るベンチャーも現れた。MIは小さな組織が国際競争を戦い抜くための武器になる。
「AI(人工知能)は10人分の仕事をする」と九州大学発ベンチャー「Kyulux」(キューラックス、福岡市西区)の安達淳治最高技術責任者(CTO)は目を細める。
同社は有機発光材料を開発。有機分子の構造から発光特性をAI技術で予測する。量子力学に基づいて精密に発光特性を計算すると、通常なら1分子の計算に1日かかる。AIなら数ミリ秒ですむ。検討できる分子の桁が違うのだ。膨大な有機分子をAIで絞り込み、量子計算にかけて性能を確かめる。
安達CTOは、「思いがけない分子構造も提案される。探索範囲が広がった」と喜ぶ。このAI技術を獲得するために米国法人を立ち上げ、米ハーバード大学の研究者を雇用している。米国法人は1年で人員を倍増した。
AIには科学論文として公開されたデータと、九大やキューラックスが合成してきたデータを学習させる。論文には成功したデータしかないが、研究室での失敗データが予測精度を高めた。安達CTOは「ベンチャーが世界で戦うための武器だ」と強調する。
一方、理化学研究所の中嶋隆人チームリーダーは、次世代太陽電池として期待されている「ペロブスカイト太陽電池」の材料候補をスパコン「京」で網羅的に計算した。
1万1025個の化合物を量子計算して結晶構造とエネルギー状態、バンドギャップなどのデータを集めた。中嶋リーダーは、「機械学習にはGPGPU(GPUを使った汎用計算)は魅力的。だが『京』は多数の信頼性の高いデータ生成に威力を発揮する」と説明する。
この計算データの中から、光の吸収しやすさや電子などの受け渡しのしやすさを勘案して化合物を厳選。結果、51個の候補化合物を特定した。中嶋リーダーは「材料とデバイス、製造プロセスの一連のシステムを設計できるシミュレーターを開発し、有機薄膜太陽電池の統合設計を実現したい」と展望する。
さらにMIを利用して特許で生計を立てるベンチャーも現れた。米ノースウエスタン大学のグレゴリー・オルソン教授は、材料開発ベンチャー「QuesTek Innovations」(ケステック)で、合成前の材料の性能を計算で予測し、コンセプト特許を申請。技術移転した企業が事業化したら特許料収入を受け取るビジネスを展開する。
材料研究者が実用材料を開発するには、信頼性保証を含めて10年単位の期間が必要だった。物質・材料研究機構の橋本和仁理事長は、「研究者は材料そのものだけでなく、データや特許など、MIで幅広い出口戦略を描けるようになる」と指摘する。今後は材料データと知財や標準化、規格などとの連携がカギになる。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年12月20日/21日/22日