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M&Aで苦い経験を持つキリン、どうなるコカ・コーラやベトナム案件

磯崎社長に聞く。「費用対効果をよく分析」
M&Aで苦い経験を持つキリン、どうなるコカ・コーラやベトナム案件

磯崎功典社長

 赤字続きだったブラジルキリンの売却や、米国アムジェンとの合弁解消による株式売却益など“選択と集中”を推し進めるキリンホールディングス。国内は飲料事業は好調なものの酒類事業はビール需要減退もあって、コストダウンで増益を保っている状態にある。クラフトビールや健康関連事業の強化も道半ばだ。磯崎功典社長に今後の戦略を聞いた。

 ―健康関連事業を育成する方針を掲げています。
 「健康は年齢や性別を問わず、共通テーマ。治療ではなく、免疫力を高めて病気にかからないようにする“未病対策”に人々の関心も国の政策も向かいつつある。内製化だけでなく、個々のジャンルが得意な企業と組んで発展させていく」

 ―国内ビール市場が相変わらず不振です。
 「安売り規制強化の影響が徐々に効いている。低温や雨天のダメージも大きい。デフレ傾向も強く、外食や消費に回らない。2018年も厳しい状況が続くとみている」

 ―18年4月から、業務向けの酒類を値上げします。
 「ビール市場は毎年ほぼ2%減の縮小が続き、ピークだった94年と比べ、3割減になった。外国人投資家向け説明会でよく聞かれるのが『縮小市場なのに何で値上げをしないんだ?』との質問。売り上げではなく、収益を高める費用対効果の算定がますます重要になってくる」

 ―飲料ではコカ・コーラグループとの資本提携話もくすぶっています。
 「提携した場合のプラス面とマイナス面、費用対効果をよく分析することが必要だ。資本提携すると海外も含め販路は広がるが、当社の『生茶』や『午後の紅茶』を売る場合にいろいろ制約も受ける。自動販売機もコカのシステム傘下に入る必要がある。物流や販促など、できる分野の提携は進めていきたい」

 ―ベトナムの国営ビール最大手、サベコへの入札については。
 「(出資比率は)外資規制もあるため、実際には49%が限度。過半数割れで、工場のリストラや設備投資などで主導権を取ることができない。無論ライバルに渡さぬためにあえて入札する考え方もあるが、それだけの大金を投じる価値があるかどうかだ。じっくり吟味する必要がある」

 ―サベコに入札しないと、アジアや豪州全体の拡大戦略に影響が避けられないのでは。
 「地図上の観測ではミャンマーとベトナムを核に集中生産し周辺国へ販売など、好きなことが言える。実際にはアジア各国の市場はバラバラで、特性も異なる。それぞれの国に売るための専門戦略が不可欠だ。一番搾りは韓国と台湾、中国で大きく伸びている。今後も拡大したい」
(聞き手=嶋田歩)
日刊工業新聞2017年12月12日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
磯崎社長は今年、赤字続きだったブラジルキリンを清算した。苦い経験からミャンマー企業買収でもトップシェアと過半数の出資比率にこだわった。観測がくすぶるベトナム大手の買収とコカとの資本提携話でも、同じ思いがあるようだ。アムジェンとの合弁解消も含め“選択と集中”の方向ははっきりしているが、柱にする事業の強化育成にもう少し時間がかかる可能性もある。 (日刊工業新聞第ニ産業部・嶋田歩)

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