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「たかが3% されど3%」ハードル高い賃上げ

“官製春闘”5年目
「たかが3% されど3%」ハードル高い賃上げ

神津連合会長(左)と榊原経団連会長

  2018年春季労使交渉(春闘)が本格的に始まった。政権が賃上げの旗を振る“官製春闘”は5年連続で、しかも今回は安倍晋三首相が連合の“お株”を奪うかのように、17年秋に3%以上の賃上げを経済界に早々に要請する異例ずくめの展開だ。賃上げを起点とした経済の好循環でデフレからの完全脱却を目指す点で労使は一致するが、手法をめぐる認識には隔たりがある。働き方改革や、賃上げ率だけで評価できない処遇改善も焦点となる。

 経団連の榊原定征会長と連合の神津里季生会長は23日に都内で会談した。3月14日の集中回答日へ向け、各社の交渉がスタートする。

 会談の冒頭、榊原会長は「日本経済の成長軌道を加速し何としてもデフレ脱却、経済再生を果たしたい」とし、会員企業に「従来より踏み込んだ賃上げの呼びかけを行っている」と説明した。

 連合もデフレ脱却に向け、18年春闘は重要局面と考えている。ただ、好業績を背景に大手企業の賃金がいくら上昇しても中小企業や非正規社員の処遇改善が伴わなければ、経済全体への波及効果に欠ける点を突く。

 神津会長は連合が掲げる「底上げ春闘」について「労使の歯車は回り始めている」とした上で、18年春闘は「これをさらに深めたい」と意欲を示した。「経済・社会の浮揚には上滑りではなく根っこからの発信が極めて重要」と指摘する。

 安倍首相は経済の好循環を実現するため、賃上げの必要性を訴え続けている。17年春闘では「少なくとも前年並みの水準の賃上げ」を経済界に要請。18年はさらに踏み込み「3%」という具体的な数値を持ち出した。

 結果、経団連は交渉指針で、この「3%」について「社会的な要請・期待感を代弁したもの」と言及せざるを得ない状況に追い込まれた。

 一方、連合は一貫して月例賃金にこだわり、ベースアップ(ベア)と定期昇給相当分を合わせて4%程度の賃上げを求めている。

数字先行に違和感も


 ただ、3%でさえ極めて高いハードルと言えそうだ。第2次安倍政権の発足以降、円安などを追い風に企業業績が回復し、4年連続のベアが実現したが、伸びは鈍化している。まして3%台は94年を最後に実現していない。

 現時点で3%の賃上げ方針を表明しているのは大和証券グループ本社(月収ベース)、サントリーホールディングス(実質的な月例賃金ベース)など一部企業にとどまる。賃上げより設備投資を優先する企業もある。

 むしろ経済界では「3%水準」ばかりが注目され、独り歩きする現状への違和感を口にする経営者が少なくない。「育児や介護の支援制度や福利厚生面の充実といった賃金面だけでない社員への利益還元策にもっと目を向けたい」「3%は必達目標ではないのだから騒ぎ立てる必要はない」との声さえある。

連合「中小の利益再分配が必要」


 「(春闘相場は)労使交渉で決めるものだ」。神津会長は「官製春闘」といわれることを嫌う。だが、安倍首相の「3%の賃上げ」要請を受け、経団連が春闘指針「経労委報告」でこれに言及したことについては「評価したい」と歓迎の意を表している。

 連合の統一要求はベアと定期昇給を合わせ「4%程度」。構成組織・単組は2月末までに経営側に要求を提出する。ベア要求は5年連続だが、「底上げ・底支え」「格差是正」に向け、中小組合(組合員数300人未満)の賃上げ要求目安は6000円、賃金カーブ維持相当分4500円を含め総額1万500円に設定した。

 神津会長は、「いまだにデフレ脱却には至っていない。中小、非正規労働者の底上げが必要だ」と述べ、個々の企業は「バリューチェーン」「サプライチェーン」でつながっているとし、大企業が稼いだ利益を中小企業に再分配すべきだとした。

 今春闘は時間外労働規制の導入や「同一労働同一賃金」と共に、高収入の専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル(高プロ)制度や罰則付きの残業規制導入などを盛り込んだ労働基準法改正案が通常国会で審議される中で交渉を行う。

 連合は「賃上げと働き方の見直しを同時に推し進める闘いだ」とし、長時間労働是正に向け、個別交渉の場で法改正に先立つ取り組みを求める。

 連合のベア要求水準「2%程度」の春闘方針を受け、自動車、電機、鉄鋼などモノづくり企業労組で構成する全日本金属産業労働組合協議会(金属労協=〈JCM〉、高倉明議長=自動車総連会長)は「3000円以上」の統一ベア要求を行う。

 17年春闘で、金属労協が集計を取り始めて以来、初めて中小労組の賃上げ額が大手を超えた。大手企業は円安を背景に好業績を重ねているが、この「底上げ」「格差是正」の動きが本格化するか―。連合にとって今春闘の大きな焦点だ。
                  

(文=神崎明子、八木沢徹)
日刊工業新聞2018年1月24日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
 18年春闘のもうひとつの焦点は、働き方改革の成果を賃金や処遇改善にどう反映させるかだ。安倍政権が重視する働き方改革についても労使はこれまで足並みをそろえてきた。これを実効性あるものにするため関連法案の成立に先んじる形で、残業時間の上限規制によって減少する手取り収入など、新たに浮上する問題に対応する。  経団連は残業時間が減っても社員の給与が大きく減らないよう対応を呼びかける。具体策として、ICT(情報通信技術)投資や健康増進への助成、手当の創設・引き上げなどを示す。だが、連合は「そこはベアで還元すべきだ」と主張。「生産性を高め、残業時間が減少した人ほど、収入が減って意欲をそぐことはあってはならない」と考える点で労使の認識は一致するが、具体的な還元策をめぐる見解は異なる。

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