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さらば「技術力優位」の発想、シリコンバレーからの警鐘

「シリコンバレーD―Lab」井上氏ロングインタビュー
さらば「技術力優位」の発想、シリコンバレーからの警鐘

インタビューに応えてくれた井上領事(米ラスベガスで)


「変革に成功した企業はある」


 ―今後、イノベーションは海外でしか起きないのでしょうか。
 「う~ん…、難しい質問ですね。少なくとも2000年以降のイノベーションはシリコンバレーから生まれるケースが多かった。ただ、シリコンバレーだけが特別で、ヨーロッパにもアジアにもこうした地域はなかったし、日本に同じものがないからといってダメというわけではない。ただ重要なのは、シリコンバレーで何が起きたのかを学び、採り入れ、行動に移したことで変革に成功した会社が実際にあるということ。自社はどの方向に行くのか、辛くても変わる方向にいくのか、変わるのは辛いから、今の状況でできるところまでやるというところで止まるのかは各社の選択ではある。しかし、時代とともに変われない企業はいずれ衰退していく」

 ―シリコンバレーでのビジネスで、日本と違う点はありますか。
 「人とのつながりが大事だとは思う。ただ、その人のつながりが、会食の数とはまた違う気がする。もちろんプライベートを含め仲が良いというのは大事なことだが、実際に一緒に仕事をしてお互いが実りある結果を出し続けるということ。最初のきっかけは、誰かの紹介だったりする。そこできちんとした成果を出して相手の期待に応える続けることが大事ではないか」

 「 もちろん日本でも、顧客の期待に応えるための活動はだれしもやっている。それと同じように、シリコンバレーの顧客が何を望んでいて、それにどう応えるかをやっていけば、ビジネスはやっていける。ただ、その要望の内容がこれまでとは全然違うリクエストなので、それに体が合わせられるかだ」

 ―御社の要望を持ち帰って検討します、1週間後に返答します、では遅いですからね。
 「それでは、チャンスはないと思う。何をリクエストをしているかをきちんとつかまないといけない。リクエストがおかしい、と言っていたら選ばれない」

 ―今後のDラボの活動目標は?
 「中小企業がどんどんシリコンバレーで力を付けて、日本がシリコンバレーのエコシステムの一翼を担うようにしたい。日本って、大事な役割を果たしているよね、と。驚いたことに、『最近はシリコンバレーで日本の評価が高まっている』という趣旨の日本の記事をよく見るが、現地に身を置くとそんなことはないと感じる。シリコンバレーのエコシステムの中に日本は入ってこない」

 ―シリコンバレーのエコシステム、ですか。
 「例えばシリコンバレーの大学生が起業のアイデアをベンチャーキャピタルに持ち込み、資金調達に成功したとする。次に、試作品を作ろうという段階でどこに行くか。彼らは普通は中国にいくわけです。中国で試作品をつくり、シリコンバレーの顧客にまずテストしてもらう。フィードバックは中国企業に返す。このサイクルを何度かやって、量産する。日本の出る幕がないわけです」

 「これに割り込もうとしたら、期待されることを提供していかないといけない。そのためのタネは十分にある。あとはそれをどうアピールするか。生半可な気持ちでやってもダメ。ここで骨を埋めるという気概がないと成功しない。ライバルはみんなそうしている。苦労はするが成功した時の果実は大きいという世界。チャンスは大きい」

「技術力優位」の考えを捨てよ


 ―改めて日本企業へのメッセージをお聞かせください。
 「個人的な意見ではあるが、日本が以前のように技術的に優れているという考えは今すぐ捨てた方がいいと思う。少なくともシリコンバレーでは日本の技術が最先端だとは思われていない。今の日本は、明治初期に日本が何を行ったかを思い起こすべきではないか。開国して、世界は思った以上に先に進んでいたことを知って、何とかして急速に取り返さないと独立の危機だという時に、積極的に人を海外に派遣し、学び、徹底的に採り入れた。成功体験のある会社には非常に難しいが、現状を放っておけばどんどん外資に市場を持って行かれる。真摯に、自分たちは時代から遅れつつあるという認識を持った上で、進んだ人から学ぶ姿勢を取り返した方がいい」

 ―昨年、日本では鉄鋼メーカ-や自動車メーカーで相次いで不正が発覚し、モノづくりに対する不信感が広がりました。日本のモノづくりは自信をなくしているようにも見えます。
 「そうですね。ただ、必死になれば巻き返せる。ただ、火がつくまでは遅い。はやくそこに行き着くように、活動していきたい」

(聞き手=名古屋・杉本要)
※インタビューは1月上旬に米ラスベガスで開かれた家電・IT見本市「CES」の会場で行った。
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
最も激しい変化の場所に身を置くと、日本や日本企業に対する課題が山のように見えてくるのだろう。目に見える課題、仕事をやり遂げるという美徳は持ち続けながらも、現状を変える勇気、変わり続けるスピード感をつけなければ置いていかれる。とにかく猛烈な危機感が伝わってきた。

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